モブですけど!

ビーバー父さん

文字の大きさ
上 下
18 / 219

18

しおりを挟む


 夜とか夢の中とか、これからは止めて貰いたいわ。
 寝不足だし。
 朝、一番鶏ならぬ、一番コカトリスの鳴き声で起こされた。
 まだ空は薄っすら青とも紫ともつかない光に開き始めたばかりだった。

「眠い、眠いわ、クソ精霊王め!
 フラグは折れたから良いけど、次来たらギッタギタにしてやる!」

 悪態を吐けるだけ吐いて、イライラ発散に野菜を揉んだ。
 塩ふって、水気を出して絞ったら、特製の浅漬けの液に漬けて保冷庫に入れた。
 
 シジミを鍋に入れて水から煮て出汁を取ると、一度シジミを取り出してから味を整えた。
 グルグル混ぜちゃうと開いた貝の身が落ちちゃうからね。
 三つ葉の風味を持つ野菜を散らせる様にして準備をしておく。
 そして米モドキを鍋で炊くんだけど、とりあえずは普通の水量にしてみようと思う。
 秤がないから、鍋に米を入れて手のひらを漬けて手首のとこまで水を入れて火にかけた。
 炊飯器派じゃない僕は前世でもこれで炊いていたから、やってみた。

 鍋だし、うーん、あんまり冒険は出来ないから、最初から中火と弱火の間くらいで炊く事にした。
 沸騰するまではしばらくあるし、その間に厚焼き卵を焼いて、最後に一夜干しの魚を焼いた。
 米の鍋を気にしつつ、テーブルに一人一人用にお皿に盛り付けて出していると、酩酊状態のセバスチャンが起き上がってきた。

「ラグ、さま、
 ウェップ」

「セバス、これ飲んで風呂に入ってこい」

 昨日の説教をしようかと思ったけど、この状態では何を言っても無駄だろうと、少しでも酒を抜く様に風呂へ向かわせた。
 飲ませたものは、ソルマッ○と同じやつだ。
 前世ではかなりお世話になったので、効く事は身をもって知っているけど、先ずはあの味と匂いで吐き気との戦いをしなければならない。
 それを超えると爽やかな空腹が訪れるのである。

 さて、後の二人をどうするかな。

 リビングで転がってる二人がご飯の匂いに釣られて、鼻をヒクヒクさせているのが面白くて、ちょっと見入ってしまった。

「おはようございます、朝ですよ?
 お仕事は大丈夫ですかー?」

 躊躇いがちに声を掛けてみると、二人は勢いよく起き上がった。
 さすが兵士。
 訓練されてるんだな。

「イルサーク様、ヨセフ様、お仕事は大丈夫ですか?
 お休みとかなら良いんですけど……」

「やべぇ!
 俺仕事だ!」

 ヨセフが焦るから、とりあえず食事をするか聞いて時間が無いという事だから、急いでお弁当箱に詰めて、それにおにぎりを作った。
 準備に時間はかからないけど、シジミの潮汁だけ飲ませて、お弁当を持たせて見送った。

「バタバタしたな。
 イルサーク様はお休みですか?」

「ああ、俺は非番だ」

「体調はどうですか?
 二日酔いとか大丈夫ですか?」

 寝起きは不機嫌タイプなのだろうか?

「ラグノーツ、昨日は済まなかった」

「ああ、酔い潰れただけですし、大丈夫ですよ。
 僕も飲ませすぎましたね」

「いや、その、鑑定をして貴族から平民などと傲慢だと思って、侮辱した事を心から詫びる。
 申し訳なかった」

 ヒューゴは男らしく、頭を下げて謝罪した。
 例えそれが餌付けに成功した結果だとしても、味方についてくれるなら、騎士隊長という地位は頼りになるしね。

「公爵だったのだな」

「元、ですよ。
 今は平民ですから」

 鑑定の事を聞く切っ掛けをありがとう!
 だけど、酒臭過ぎて先にお風呂行ってもらおうか。

「イルサーク様、朝ご飯の準備は出来てますから、お風呂でお酒臭いのを洗い流して来てくださいよ」

 確かに酷いな、と笑ってお風呂へと向かった。
 ヒューゴと入れ替わる様にセバスチャンが上がって来て、行く前とはまた違った顔色を青くして、土下座をして来た。

「ラグノーツ様!
 大変申し訳ありません!!」 

「記憶、あるんだ」

「はい!
 本当にごめんなさい!」

 冷ややかに見下ろした。
 もっさり前髪で全く効果は無いけど、雰囲気ね、雰囲気。

「記憶操作を二人には掛けた。
 僕の顔や公爵家の事を二度というなよ?
 様も止めろ。
 分かったよな?」

「はい!
 肝に銘じます!」

「なら良い」

「ラグ、ありがとうございます」

 セバスチャンは僕からの許しを得て、顔色も態度も復活していた。

「朝ご飯の支度は済んでるから、イルサーク様が風呂から上がったら食べよう。
 ヨセフ様は仕事だと言って、もう出られたから」

「はい、手伝います!」

 シジミの潮汁を温め直しながら、ヒューゴが鑑定した事を謝罪してくれたとセバスチャンに教えた。
 セバスチャンも大分、主従関係から家族みたいな距離感になって行ってるな、と笑いながら話せた。
 ただし、昨日の顔を晒したのはガッツリ怒ったけどね。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

学校帰りに待っていた変態オヤジが俺のことを婚約者だという

拓海のり
BL
「はじめまして、大嶋渉(わたる)君。迎えに来ました」 学校帰りに待っていたスーツをきちっと着たオヤジはヘンタイだった。 タイトル少しいじっています。 ヘンタイオヤジ×元気な高校生。 拙作『姉が結婚式から逃げ出したので、身代わりにヤクザの嫁になりました』のスピンオフ作品です。これだけでも読めると思います。40000字位の短編です。 女性表現にこてこての描写がありますので、嫌な方は即ブラウザバックして下さりませ。

悪役令嬢の兄になりました。妹を更生させたら攻略対象者に迫られています。

りまり
BL
妹が生まれた日、突然前世の記憶がよみがえった。 大きくなるにつれ、この世界が前世で弟がはまっていた乙女ゲームに酷似した世界だとわかった。 俺のかわいい妹が悪役令嬢だなんて!!! 大事なことだからもう一度言うが! 妹が悪役令嬢なんてありえない! 断固として妹を悪役令嬢などにさせないためにも今から妹を正しい道に導かねばならない。 え~と……ヒロインはあちらにいるんですけど……なぜ俺に迫ってくるんですか? やめて下さい! 俺は至ってノーマルなんです!

例え何度戻ろうとも僕は悪役だ…

東間
BL
ゲームの世界に転生した留木原 夜は悪役の役目を全うした…愛した者の手によって殺害される事で…… だが、次目が覚めて鏡を見るとそこには悪役の幼い姿が…?! ゲームの世界で再び悪役を演じる夜は最後に何を手に? 攻略者したいNO1の悪魔系王子と無自覚天使系悪役公爵のすれ違い小説!

冷酷な少年に成り代わってしまった俺の話

岩永みやび
BL
気が付いたら異世界にいた主人公。それもユリスという大公家の三男に成り代わっていた。しかもユリスは「ヴィアンの氷の花」と呼ばれるほど冷酷な美少年らしい。本来のユリスがあれこれやらかしていたせいで周囲とはなんだかギクシャク。なんで俺が尻拭いをしないといけないんだ! 知識・記憶一切なしの成り代わり主人公が手探り異世界生活を送ることに。 突然性格が豹変したユリスに戸惑う周囲を翻弄しつつ異世界ライフを楽しむお話です。 ※基本ほのぼの路線です。不定期更新。冒頭から少しですが流血表現あります。苦手な方はご注意下さい。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

ただの悪役令息の従者です

白鳩 唯斗
BL
BLゲームの推し悪役令息の従者に転生した主人公のお話。 ※たまに少しグロい描写があるかもしれません。

処理中です...