モブですけど!

ビーバー父さん

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 有難いことに、他の六年生の試験を見学する事が出来た。
 これなら対策も出来る。

「あー!
 ラグノーツ君! 
 ペーパーテストは合格したんだね、凄いじゃん!!」

 テスト前に会った紫色のシュタインがこっちに手を振りながら爽やかに駆けて来た。
 ゲッ、めんどくさ!と内心思いながら、口元を上げてから頭を下げた。

「あれ、髪の毛焦げてチリチリになってるけど、どうしたの?」

「え、あ、あの、ちょっと絡まれてしまって……、でも、教官に助けて頂きました」

「傷んだとこ、切ったら?
 顔も良く分からないし、前髪も切っちゃいなよ」

「や、いいです、いいです!
 人見知りだし、この方が落ち着くし、それに酷い傷痕があるんで、隠してるんです!」

「あ、ごめん、ごめんね!」

 無神経だったと謝ってくれた。
 そうね、そう思うよ、僕もさ。

「だ、大丈夫、ですから」

 そう言えばさっき駆けて来る時、ペーパーは合格したんだって言われたけど、いつ発表があったんだろ?

「合格発表があったんですか?」

「え?言われてないの?
 実技会場に向かえるのは、ペーパーテストに合格した人だけなんだよ。
 教室に魔法が掛けられてて、リタイヤか合格者しか出られないから、すぐ分かるよ」

 聞いてないよ!
 落ちるとは思ってなかったけど、合格くらい言ってくれよ!

「じ、じゃあ、僕、受かったんだ……
 やった、嬉しい」

 小さくガッツポーズをした。

「ペーパーテストは六年生なら受かるのが当たり前だけど、入学前の子が受かるのは初めてじゃないかな。
 実技は魔力量も関係するから、流石に十二歳では難しいと思うよ、残念だけど」

 普通ならそうだ。
 学校に入ってから、魔法を学んで少しずつ魔力量を増やして行くのが普通だし。
 でも僕は自由恋愛のために!この二年間ガムシャラに魔力を鍛え上げたんだ。
 マッチョなオネェ神様に貰ったスキルでね。
 モブになるのが一番。

「やれるだけやります。
 僕も少しは特訓して来たんで!」

 少しどころじゃ無い。
 血の滲むような努力をした。
 父上との約束もあるし、合格しないとダメなんだ。

 話してる間に試験は進んで行った。
 土魔法で防御の壁を作る人もいれば、大量の矢を一気に放つ人もいた。

 その場で教官から言われた事に対する答えとして、魔法を繰り出す様だった。
 的とか関係ないじゃん。

 ここでも合否判定はその場で行われていた。
 ただ成績は後から発表されるらしく、卒業が決まるだけなんだとか。
 まあ、在学生にとっては成績も重要だろうけど、僕は学校免除が貰えたらそれでよかった。

 六年生の試験が大分進んで、あと十数人の所で、紫色が呼ばれた。

「シュタイン君、属性は風か。
 ならば、竜巻をそれぞれの大きさで十個、六個以上で合格だ。
 大きさはこの会場の半分以上から、だ」

 かなり緻密な魔力操作が必要になるんだ。

 紫色は最初からこの会場一杯の竜巻を作り、次にサイズを小さくして、二個目を作った。
 うん、これくらいなら普通かな。
 竜巻に巻き込まれない様に、多分教官の誰かが結界を張っているみたいで、会場以上にはならなかった。
 その中で六個以上作るって、紫色大変だなあ。
 砂埃とか考えたら自分にも結界を張っておかないとダメだし、これ、竜巻を出しつつ数個を作り制御って事だもんな。
 試しに僕も手の上でバスケットボールサイズの結界を作り、その中で同じ様に竜巻を制御してみた。
 結界内に僕がいるわけじゃないから、条件は違うけど、階段状に竜巻を並べてみたり、跳び箱をするみたいに、中で竜巻を入れ替えたりしてみた。
 うん、これくらいなら大した事ないな。
 確認した所で、紫色の試験が終わったようだ。
 会場から出て行く時にガッツポーズを決めていたから、合格判定だったんだな。
 僕はまだ残ってる六年生の試験を見ながら、全部試してみた。
 バスケットボールサイズの結界の中で水を出して、水芸をしてみたりその中を幻影のイルカを泳がせたり、木や草を生やして花畑を作ったり、幻獣を召喚してみたりとミニチュアの魔法を試していた。
 
 僕はモブになる為に頑張った事が、実は目立っていた事に気づいていなかったんだ。
 小さなサイズだからこれなら誰でも出来るだろと思っていた事が、実はこれおかしい事だったんだって。
 自分が呼ばれるまで分からなかったんだ。
 生徒じゃないから、属性は自己申告だったのに!

 アホだ、僕!
 試験に受かる事で頭が一杯で、全属性使えるって自分でバラしたようなもんじゃん!!

「ラグノーツ君、属性は水になってますけど、先程から他の生徒の試験内容を全てやって見せてくれてましたよね?」

「え、あ!」

 見られていた!?

「しかも、結界まで作って」

「あの、」

 ここで過小評価した答えをしたら合格を逃すかもしれない。
 でも、出来る発言をしたら面倒な事にしかならないのは、火を見るよりも明らかだった。
 どうする!僕!
 
「水属性に、風はほぼ無理だろう。
 土魔法に、光魔法、果ては召喚術をミニチュアサイズで展開など有り得ない!」

 声を荒げたのは、僕を誘導してくれた教官だった。
 
「僕、不合格ですか?」

 もう、属性だなんだの前に、合格させてくれさえすれば良いんだ!
 グダグダ言ってんなよ!

「合否で言えば、合格だ。
 だが、国家に関わる事だから、報告をしなければならない。
 君の身元も調べる」

 困る!本当に困る!
 記憶操作!これしかない!

 居並ぶ教官達に記憶操作の魔法を掛けた。

「僕は、水魔法で合格できましたか?」

「あ、ああ、君は合格だ」

 免除試験、最初から記憶操作ですれば良かったかも、と狡い事を考えた瞬間だった。
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