モブですけど!

ビーバー父さん

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 二年は長いようであっという間だった。

 毎日必死で勉強して、魔法もたくさん習得した。
 諸外国の言語や習慣、歴史、最初に目標としたものは全て習得した。
 そして夜は抜け出してバイトもした。
 
 これで学校は免除になる。
 免除になる為の試験を受けないといけないけど、たった一日で僕の人生が変わるなら全力で取り組むさ。
 受かるつもりだしな。

「ラグノーツ様、この二年で随分逞しくなられました。
 そして何より、素晴らしく美しくなられました」

 十二歳なんてまだまだ餓鬼じゃん。

 ただ髪を伸ばしただけだ。
 こめかみの傷は、残念な事にしっかり残ったから隠すために、そして、モブに徹するために顔をあまり見せない様に伸ばした。
 特に前髪はかなり伸ばして、特に瞳を隠すことにした。
 スキルを使えばいつだって傷を消す事なんか簡単に出来るけど、それは逃げ終わってからでいい。
 最初は眼鏡なんかも考えたけど、この世界にはあまり眼鏡属性はいないから、却って目立つ気がした。
 学校の規則に頭髪の規定は無かったし、大体のキャラが長髪で色んな髪色がいたからね。
 僕がちょっと良いなって思ったキャラは、なじみのある髪色だったけど、その他の攻略キャラは草色だったりピンクだったり、グラデだったり人外かって色ばかりだった。
 僕自身も銀髪とかちょっと!って言いたい色だけどさ。
 そう言う意味では、婚約破棄したロシアスは普通に金髪だった。
 金髪が普通に思える世界って……、笑える。

「セバス、いよいよ明日は試験の日だ。
 それが済めば晴れて僕はこの家を出る。
 明日まで、よろしく頼むね」

「もし、もし明日の試験が不合格なら、どうなさるんですか?」

 学校免除の試験が通らないと、学校へ通う事になる。
 そうなると、あの父上の持ってくる縁談に従わざる負えないだろう。

「どっかのヒヒ爺の元へ嫁せられるだけだ」

 父上にとって利益になる相手にね。
 そうなったら、ゴーレムでも作って逃げ出すけど、それは言わない。
 だから、明日は絶対に失敗出来ないんだ。

「明日は正装しますか?」

「いや、試験が受かればその足で出て行く。
 正装は必要ない。
 庶民の服を準備しておいてくれ」

 セバスチャンは寂し気に、畏まりました、とだけ告げて部屋を出て行った。


 明日からの行き先はもう決めてある。
 この二年間、夜に抜け出して街の食堂で変装してバイトもした。
 そのお陰で飲食業を営むには良い伝手も出来た。
 食材を卸す商人や、酒造りをしている醸造職人、外国との貿易をしている高官なんかとも話すことが出来た。
 
 まずは外国へ行ってその国の料理を勉強する事にしてる。
 だから、明日の夜出港する船を押さえてあるんだ。
 






 いよいよだ。
 
 まだ十二歳、されど十二歳。
 自由恋愛の為に!

 試験を受けるために学校へ行くと、免除試験って六年生の卒業試験なんじゃん!!
 免除試験だから、生徒なんか殆どいないだろうって思っていたのに、普通にいたわ。
 しかも、卒業試験が免除とスキップを兼ねてて、在学生も普通にいた。

 庶民の服装で良かった。

「あれ?
 君、どうしたの?
 入学式はまだ先でしょ? 
 あー、学校見学?」

 頭が紫色の爽やかイケメンが、僕を見て新一年生だと思ったようだ。

「いえ、免除試験を受けにきました」

 いかにも小動物系なオドオド、ビクビクの俯き加減で、会場に行きたいと言った。

「えー?!
 免除試験って、俺らの卒業試験じゃん!!」

 そうだよ、それがなにか?
 遅刻したら洒落になんないんだから案内するか、離すかしてくれよ!

「あの、お願いです。
 僕、学校へ通えないので免除試験を受けて、早く働きたいのです。
 免除試験に合格すれば、良い就職先を斡旋してもらえるから」

 嘘じゃ無い。
 斡旋はしてもらわなくて良いけど。
 要は、大検みたいなもんだ。
 行ってないけど、卒業資格はあるよ、って事でどこでも通用する。

「分かった!
 教官に聞いて、受ける教室に連れて行ってあげるよ、名前は?」

 貴族の家名を名乗るつもりはないし、試験に落ちたら恥だからと父上から家名を名乗るなと厳命を受けていた。

「ラグノーツ、と申します。
 家名はありません」

 この家名が無いって事が平民だと告げていた。

「ラグノーツ君だね。
 あ、先生!
 この子免除試験受けにきたって!」

近くの教室にいた教官に紫色は能天気な声を掛けた。

「シュタイン君、ありがとう。
 ラグノーツ君だね。
 免除試験は君だけだから、すぐ分かったよ」

 教官は砂色に砂金を混ぜた様な髪色で、美形だった。
 ゲームに出てきそうな、軍服が似合うサドっぽいイケメンだった。
 あ、これもゲームじゃん。

「はい、よろしくお願いします」

「うむ、了解した。
 シュタイン君はここまでです。
 自分の教室に戻りなさい」

「えー、俺もラグノーツ君を案内したいですー!」

「自分の卒業試験があるだろ!
 留年する気か?」

「いえ、そんな気はナイデス」

 十八歳で僕と違って大分大人なはずなのに、言ってる事も、態度も子供みたいだった。
 
「ありがとうございます。
 僕、こちらの教官に着いて行きますから大丈夫です。
 試験、がんばって下さいね」

 はっきりしない顔立ちでも、口元の広角を上げてあげれば、笑顔に見える。

「うわー、ラグノーツ君優しいね~」

「早く行け!」

「はーい」

 渋々、シュタインと呼ばれた紫色はこの場を離れ、僕はこの教官に連れられて、他のスキップで受ける人達がいる教室へ案内された。
 
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