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152.わたつみの小話(day10「水中花」) #ノベルバー
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こんな夢を見た。
晴海は潜っていた。水面に向かう気泡とは真反対の方向に、深く、深く。薄青色の水は見通しが悪かった。何度も目を眇めて行く手を確認する。温い水が全身を包む。水面を離れれば離れるほど、なぜか鼓動が高鳴った。
この先に何かがある。
その確信は進むほど強まった。少しずつ暗くなってゆくと思われた視界が、いつからかぼんやりと明るみ始めたのだ。光源を目指して手足を動かす。やがて海藻が揺れる水底が見えた――と同時に、晴海は光の来し方を知った。
花が咲いていた。淡くぼんやりと輝きを放つ花だった。
「ずっと君を待ってた」
花は笑みを含んだ唇をすうと開いた。穏やかな瞳が晴海を見上げる。身じろぎをした白い足に幾重にも藻が絡んでいた。
「僕はここから動けないから」
「ああ――もう大丈夫だ」
差し伸べられた手を握る。花は光る。水底の砂に根を生やし、光なき海の灯台のように。
(了)
晴海は潜っていた。水面に向かう気泡とは真反対の方向に、深く、深く。薄青色の水は見通しが悪かった。何度も目を眇めて行く手を確認する。温い水が全身を包む。水面を離れれば離れるほど、なぜか鼓動が高鳴った。
この先に何かがある。
その確信は進むほど強まった。少しずつ暗くなってゆくと思われた視界が、いつからかぼんやりと明るみ始めたのだ。光源を目指して手足を動かす。やがて海藻が揺れる水底が見えた――と同時に、晴海は光の来し方を知った。
花が咲いていた。淡くぼんやりと輝きを放つ花だった。
「ずっと君を待ってた」
花は笑みを含んだ唇をすうと開いた。穏やかな瞳が晴海を見上げる。身じろぎをした白い足に幾重にも藻が絡んでいた。
「僕はここから動けないから」
「ああ――もう大丈夫だ」
差し伸べられた手を握る。花は光る。水底の砂に根を生やし、光なき海の灯台のように。
(了)
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