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鳥籠の花
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天井から吊るされた鳥籠が揺れていた。鉄扉は溢れんばかりの花を擁して鎖されている。桃や菫や山吹。格子の間から落ちた花弁を、唐梅はぎゅっと握り込んだ。同時に目白が体の中に入ってくる。
「ふぁあ、ん」
「唐梅」
目白は唐梅の首筋から耳にかけてを執拗に舐める。ざらりとした感触が肌のうえを往復するたびに唐梅は達してしまいそうになる。けれどもそれだけでは刺激が足りず、すんでのところで最後まで行けない。そこじゃなあい、唐梅は甘えた声を上げた。
「イイとこ、突いてよう」
「後ろだけでいいの?」
唐梅の体をそう作り上げたのは目白だ。目白は今まで丹念に唐梅の体を調べてきた。性急さは無く、幾度も体を重ねながら、その度に手を着ける場所とやり方を変えて試した。
「目白で、いっぱいにして」
唐梅の具合を知り尽くした目白は、もう唐梅をどうにでも出来る。寸止めされると気が狂いそうになるし、解放される瞬間は火花が散るほど気持ちがいいし、もっともっと欲しくなる。
「あうっ、あっ、あんっ」
「どんどん垂れてくる」
目白の人差し指が唐梅の先端から根本までをつるりと撫で下ろした。
「触っ、たらぁ、出ちゃぁうっ」
嬌声を上げても誰にも聞かれない。目白の小さな部屋。花が詰まった無数の鳥籠、噎せ返るような芳香。
(昔は、外に、住んでたんだっけ)
春霞の山が脳裏に浮かんだ。唐梅の住処は緑の美しい渓谷だった。
花の蜜を好む目白にとって、花振りの良いその辺りは恰好の餌場だったのだろう。しばしば摘み食いする姿を見かけた。その内に目が合うようになった。黒目がちな瞳があえかな花の合間から視線を向けてくるのが、唐梅には座りが悪かった。身を翻して逃げたりもした。二度三度とそれが繰り返された頃、とうとう目白に退路を塞がれた。
「何故逃げるの」
冷たい指が唐梅の手首を掴んでいる。
「何故覗くの」
確たる理由などないのだから、返事ができない。
「君はだあれ」
「唐梅」
やっと回答が用意できた。
「そう。僕は目白」
目白の掌が両頬に載せられる。羽ばたく寸前のような仕草から目が離せなかった。
「覗いている君を僕も見ていた」
知ってた? 目白は首を傾げる。知ってた。お互いの鼻の頭が掠める。目白はちゅっと音を立てて唇を寄せてきた。
「……唐梅は甘酸っぱいね」
目白の親指が口内に忍び入る。貪るようにそれを吸いたい。おかしな望みが不意に湧いた。
「ねえ、僕の部屋においでよ」
唐梅はこっくりと頷いた。手を繋いで歩いた。唾液で濡れた目白の指がぬるりと手の甲を滑る。
(ボクの味は、甘酸っぱい味)
自分の味なんか意識したことも無かった。目白のあの指を銜えたら、それがどんなふうか分かるのかもしれない。山を往きながら他愛ない話をした。好みの狂薬。注意すべき狐の蝋燭。間もなく訪れる、神知らぬ雪の最盛。目白は幾多の山を飛び回っているだけあって物知りだった。
目白は真っ白な部屋に住んでいた。壁も床も天井も、机も椅子も寝台も白い。色づいているのは唐梅だけだ。
(恥ずかしい)
「俯かないで」
再び唇を重ねた。今度は舌が唐梅の歯列を割って来た。舌と舌が絡まるとき、甘酸っぱいような気もしたけれど、自分の味なのか目白の味なのか判然としなかった。
「どうして」
喘ぎ混じりに訊いた。
「ボクのここ膨らんでくの」
ズボンの上からでも分かる。目白に撫でられると、大きさを増して痛いほどになった。
「初めて?」
着衣のまま押しつけられた目白の下肢も火照っていた。目白はぎゅっ、ぎゅっ、と下腹部を押し当ててくる。ズボンの釦が硬くぶつかる。ある一点で身体に痺れが広がった。目白が唐梅のズボンを下ろしたとき、唐梅の下着はべっとりと汚れていた。目白は舌なめずりをする。
「綺麗にしなくちゃ」
「ひ」
太股が濁った液体にまみれていた。目白は躊躇いなく舌を這わせてくる。唐梅のものがまたゆっくりと勃ち上がって目白の頬に触れた。目白は微笑んで、唐梅の先端を食んだ。
「ああうっ」
亀頭をねぶられる。それがどんな行為かも理解できないまま、ただただ愉悦に流された。
「やだぁ、変、なるうっ」
はしたなく反り返る性器を目白は飲み込んでゆく。
「ああああっ」
唐梅は我慢の仕方を知らなかった。目白の後頭部を押しつけながらすぐに吐精した。目白は酷く咳き込んだけれど、怒ることは無かった。
あの日からどれだけの春秋を経たものか、唐梅は知らない。
(どうでもいいことだもの)
目白が耳殻に歯をかけた。
「出ちゃうの嫌なの」
「だあって……!」
尻を揉みしだかれたまま貫かれる。内壁が目白にいっそう絡む。唐梅の性器が目白の腹に擦れてちりちりする。散々噛みつかれた胸が疼く。終わりそうで終われない今は、熟れて落ちそうな果実と同じで最も美味しいところなのだ。
「なんとも食欲がそそられる絵だねえ」
食べられたい。でも引き延ばしたい。
「ねえかけて」
「かけるんなら抜かないと」
「それはやだあ」
「難しいこと言う」
目白がくすくすと笑う。
「いつか張形でも用意してみようか」
「目白、のが、いーのおっ」
唐梅は目白が恐ろしい。目白ほど快楽を与えてくれる相手はいない。目白。目白。唐梅は泣く。可愛がって貰うためならなんだってする。自由がなくても唐梅は不自由していない。ここから出て行きたいとも思わない。
(目白がボクに飽きないといいな)
「中に出していい?」
言葉を紡ぐ思考力は失われていた。それでも慣らされた身体が反射で目白を締め付ける。
「搾り取られそ」
息を荒げた目白が唐梅の最も敏感な部分を突き上げた。そこに熱いものが注がれた瞬間、唐梅は射精をすることなく達していた。体の最奥からのぼせ上がる感覚に目が眩みそうだった。
「あー……」
目白は満ち足りたように息を吐く。
「ごちそうさま」
軽く額を啄まれる。脱力して開いた唐梅の手のなか、花びらはすっかり潰れていた。
(了)130102
「ふぁあ、ん」
「唐梅」
目白は唐梅の首筋から耳にかけてを執拗に舐める。ざらりとした感触が肌のうえを往復するたびに唐梅は達してしまいそうになる。けれどもそれだけでは刺激が足りず、すんでのところで最後まで行けない。そこじゃなあい、唐梅は甘えた声を上げた。
「イイとこ、突いてよう」
「後ろだけでいいの?」
唐梅の体をそう作り上げたのは目白だ。目白は今まで丹念に唐梅の体を調べてきた。性急さは無く、幾度も体を重ねながら、その度に手を着ける場所とやり方を変えて試した。
「目白で、いっぱいにして」
唐梅の具合を知り尽くした目白は、もう唐梅をどうにでも出来る。寸止めされると気が狂いそうになるし、解放される瞬間は火花が散るほど気持ちがいいし、もっともっと欲しくなる。
「あうっ、あっ、あんっ」
「どんどん垂れてくる」
目白の人差し指が唐梅の先端から根本までをつるりと撫で下ろした。
「触っ、たらぁ、出ちゃぁうっ」
嬌声を上げても誰にも聞かれない。目白の小さな部屋。花が詰まった無数の鳥籠、噎せ返るような芳香。
(昔は、外に、住んでたんだっけ)
春霞の山が脳裏に浮かんだ。唐梅の住処は緑の美しい渓谷だった。
花の蜜を好む目白にとって、花振りの良いその辺りは恰好の餌場だったのだろう。しばしば摘み食いする姿を見かけた。その内に目が合うようになった。黒目がちな瞳があえかな花の合間から視線を向けてくるのが、唐梅には座りが悪かった。身を翻して逃げたりもした。二度三度とそれが繰り返された頃、とうとう目白に退路を塞がれた。
「何故逃げるの」
冷たい指が唐梅の手首を掴んでいる。
「何故覗くの」
確たる理由などないのだから、返事ができない。
「君はだあれ」
「唐梅」
やっと回答が用意できた。
「そう。僕は目白」
目白の掌が両頬に載せられる。羽ばたく寸前のような仕草から目が離せなかった。
「覗いている君を僕も見ていた」
知ってた? 目白は首を傾げる。知ってた。お互いの鼻の頭が掠める。目白はちゅっと音を立てて唇を寄せてきた。
「……唐梅は甘酸っぱいね」
目白の親指が口内に忍び入る。貪るようにそれを吸いたい。おかしな望みが不意に湧いた。
「ねえ、僕の部屋においでよ」
唐梅はこっくりと頷いた。手を繋いで歩いた。唾液で濡れた目白の指がぬるりと手の甲を滑る。
(ボクの味は、甘酸っぱい味)
自分の味なんか意識したことも無かった。目白のあの指を銜えたら、それがどんなふうか分かるのかもしれない。山を往きながら他愛ない話をした。好みの狂薬。注意すべき狐の蝋燭。間もなく訪れる、神知らぬ雪の最盛。目白は幾多の山を飛び回っているだけあって物知りだった。
目白は真っ白な部屋に住んでいた。壁も床も天井も、机も椅子も寝台も白い。色づいているのは唐梅だけだ。
(恥ずかしい)
「俯かないで」
再び唇を重ねた。今度は舌が唐梅の歯列を割って来た。舌と舌が絡まるとき、甘酸っぱいような気もしたけれど、自分の味なのか目白の味なのか判然としなかった。
「どうして」
喘ぎ混じりに訊いた。
「ボクのここ膨らんでくの」
ズボンの上からでも分かる。目白に撫でられると、大きさを増して痛いほどになった。
「初めて?」
着衣のまま押しつけられた目白の下肢も火照っていた。目白はぎゅっ、ぎゅっ、と下腹部を押し当ててくる。ズボンの釦が硬くぶつかる。ある一点で身体に痺れが広がった。目白が唐梅のズボンを下ろしたとき、唐梅の下着はべっとりと汚れていた。目白は舌なめずりをする。
「綺麗にしなくちゃ」
「ひ」
太股が濁った液体にまみれていた。目白は躊躇いなく舌を這わせてくる。唐梅のものがまたゆっくりと勃ち上がって目白の頬に触れた。目白は微笑んで、唐梅の先端を食んだ。
「ああうっ」
亀頭をねぶられる。それがどんな行為かも理解できないまま、ただただ愉悦に流された。
「やだぁ、変、なるうっ」
はしたなく反り返る性器を目白は飲み込んでゆく。
「ああああっ」
唐梅は我慢の仕方を知らなかった。目白の後頭部を押しつけながらすぐに吐精した。目白は酷く咳き込んだけれど、怒ることは無かった。
あの日からどれだけの春秋を経たものか、唐梅は知らない。
(どうでもいいことだもの)
目白が耳殻に歯をかけた。
「出ちゃうの嫌なの」
「だあって……!」
尻を揉みしだかれたまま貫かれる。内壁が目白にいっそう絡む。唐梅の性器が目白の腹に擦れてちりちりする。散々噛みつかれた胸が疼く。終わりそうで終われない今は、熟れて落ちそうな果実と同じで最も美味しいところなのだ。
「なんとも食欲がそそられる絵だねえ」
食べられたい。でも引き延ばしたい。
「ねえかけて」
「かけるんなら抜かないと」
「それはやだあ」
「難しいこと言う」
目白がくすくすと笑う。
「いつか張形でも用意してみようか」
「目白、のが、いーのおっ」
唐梅は目白が恐ろしい。目白ほど快楽を与えてくれる相手はいない。目白。目白。唐梅は泣く。可愛がって貰うためならなんだってする。自由がなくても唐梅は不自由していない。ここから出て行きたいとも思わない。
(目白がボクに飽きないといいな)
「中に出していい?」
言葉を紡ぐ思考力は失われていた。それでも慣らされた身体が反射で目白を締め付ける。
「搾り取られそ」
息を荒げた目白が唐梅の最も敏感な部分を突き上げた。そこに熱いものが注がれた瞬間、唐梅は射精をすることなく達していた。体の最奥からのぼせ上がる感覚に目が眩みそうだった。
「あー……」
目白は満ち足りたように息を吐く。
「ごちそうさま」
軽く額を啄まれる。脱力して開いた唐梅の手のなか、花びらはすっかり潰れていた。
(了)130102
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