モブですけど!

ビーバー父さん

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 寮の厨房の仕事が始まって、三カ月ほど経つと少し余裕も出来てきて、三品以上作れる日も出来た。
 副菜系の常備菜みたいなのは、なるべく多くの種類をストック出来るようにして、ボリュームが足りないって言う事の無いように努めた。
 
「季節的に菜の花の煮びたしがいいなぁ。
 もう少ししたらタケノコの天ぷらにタケノコご飯、タケノコの土佐煮、鰹節が無いから土佐煮は難しいかぁ~」

 一人腕を組んで、この季節に食べられるものを想像してニマニマしていた。
 
「ラグ、菜の花って何ですか?」

「あーこっちでは、黄色い花が一杯咲く、え~っと、エーメの花だっけかな?
 食べるのは花が咲く前の緑の蕾の状態ね。
 それを茹でて、甘酢に辛子を入れて煮びたしにして、冷やして食べるの。
 ちょっとだけヒリ辛で、美味いんだよね~
 ホタルイカの酢味噌も良いけど、沖漬けもいいなぁ。」

 セバスチャンに前世の事とか話しちゃったら凄く楽になって、前世の色んな事を話すようになった。

「ラグは私より年上だったんですか?」

「ん?僕二十六歳でこっちに生まれ変わったよ。」

「では年下?ですかね?」

「セバス何歳?」

「私は今二十八です」

「十六歳から僕の世話をしていたの?」

「正確には十八歳ですね。
 二歳の頃に奥様がお亡くなりになって、私がお世話を任されましたから。」

 手は調理道具を持って、チンジャオロースを大量に炒めている僕に、私も二年は免除試験に受かってスキップしたんですよ、と付け加えてくれた。

「うん、セバスなら分かるな。
 魔法も本当に凄いし、僕の魔力暴走も治療できちゃうし」

 昼時になると戦場で、管理のおばちゃんたちがお金の受け渡しはしてくれるからこっちは作ることに徹して、二人で作りまくっていた。

「ラグ、結婚して」

 挨拶代わりに使うなよ、隊長のくせに。

「はいはい、また今度。
 今日はチンジャオボアですよ~
 コーニッシュ隊長はもっとお野菜を摂った方が良いですよ?」

 大きなお玉を持って、コテンと首を傾げた。

「ラグ、本当に結婚して?
 お願い!
 婚約だけでも良いから!」

 前髪が長いのは食品を扱う以上不衛生なので、短く、いや、ぎりぎりまで切った。
 でも、透けちゃってるし、角度によっては顔が見えてしまって、大体毎日このやり取りが第一から第五までの分隊長たちと繰り返されている。
 
「もっと大人で、コーニッシュ様に合う方がいますよ?
 きれいな女性の方が良いじゃないですか。
 お子さんだって望めますよ?」

 子供ってキーワードはいつも僕の心で引っかかる。

「俺は、ラグが欲しい!」

「それは俺たちだって同じだ!」

 なんでそこで分隊長全員揃うかなぁ。

「皆さん、お子さんを持ちたい方ばかりでしょ?
 僕は産めませんよ?」

 って言うか、今ここ寮の食堂やで?
 しかも今は戦場の様な忙しさの中での会話がコレ?

「口約束だけでいいから!!」

「それ、貴族の貴方方に通用しませんよね?」

 チンジャオボアが終わって、次は唐揚げを揚げる。
 作り置きしてる分もあるけど、なるべく温かい物を提供したいから魔法の力も借りて食べはぐれる人がいない様に気を使った。
 結構いっぺんに作れる料理が多くなっちゃって、最近思うのはお祭りの屋台みたいだなぁって。
 手間はかかるのに食べるのはあっという間のソーセージとか、休み明けの日のメニューになっていたりする。
 休み前に作って、提供は休み明けってルーティンが浸透してしまって、休み明けの食堂ははっきり言って戦場だ。
 厨房もだけど、争奪戦がエグイ。
 結構大きいソーセージにしてるのに、山盛り持って行くから一人の本数を限定するしかなくなった。
 羊にそっくりなモアの腸を使うけど、こっちで塩漬けにして加工するってところが無くて、自分でやったら結構辛かった。
 なので、今は皮なしのソーセージ―風ってところだ。
 魔法で色々錬成してラップに近い物やアルミ箔に近い物を作って、なるべく沢山作るために皮なしにした結果、それでも構わないらしいよ、ここの人達。
 
「TKGってもう出さないですか!?」

 あっちで作業をしていたセバスチャンが、騎士の誰かに聞かれたらしくTKGの在庫を聞いてきた。

「TKGは朝ごはんメニューだから、出さないよ!」

 朝も賄うってなるとどうにもこうにも大変すぎるから、朝は手抜き。
 ただこだわりのTKGランブルを作って出した結果、物凄い量が捌けた。
 毎日卵の仕入れが大変になるので、日替わりにしか出さないけど。

 最近は海苔を作る事に成功したから、おにぎりとか、焼きのりでのご飯とか、海苔の佃煮とか、朝の手間が少し軽減されると思ってる。
 干物も作る。
 これは市場の人にお願いして、作ってもらう様にした。
 セバスチャンが、製法と商標を登録をしてくれて、他には真似出来ない様にしてくれたから、かなり売り上げが入って来るようになった。
 
「唐揚げ追加出来たよ!」

 すると民族大移動みたいに、ザァッと唐揚げの盛られたコーナーへ騎士の群れが移動した。
 
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