モブですけど!

ビーバー父さん

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 程なくして、ヒューゴが他の騎士隊長達を伴って訪れた。

 
「お待ちしていました。
 セバスチャン・ロッシでございます。」

 ちゃんと確認していなかったけど、多分他の騎士隊長たちも爵位を持ってるはずだ。
 イルサークが名誉爵位と言うくらいなんだから、騎士隊長たちは当然あると思っていい。
 セバスチャンが自己紹介したことで、向こうはそれぞれが名乗れるようになった。

「この度は無理を言って申し訳なかった。
 ホーク・ドッシュ第一分隊隊長だ。
 ちなみに三十二歳独身だ」

 この情報がいるのか、と思ったけどカワイ子ちゃん待ちはこの所為だったのかとちょっと笑えた。

「同じく第二分隊ユリアス・ドッシュ、ホークとは兄弟だ。
 独身二十九歳だ」

 兄弟とは言われないと分からないかも。
 この人もカワイ子ちゃん待ちだったな。

「同じく第四分隊長コーニッシュ・モリエンザ。
 寮の飯より、君の飯が美味い。
 結婚を前提にお付き合いしてくれ。
 二十九歳独身だ」

 すかさず、他の四人から殴られていた。
 ははは、誰に申し込んでんだよ?セバスチャンにか?

「私も!
 お付き合いして下さい!!
 第五分隊長ロメオ・アドベインです。
 三十歳独身!!」

 騎士隊長ってみんな独身なのかよ?
 寮に入ってて結婚してなくても、大事な恋人がいそうだけどな。

「最後に第三分隊長ヒューゴ・イルサーク、三十歳独身だ。
 最初に知り合ったのは俺だから、結婚を申し込むなら俺が先だな」

 ヒューゴがウィンクして見せた。
 誰にアピールしてんだか。
 十二歳の餓鬼相手じゃないよな?
 セバスチャンはブリザードを背負って笑顔を振りまいてるけど、怖い。

「今のお申し込みは冗談と聞き流しておきますね?」

「いいえ本気です!!
 主のロッシ様にまず許可を取らねばと思い、先走りましたが、正式に申し込みたい」

 え?僕だった?
 コーニッシュが本気だとばかりに、セバスチャンに許可を下さい、と頭を下げていた。
 寮の暖かいご飯で十分だ的なこと言ってたよね?

「死にたいのですか?
 死にたいんですよね?」

 セバスチャンが般若の形相になって行く。

「まあ、まあ、皆さんお腹が空いてますよね?
 今夜は鍋です!
 食べましょう!
 お口に合うと良いのですが。」

 まるでどっかの営業みたいに、その場の変な雰囲気を壊そうと必死になった。
 リビングはソファをどけて、大きな長いテーブルに変更しておいた。

 上座にセバスチャンが座り、僕は一番下座に控えた。
 同じテーブルに着く気は無かったんだけど、取り敢えず二つの鍋を騎士隊長達に、一つをセバスチャンにして、食べ方を説明した。
 土鍋は予め温めておいたから、中のもやしもすでに火が通ってるので、ワンタンを直ぐに入れて沸騰するのを待った。
 その間に、冷たいビールをジョッキで出して、箸休めに作っておいた浅漬けをツマミにしてもらい、何故か乾杯をした。
 
「我らの食事を豊かにしてくれた救世主ラグノーツに!」

 乾杯して、ビールを飲む頃には良い感じに鍋が沸騰していた。
 もやしと出汁の中をクルクルと泳ぐ様に、ワンタンが上下をし、皮がプルプルになって透けてきたら食べられるので、穴開きのお玉で掬って深皿に入れてあげた。

「熱いので火傷しないで下さいね。」 

 ガーリックの匂いも食欲を唆る。
 
「うっ、あひっ!
 あっひぃけど、美味い!
 美味いよ!」

 口の中を火傷しながら、今度はビールを流し込んで、もやしと出汁のスープも飲み込んだ。

「少し甘くて、ショウガとガーリックが物凄く食欲を唆る!!
 止まらん!」

「たくさん作ってますし、最後の〆はうどんですから、食べてくださいね」

 もやしを足しながら、ワンタンを入れ、火が通るまでビールと浅漬けで口直しをする。
 これを繰り返すと、これもまた、無限に食べられるんだよなー。

「ラグ、俺はお前と結婚したい。」

「はいはい、馬鹿言ってないできっともっと美味しい物を作れる可愛いお嫁さんが見つかりますよ。」

 何でかお嫁さんってワードで、前世の赤ちゃん出来たってアレを思い出して、一瞬苦い気持ちになった。

「デザートにシャーベットも特別に用意してますからね。」

 暗い顔をする訳には行かないから、努めて明るく皆んなが美味しく食べれる様に、注いであげたり、ワンタンを補充したりした。

「ラグも食べなさい。
 全然食べてないよね?」

 セバスチャンが目敏く言った。

「ん、ん、えっと、僕は後で食べるよ。
 なんか作ってたら、お腹いっぱいになっちゃって…」

「ラグ?
 具合悪いのか?」

 ヒューゴまで気にし始めた。

「もう、だってこれはお金が発生する食事でしょ?
 セバスならまだしも、僕は従業員として食べちゃダメじゃん!
 一応、対価をもらう以上はきちんとしなきゃダメなんだよ!」

 全部暴露して、守銭奴みたいで恥ずかしくなった。

「あー、いや、そうか。
 俺達はまだまだ、ラグを子供扱いしてたんだな。」

 ホークが、真面目に謝罪してくれた。

「ラグがきちんとお金を貰う仕事として受けてくれたのに、それを笑う様な真似をした。
 すまん。」

「いえ、良いんです。
 僕がやり過ぎたんですよ。
 気軽な知り合いとして来て頂きたい気持ちも大きいのに、お金の事ばっかりで恥ずかしくなります。」

 まだ、本格的に始動してる訳じゃないのに、何だか恥ずかしい気持ちと、ダメな自分に負けそうだった。

「恥ずかしい」

 不覚にも涙が出てしまった。
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