モブですけど!

ビーバー父さん

文字の大きさ
上 下
7 / 219

7

しおりを挟む


 有難いことに、他の六年生の試験を見学する事が出来た。
 これなら対策も出来る。

「あー!
 ラグノーツ君! 
 ペーパーテストは合格したんだね、凄いじゃん!!」

 テスト前に会った紫色のシュタインがこっちに手を振りながら爽やかに駆けて来た。
 ゲッ、めんどくさ!と内心思いながら、口元を上げてから頭を下げた。

「あれ、髪の毛焦げてチリチリになってるけど、どうしたの?」

「え、あ、あの、ちょっと絡まれてしまって……、でも、教官に助けて頂きました」

「傷んだとこ、切ったら?
 顔も良く分からないし、前髪も切っちゃいなよ」

「や、いいです、いいです!
 人見知りだし、この方が落ち着くし、それに酷い傷痕があるんで、隠してるんです!」

「あ、ごめん、ごめんね!」

 無神経だったと謝ってくれた。
 そうね、そう思うよ、僕もさ。

「だ、大丈夫、ですから」

 そう言えばさっき駆けて来る時、ペーパーは合格したんだって言われたけど、いつ発表があったんだろ?

「合格発表があったんですか?」

「え?言われてないの?
 実技会場に向かえるのは、ペーパーテストに合格した人だけなんだよ。
 教室に魔法が掛けられてて、リタイヤか合格者しか出られないから、すぐ分かるよ」

 聞いてないよ!
 落ちるとは思ってなかったけど、合格くらい言ってくれよ!

「じ、じゃあ、僕、受かったんだ……
 やった、嬉しい」

 小さくガッツポーズをした。

「ペーパーテストは六年生なら受かるのが当たり前だけど、入学前の子が受かるのは初めてじゃないかな。
 実技は魔力量も関係するから、流石に十二歳では難しいと思うよ、残念だけど」

 普通ならそうだ。
 学校に入ってから、魔法を学んで少しずつ魔力量を増やして行くのが普通だし。
 でも僕は自由恋愛のために!この二年間ガムシャラに魔力を鍛え上げたんだ。
 マッチョなオネェ神様に貰ったスキルでね。
 モブになるのが一番。

「やれるだけやります。
 僕も少しは特訓して来たんで!」

 少しどころじゃ無い。
 血の滲むような努力をした。
 父上との約束もあるし、合格しないとダメなんだ。

 話してる間に試験は進んで行った。
 土魔法で防御の壁を作る人もいれば、大量の矢を一気に放つ人もいた。

 その場で教官から言われた事に対する答えとして、魔法を繰り出す様だった。
 的とか関係ないじゃん。

 ここでも合否判定はその場で行われていた。
 ただ成績は後から発表されるらしく、卒業が決まるだけなんだとか。
 まあ、在学生にとっては成績も重要だろうけど、僕は学校免除が貰えたらそれでよかった。

 六年生の試験が大分進んで、あと十数人の所で、紫色が呼ばれた。

「シュタイン君、属性は風か。
 ならば、竜巻をそれぞれの大きさで十個、六個以上で合格だ。
 大きさはこの会場の半分以上から、だ」

 かなり緻密な魔力操作が必要になるんだ。

 紫色は最初からこの会場一杯の竜巻を作り、次にサイズを小さくして、二個目を作った。
 うん、これくらいなら普通かな。
 竜巻に巻き込まれない様に、多分教官の誰かが結界を張っているみたいで、会場以上にはならなかった。
 その中で六個以上作るって、紫色大変だなあ。
 砂埃とか考えたら自分にも結界を張っておかないとダメだし、これ、竜巻を出しつつ数個を作り制御って事だもんな。
 試しに僕も手の上でバスケットボールサイズの結界を作り、その中で同じ様に竜巻を制御してみた。
 結界内に僕がいるわけじゃないから、条件は違うけど、階段状に竜巻を並べてみたり、跳び箱をするみたいに、中で竜巻を入れ替えたりしてみた。
 うん、これくらいなら大した事ないな。
 確認した所で、紫色の試験が終わったようだ。
 会場から出て行く時にガッツポーズを決めていたから、合格判定だったんだな。
 僕はまだ残ってる六年生の試験を見ながら、全部試してみた。
 バスケットボールサイズの結界の中で水を出して、水芸をしてみたりその中を幻影のイルカを泳がせたり、木や草を生やして花畑を作ったり、幻獣を召喚してみたりとミニチュアの魔法を試していた。
 
 僕はモブになる為に頑張った事が、実は目立っていた事に気づいていなかったんだ。
 小さなサイズだからこれなら誰でも出来るだろと思っていた事が、実はこれおかしい事だったんだって。
 自分が呼ばれるまで分からなかったんだ。
 生徒じゃないから、属性は自己申告だったのに!

 アホだ、僕!
 試験に受かる事で頭が一杯で、全属性使えるって自分でバラしたようなもんじゃん!!

「ラグノーツ君、属性は水になってますけど、先程から他の生徒の試験内容を全てやって見せてくれてましたよね?」

「え、あ!」

 見られていた!?

「しかも、結界まで作って」

「あの、」

 ここで過小評価した答えをしたら合格を逃すかもしれない。
 でも、出来る発言をしたら面倒な事にしかならないのは、火を見るよりも明らかだった。
 どうする!僕!
 
「水属性に、風はほぼ無理だろう。
 土魔法に、光魔法、果ては召喚術をミニチュアサイズで展開など有り得ない!」

 声を荒げたのは、僕を誘導してくれた教官だった。
 
「僕、不合格ですか?」

 もう、属性だなんだの前に、合格させてくれさえすれば良いんだ!
 グダグダ言ってんなよ!

「合否で言えば、合格だ。
 だが、国家に関わる事だから、報告をしなければならない。
 君の身元も調べる」

 困る!本当に困る!
 記憶操作!これしかない!

 居並ぶ教官達に記憶操作の魔法を掛けた。

「僕は、水魔法で合格できましたか?」

「あ、ああ、君は合格だ」

 免除試験、最初から記憶操作ですれば良かったかも、と狡い事を考えた瞬間だった。
しおりを挟む
感想 47

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

傷だらけの僕は空をみる

猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。 生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。 諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。 身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。 ハッピーエンドです。 若干の胸くそが出てきます。 ちょっと痛い表現出てくるかもです。

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい

戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。 人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください! チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!! ※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。 番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」 「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824

王道学園なのに、王道じゃない!!

主食は、blです。
BL
今作品の主人公、レイは6歳の時に自身の前世が、陰キャの腐男子だったことを思い出す。 レイは、自身のいる世界が前世、ハマりにハマっていた『転校生は愛され優等生.ᐟ‪‪.ᐟ』の世界だと気付き、腐男子として、美形×転校生のBのLを見て楽しもうと思っていたが…

処理中です...