31 / 218
30
しおりを挟む僕だけが大人の中でおままごとみたいだったんだ。
確かに美味しいご飯と思ってくれていても、十二歳の子供で更に普通より小さくて、大人びただけの子供にしか見てもらえてなかったんだ。
空回りして、必死になって、バカみたいだ。
早く働いてちゃんと稼げる様になって、大人として認めてもらいたかったんだ。
どんなに背伸びして、どんなに頑張っても見た目は子供で、モブなんて言ってるだけでどっかで顕示欲があったんだ。
モブだったらこんな事しない。
抗うからこんな事になるのかな?
「ご、めんなさい。
今夜は、親睦会って事で、楽しんで食べましょう!
僕も本当はお腹空いてたんだ。
だから、もっと美味しいもの作るから食べて行って下さい!」
「ラグ、」
「ほら、ワンタンって美味しいでしょ?
コーニッシュ様、食べて食べて!
寮のご飯より美味しいですから!
僕の自慢料理ですよ!」
「ラグ、いいから」
「皆んな、食べてくれないと、〆のうどんが入れられないですからね!」
明るく、と言うより誰の言葉も聞きたくなくて、食べさせる事に必死になった。
ヒューゴが何かを言いかけても聞きたく無かった。
「セバスチャン様も食べてないですよ?」
「ラグ!!」
「っ!
や、やだなぁ、僕の料理は、おぃしく、できてなか、った?」
泣きそうになる自分を必死に戒めた。
ヒューゴが、聞きたくない言葉を言おうとしてるのが分かる。
「ラグ、俺たちが悪かったんだ。」
「どう、して?」
「まだ、十二歳なのに」
「歳が関係、あるのです、か?」
なら必死で勉強して、学校免除資格を取って、父上の気持ちも理解しないまま平民へと降下した僕の存在って何?
「まだ、十二歳の体で大人以上に頑張る必要はないんだ。」
あー、そうだよね。
モブなら、そんなに頑張らないわ。
「そう、ですね。
ふふ、やっぱり僕はダメですね。」
ただ、何を頑張れば良いのか分からなくなってる自分を、持て余してしまった。
「ありがとうございます。
いつも逃げてた僕が頑張れる事だったから、力が入り過ぎてました。
これからはゆっくりやって行きます。
さあ、食べましょう。
気を遣わせちゃってごめんなさい。」
「そうだぞ、ラグ!
俺たちは美味い飯が食えればいいが、お前が作ってくれたもんが食いたいんだ!
それにな、子供だってちゃんと働くのは当たり前だ。
お前の心構えは俺たちが見習わないといけないんだ。
だから卑屈になるな!
そんな風に前髪で顔を隠すな!
どんな奴だってコンプレックスはある。
でもな、隠して悩むより、晒して周りの言葉なんかに傷つかない強い鎧を作れ!」
ホークが言ってくれた言葉は無骨だけど、少なからず心に響いた。
僕の体はまだ、十二歳なんだと思い知らされたんだ。
前世の記憶してる大人の自分と、この世界で生きる子供の自分との齟齬がここでハッキリした感じだった。
「ラグ様、もう、無理に隠したりしない方が良いのではないですか?
歪みがあるから、トラブルがやってくると言うのもありますよ?」
「それは、セバスの所為もあるけどな!」
笑えた。
モブになるのは、卑屈でも隠す事でも無いのかもしれない。
知っていても大丈夫な人もいるんだし、そうやってきちんと付き合い方を分けるのも大事なんだ。
むしろ誰もが僕に襲いかかるみたいな事考えてて、恥ずかしいじゃないか。
「うん、セバスの言う事も、一理あると思ったよ。
でも、まだ、無理かな。」
うん、今の形のモブを止めるのは、まだ自分の足元がしっかりしてからだよな。
蒼月フラグをきっちり折って、そっからだ。
「ラグ、これからも俺たちの飯を作ってくれよ?」
ユリアスがしばらくは独身なんだから責任取ってくれとか、十二歳の僕じゃなくて、ラグノーツの僕に言ってくれているのが嬉しかった。
「寮のご飯、頑張りますね。」
「おう、俺たちはもうラグの飯じゃなきゃ無理だから、よろしく頼むぞ!
さて、仕切り直して堪能しようぜ!」
大分煮詰まってしまった鍋に、お湯をさして薄め、また、もやしを入れたりして中身を完食した。
僕もちゃんと食べて、自分が作った物の味を確かめた。
そして、やっぱり体が大きいから、〆のうどんも完食してくれた。
「ラグ、これ美味いな。
生で卵を食べるなんて知らなかった。」
出汁で煮たうどんをすき焼きみたいに卵につけて食べて貰うと、初めてながら美味しいと言ってもらえた上に、騎士隊長達全員箸の使い方を特訓してきてたよ!
午後、あれからずっと練習してたんだって。
僕は焦るばかりで、周りが見えてなかったなって、また反省したんだ。
最後にシャーベットを出して夕飯が終わる頃、代表してロメオが金貨二枚を渡しながら、本当はこれ以上の価値があるって言ってくれた。
僕としては、一人分を小銀貨二枚くらいで出したつもりだったから、貰い過ぎだと辞退しようとした。
「今日だけだ。
皆んな、ラグの可愛い顔を見れて満足なんだから、受け取ってくれ」
ロメオに言われた。
「ロメオもコーニッシュも本気で結婚を申し込んだ、顔じゃなく性格も料理の腕も、どっちもラグじゃなきゃ申し込まなかったさ。
俺だって、その一人だから忘れるなよ?
歳の差なんて、生きてりゃその内追いつくんだからさ。
なんて言っても、後五年もしたら俺は拉致る自信があるぞ」
「イルサーク様、顔って、その上拉致…」
「ごめんな、ラグが必死に頑張って鍋を見てくれてた時、湯気で髪を掻き上げたのを皆んな見てたんだ。」
「え?、えぇ?!」
「俺も見た。
あんまり可愛くて綺麗で、泣かせたのが辛くて」
「俺も」
俺も俺もと全員が僕を伴侶にしたいと言い、皆んなして顔を赤くしながら、結婚申し込むわ、と言った。
「だがな、無体な事をするつもりはないし、ラグがちゃんと大人になるまで待つからな」
僕の顔を見ても騒がないでいてくれたのが嬉しかった。
ヒューゴはやっぱり、あの時と同じ言葉を出した。
応援ありがとうございます!
14
お気に入りに追加
2,322
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる