モブですけど!

ビーバー父さん

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 潰してやった!
 記憶操作で僕の顔をボカシておく。
 潰すまでが大変だった。
 とにかく飲ます為にすぐに出来るツマミを片っ端から出して、飲ませた。
 ガーリックを刻んだものとナッツ類を軽く炒めて、邪魔にならない程度の砂糖と塩を熱いうちに振って絡めた物を出すと、冷えた辺りから溶けた糖分がカラメル状にナッツを包んで触感と味が面白い上に、塩とガーリックがツマミに合うんだ。
 そう言うものから、定番のポテトフライとか、マヨにマスタードを混ぜたものを野菜スティックで食べるように出したりと、どれもこれもあっという間に完食された。
 飲ませて、飲ませて、食べさせて、飲ませた。
 そして、やっと潰れてくれたんだ。


 潰れた奴らをどうするか考えたけど、頭来たから、その辺に転がす事にした。
 不本意だけど、二人を泊まらせて明日の朝確かめる事にして、僕は明日の朝ご飯の仕込みをする事にした。
 市場で米に似たものを見つけたから、試してみようと思って買ってみたから、土鍋があるといいなぁ、とか思ってみたものの、無い物は無いのでいつか作ろうと思っている。
 シジミの潮汁にするので、砂抜きをしておこう。
 魚は内臓を取って開いて、塩を振って外に軽く干しておく。
 卵は定番だけど僕は甘い厚焼き玉子が好きだから、明日はそれにする。
 こいつらが二日酔いで食べられるかは分からないけどね。

 お米は鍋で炊くことにして、僕はベッドで休む事にした。


「ふぃ~、疲れた。
 明日は何時起きかなぁ。
 二人が仕事じゃないと良いけど」

 結局どういう鑑定だったのか聞く前に違う方向でセバスチャンがやらかしてくれたしなぁ。
 誓約魔法を使ってでも、僕の事を公言しないことや二度と鑑定しない事を強制しないと。
 もう、お願いなんて言ってられないし、明日は彼らより早く起きないと……。

「ふぁぁぁ、おやすみ、なさい」

 誰に言うわけでもなかったけど、習慣だった。






「ん、あ、」

 なんだ、これ。
 体が動かない、起きないと!!
 金縛り?幽霊ってこの世界でもいるの?
 
「ん、や、ヤダ!!!
 やだー!!!」

 思いっきり叫んで、自分の声で目が覚めた。
 これはお約束のアレか!!?
 まさか、ヒューゴかヨセフ、はたまたセバスチャンが夜這いとかじゃないよな?
 目を開けてキョロキョロしたら、暗闇の中に見えたのは薄く体が発光した、幽霊!!!か?
 
「オマエ、なんでこんな所にいる?」

「は?」

「その瞳は、蒼月ダロ」

 僕はその言葉で体を固くして、警戒した。
 大体居場所なんて僕の自由だろうが。

「僕はそんな瞳は持ってないよ。
 ただ青いだけだよ?」

 何も知らないし人違いだと思わせたい。

「それよりも、不法侵入だよ。
 警備兵を呼ぶ?」

 普通に考えてこの世に発光するような人間はいないだろう。
 魔法があるんだ、人外の何かがいてもおかしくない。
 こんな事なら、あいつらを潰すんじゃなかった。
 ここで何かがあると目立つし、せっかくあいつらの記憶操作したのに意味がなくなる。

「ワタシハ、精霊王
 オマエを守護する者」
 
 ファンタジーの世界来ましたー!!
 でも若干、嫌そうなのは気のせいだろうか?
 やっぱりイケメンだけど、緑の髪はちょっと好みじゃないんだよな~。
 
「守護って、言われても僕は違いますよ」

「違わない」

 精霊王とかそういうのも面倒なフラグにしか思えないし、早々にお引き取りして頂きたい。

「はいはい、分かった。
 僕が蒼月だけど、それやる気ないから。
 モブに徹して、一生平和に生きていきたいんだけど。
 それに、自由恋愛で好きな人と愛し愛され、最期は同じお墓に入りたいんだよ」

 守護者なら、僕の幸せを祈ってくれよ。
 それに、蒼月だからってトラブルない方がお互いのためじゃん。
 それに、貴方、嫌そうじゃない?

「ワタシハ、蒼月を守護するために来た」

「で?」

「まさか、こんな残念な子供だとは……
 聞いてた蒼月は、類稀なる美しさを持った子だと言われていた」

 何だよ、さっきまで片言だったのに、急に流暢に話しやがって。

「そう、僕ってもっさりなんで、守護の必要は無いかと思いますよ?
 蒼月ってバレなければ、こんなのは狙われませんから」

 少しだけ逡巡したあと、精霊王はそうだなって納得してた。
 いよっしゃー!!

「私も、綺麗な子なら守護のしがいもあったんだが、お前なら問題ないだろ。
 これでお役御免だ、良かった、良かった」

「随分、最初と雰囲気変わりましたけど?」

「雰囲気とかシチュエーションとか大事だろ?
 お前もそんなもっさりしてなかったら、蒼月ってだけでもモテた人生だったと思うが、残念だったな。
 宝の持ち腐れだろうし、この世界が荒れないでくれるのは助かるしな。
 まぁ、せいぜい平和に生きてくれ。
 一応、精霊界は中立って事で確認した」

 大分失礼な奴だな。
 苦笑いしながら蒼月ってものが何かだけでも聞いておこうと尋ねると、この世界の聖なる力を発動する人物だとか。
 聖なる力って、そんなに必要な物でも無さそうだけどな。

「じゃ、元気で」

「守護とか言ってんのは精霊王だけ?
 もし他にもいるんだったら、こんなもっさりな小僧だから必要ないって伝えといてな」

「あぁ、そうだな。
 聖獣も守護者だし、あと、敵は魔王か」

 え?ここそんな人物設定無いよね?

「魔王なんていないですよ~」

「蒼月が美しければ、その人物を欲した者が武力を駆使するかで魔王にもなる。
 だが、これでは食指も動かんだろう。
 魔王は出現しない事がはっきりしたな。
 ある意味、お前は平和に貢献したぞ」

 ちょっと、大分失礼だよね、アンタ。
 まぁ、これで蒼月のフラグが折れるなら、それに越したことはないしね。
 さぁ、お引き取りして頂こう。

「あ、じゃぁご足労いただいてしまって申し訳なかったから、これお土産にどうぞ」

 あいつらに出したツマミ仕様とは別に、おやつとしてガーリックを抜いたナッツの砂糖掛けを作っておいたから、それを渡した。

「ん?」

「あ、気が向いたら食べてみてください」

「あぁ、ありがとう。
 ではもう会うこともないだろうが、幸せにな」

 そう言って精霊王は消えて行った。
 ふ~、やった。
 これで蒼月フラグ回避できただろう。

 安眠を妨げられたけど、その程度の犠牲で僕の人生が明るくなったんなら、安いものだと布団に入り直して眠りに落ちた。
 
 
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