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【創作BL/SF】ボトルが落ちたその先で

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 狭い研究室で資料をまとめていたせいか、僕の脳裏に瓶に入った手紙の図が思い浮かんだ。写真だか絵で見たことがある。固有の名称があるのかどうか、僕は知らなかった。
「手紙を瓶に入れて海や川に流す行為に名称はあるのかな?」
 僕の研究成果をまとめたデータは間もなく完成する。僕はふっと息をつき、傍らに控える貢に尋ねた。
「ボトルメール、またはmessage in a bottleと呼ばれた文化だ。数百年前に実際に行われていた」
「ああ、フィクションじゃないんだ」
 貢は僕が制作した青年型ロボットだ。現時点で最高峰のAIによって思考し、あらゆる疑問に答え、助手として僕の研究を何度となく助けてくれた。
「不思議な感じ。メッセージを紙で伝達するなんて最近はほとんど行われていないでしょ。それに放流するってことは、読む人がいるのかもそれが誰であるかも分からないってことだ」
 僕は研究データを端末に保存する。
「そういうことになるな」
 それからコピーを小型の外部記録媒体に移し、記録媒体そのものは強化金属で作られた保管容器に入れた。熱にも寒さにも強く、宇宙空間に放り出しても簡単には壊れないと謳われている代物だ。
「そのランダム性がロマンだったっていうんなら、分からなくもない」
「劉博士」
「今の僕がやっていることに似てるじゃない?」
「劉博士」
 作業を終えて椅子ごと振り返った僕の肩を、貢ががっちりと掴んだ。貢の眉間にはロボットらしからぬ深い皺が刻まれていた。
「逃げよう」
「どこにさ」
 僕は笑う。皮肉ではない。素直に貢をいじらしく感じたのだ。貢は歯を食いしばり、沈黙した。彼でさえ答えられない疑問。
「博士を――守りたい、のに」
 僕は貢の腕にそっと手を添えた。貢のボディは強靱だ。多少の物理的衝撃ではびくともしない。
「漂う手紙を見つけて、手にとって読むって、かなり運命感じない?」
 けれど今夜は、貢の背中も僕たちを守れない。微かな地響きと共に研究室の備品がカタカタと震えた。
「僕の研究もいつか誰かに見つけてもらえたらいいな」
「俺は無力だ……!」
「そんなことない。心強いよ」
 貢の腕の中にいれば信じられる。偶然によって流れ、偶然によって拾われるボトルメールのように、僕ら二人もまた巡り会えると。
「時間だ」
 落ちてくる。隕石が。目の前が真っ白になった。



(了)230527
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