【共依存DK】幼なじみのハルミナト

りつ

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100.君に僕だけのお月さまでいてほしい小話(第1回《うちの子》推し会!お題「お月見」参加作)

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「月が大きくなってきたね」
 徐々に暮れつつある空に白い月が架かっていた。限りなく満月に近い月齢だ。九月の月は美しいと言われるが、中秋の名月までもう間もない。
「晴海、今年もお月見する?」
 湊は隣を歩く幼なじみを見上げる。晴海と湊の予定が合う年には、ベランダから月を見上げて団子を摘むお月見もどきを開催しているのだ。妹が参加したり、芒があったりなかったり、形は毎年まちまちだった。
「月餅でいいならやる」
「手作りするならふつうのお団子が簡単だけど」
「オレが買ってく。断然アンコに存在しててほしーんだよな」
 甘党の晴海らしい。その辺りに拘りはない。いいようにお任せである。
「じゃあ決行ってことで。今年も月が二つ、贅沢だなー」
「月が二つ……あー、オレ?」
 "月"島晴海は人差し指を自分に向ける。
「そう、晴海。僕がお月見できる第二の月」
「……月の定義は、惑星の引力に掴まった天体ってことだろ」
 大まかな定義としてはそういうことになる。エウロパは木星の月だし、タイタンは土星の月だ。いわゆる地球の月も、つまりは地球の引力に捉えられ、地球の周りを公転する天体である。
「オレが掴まってんのは地球じゃねーから、地球の月はイッコのままです」
「晴海が掴まってるの」
 今度は湊が人差し指を自分に向ける。
「僕?」
 長身の晴海は、少しだけ背を丸め、湊の目と鼻の先でにんまりと笑った。口の端から大きな犬歯が覗く。その笑い方を湊はとても好ましいと思う。
「そう。湊」
「いいね。地球の月と、僕の月だ」
 逆にいえば、地球の引力から外れてしまえば月は月ではなくなる。実際に地球の引力に小惑星が捉えられ、第一の月と第二の月――ミニ・ムーン――が存在していた時期もあったらしいが、一時的なもので終わっている。湊は晴海の背負うバックパックをきゅっと掴んだ。
「しっかり掴まえとこ」
「心配無用すぎ。湊の引力ハンパねーもん。あっ待てよ、むしろ老若男女捉えまくっちまってヤベーやつじゃん……!」
「それこそ心配無用じゃない?」
 かつて第二の月が地球の軌道から去った原因は、第一の月が持つ重力の影響だったと分析されている。地球の月は今もひとつだ。地球が湊と同じ考えかは知らないが、湊は晴海がいればそれでいい。第一の月、唯一の月。それだけで充分に満ち足りていた。




(了)210919
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