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623.お化け屋敷チャレンジの小話
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「はーるーみ。はい」
係員に案内されて暗がりに入るや、湊は晴海に向かって手を差し出した。晴海は物も言わずに頷いて、湊の手を握る。
「よし、行ってみよう」
湊は意気揚々と歩き出す。そこは遊園地のウォークスルータイプのお化け屋敷だった。入園前から晴海が「ぜってーヤダ」と宣言していたアトラクションに突入することになったのは、記念スタンプラリーのスタンプがあろうことかお化け屋敷の中にあったからだ。湊だけで押してくると提案したのだが、晴海は「湊が行くならオレも行く……っ」と青ざめつつ譲らなかった。
「暗いねえ。晴海、転ばないようにちゃんとくっついててね」
「くっついてる」
前の組に追いついてしまわないよう、各組が一定の間隔を開けて案内されているものの、同じ空間内のことではある。そこかしこから他の客の悲鳴が聞こえてくる。
「あっ、赤ちゃんの泣き声」
湊の肩に寄り添った晴海の肩が、びくりと跳ねる。胸中の絶叫が聞こえてくるような気がする。
「うおおお耳って塞げねーからタチ悪ィ……」
「ごめんね、晴海。外に出たらアイス奢るね」
「……なんで湊が謝んの」
晴海は不思議そうに首を傾げる。べたべたとお札がが貼られた部屋を抜ける。これは音がないので目を開けなければ分からない。
「つか湊、楽しそうじゃね? たのしー?」
「ふふふ、スルドイ」
声だけで気取られてしまったらしい。さすがは晴海だ。
「っし。湊がたのしーならオレはがんばる」
晴海はぐっと顔を上げる。ただし目は閉じたままだ。
「ありがとう」
湊が謝罪したのは、湊ばかりがいい思いをしてしまった自覚があるからだ。晴海の手を握り直す。足下を気遣い、ゆっくりと前進する。
(ごめんね。ほんとに)
きゅっと目を瞑って湊の手に導かれる晴海は、かわいそうでとてもかわいい。
(了)230813
係員に案内されて暗がりに入るや、湊は晴海に向かって手を差し出した。晴海は物も言わずに頷いて、湊の手を握る。
「よし、行ってみよう」
湊は意気揚々と歩き出す。そこは遊園地のウォークスルータイプのお化け屋敷だった。入園前から晴海が「ぜってーヤダ」と宣言していたアトラクションに突入することになったのは、記念スタンプラリーのスタンプがあろうことかお化け屋敷の中にあったからだ。湊だけで押してくると提案したのだが、晴海は「湊が行くならオレも行く……っ」と青ざめつつ譲らなかった。
「暗いねえ。晴海、転ばないようにちゃんとくっついててね」
「くっついてる」
前の組に追いついてしまわないよう、各組が一定の間隔を開けて案内されているものの、同じ空間内のことではある。そこかしこから他の客の悲鳴が聞こえてくる。
「あっ、赤ちゃんの泣き声」
湊の肩に寄り添った晴海の肩が、びくりと跳ねる。胸中の絶叫が聞こえてくるような気がする。
「うおおお耳って塞げねーからタチ悪ィ……」
「ごめんね、晴海。外に出たらアイス奢るね」
「……なんで湊が謝んの」
晴海は不思議そうに首を傾げる。べたべたとお札がが貼られた部屋を抜ける。これは音がないので目を開けなければ分からない。
「つか湊、楽しそうじゃね? たのしー?」
「ふふふ、スルドイ」
声だけで気取られてしまったらしい。さすがは晴海だ。
「っし。湊がたのしーならオレはがんばる」
晴海はぐっと顔を上げる。ただし目は閉じたままだ。
「ありがとう」
湊が謝罪したのは、湊ばかりがいい思いをしてしまった自覚があるからだ。晴海の手を握り直す。足下を気遣い、ゆっくりと前進する。
(ごめんね。ほんとに)
きゅっと目を瞑って湊の手に導かれる晴海は、かわいそうでとてもかわいい。
(了)230813
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見つけてから、ゆっくり読ませてもらっています。晴海と湊のほのぼのした雰囲気が大好きです。(●´ω`●) 残り100話になりました!
ちかさんこんにちは!ゆるふわ小話をご覧いただきましてありがとうございます…!たくさん読んでいただけてたいへんたいへん嬉しいです😢
二人の雰囲気を少しでもお楽しみいただけましたら幸いです…!!
426話の晴海のセリフ、『晴海』→『湊』ですよ~!
教えていただきありがとうございます!修正させていただきました。たいへん助かりました…!
読み始め(まだ二話目)ですが、既に可愛い2人できゅんきゅん、これは絶対に私がハマるやつ!と思ったので最新話まで読めてませんがコメント残してしまいました。
他校の生徒に合宿参加したいって言われた部長さんにもその戸惑いは間違ってないよ!とエールを送りたくなりました!笑
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