モブですけど!

ビーバー父さん

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 賄で良い物を食べる事は無いかもだけど、せめて美味しい物にして欲しかったな。

 ここは調味料も豊富なはずだし。
 たまたまだったのか…………それでも、僕の求める物では無かった。

 チビリチビリとスープを飲んで、セバスチャンを待つ事にした。
 厨房には僕みたいな子供はいなくて、みんな大人ばかりだった。
 そして、正直ホッとするような顔立ちの人ばかりだった。
 うん、流石にここまでは、ゲーム設定も響いてなかったようだ。

「坊主は店内の誰かのお供なのか?」

「はい、後見人になって下さってます」

「そうか、それなら安心だ。
 従僕とかなら奴隷商に売られたりするからな」

「そんな事がここではあるんですか?!」

 なんでも、気に入らない従僕を交換するタイミングで奴隷商に売る貴族が殆どらしい。
 改めて、平民で後見人がいないと言うことが怖い事なんだと思った。
 
「おい、坊主!
 お前のご主人様はお帰りになるそうだ!
 来い!」

「はい!」

 さっきの用心棒が僕を呼びに来たので、シェフの皆さんにお礼を言って後にした。







 店の表でセバスチャンが出てくるのを待っていると、後ろから声を掛けて来た人がいた。

「おーい、坊主!
 俺だよ、朝入国審査で、会っただろ!?」

「え、あ!!
 こんばんは」

 港で入国の時に対応してくれた兵士だった。

「朝はすみせんでした」

「いいよ、いいよ、メシか?」

 兵士の隣には鑑定してくれた赤髪のごっつい兵士もいた。

「坊やのおっかない保護者はどうしたんだ?」

「いま、こちらのお店でお食事中です」

 僕を見て、そうか、仕方ないなぁ、って呟いた。
 何が仕方ないんだ?この店の貴族が?僕の服装が?それとも、セバスチャンが?

「まだ、メシ食ってないんだろ?
 俺たちもこれからなんだ、一緒に行くか?」

「ばか、ヨセフ!
 坊やは飼い主待ちしてんだから、連れて行っちゃマズイだろうが」

 赤髪の兵士が諌めた。

「でもよ、こんなちっこいのに、メシにありつけて無いなんて、可哀想だろうよ?
 騎士隊長殿も腹が減っては戦が出来ぬって言ってんじゃねーか!」

「騎士隊長っていうな!
 辞めたいんだから」

 二人の会話から、ヨセフは入国管理の兵士で、赤髪はこの国の騎士隊長らしい事が分かった。
 んー、ちょっと面倒な気がする。
 早くセバスチャン出てきてくれないかなー、と足踏みをしてしまった。

「ありがとうございました。
 またのお越しを」

 セバスチャンは見送りに、にっこり笑って会釈をし直ぐに僕の所へ来てくれた。

「ラグ!
 お待たせ!
 美味しい物食べに行こう~」

 おいおい、店の真ん前で止めろよ。

「ぶっは!
 おっと、失礼!!
 朝はお手間を取らせました、私、騎士隊長のヒューゴ・イルサークと申します。
 以後お見知り置きを」

 赤髪の騎士隊長は家名まで名乗ったと言う事は、貴族なんだ。
 もう、面倒くさいフラグが立った気がした。

「ご丁寧に。
 男爵様でしたか」

「まあ、名誉爵位なんで本当の貴族では無いですけどね。 
 ですから、こちらから名乗ってしまった事、ご容赦ください」

 言外の応戦が怖くて何も口出ししなかった。

「所で、ラグノーツ君を食事に誘いたいのですが、宜しいでしょうか?」

 タコマークを作ったセバスチャンが、私もご一緒させて頂けますか?と丁寧に聞いてるし!

「庶民の味でお口に合うかどうか」

「構いませんよ、ラグが美味しく食べられるなら」

 何でそこで急に僕を見て微笑むの!

「なら坊や、行こうか」

 ヒューゴはいきなり僕の手を握って歩き出した。
 ズキンと痛んだ。

「あ!」

「ん?どうした?」

 さっき突き飛ばされた時に擦りむいていたんだ。

「怪我してんのか」

「ラグ、さっきのですか?」

 セバスチャンが急いで僕の前で跪いて怪我の具合を見た。

「た、いした事、無いです!」

 跪いちゃダメだ!

「よし!俺が連れて行こう!」

 ヒューゴがセバスチャンが立ちやすい様に、僕を抱き上げて腕に座る様に持ち上げてくれた。

「ロッシ様、目立っちゃいますから、その上着脱いでくださいよ」

 ヒューゴは笑いながら僕たちのやり取りが、貴族としてはNGだと告げた。

 「イルサークさま、すみません」

 ヒューゴは大きな手で僕の背中をさすって、大丈夫だから落ち着けと言ってくれた。
 僕は平民の方が自由だと思っていたけど、どちらもそれぞれのテリトリーで、不自由なんだと感じたんだ。
 身分のない世界で生きたことのある僕は、父上の時みたいに、偏った目線でしかものを見ていなかった事を恥じた。

「イルサーク様、ラグは私が」
「いやいや、軽い!
 この子は軽いなぁ」

 ヒューゴは態と大きな声で、僕が軽いと言い始めた。

「僕は軽くなんかないですよ?
 もう、十二歳だし、結構重いですよ?」

「軽いさ。
 貴族から平民になろうなんて、簡単じゃないのに、軽く考えてるんだろ?」

 っ!なんで?

「イルサーク様?
 何を仰ってますか?」

 セバスチャンが表情を険しくした。

「軽くなんか…………」

 今まで頑張った事を否定された気分だった。
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