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036 実習おつかれさま会
しおりを挟む「「実習!おつかれさまでしたー!!!!」」
沙織と栞がクラッカーを鳴らす。金曜日の夜、翔の部屋では、百均で購入したらしいパーティー帽子、『本日の主役』と書かれたタスキを、桃花、沙織、栞の三人はそれぞれ身に着けていた。
「おなかや減ったわー!晩ご飯なんなんよー!?」
「さて、たくさんねぎらってもらおうじゃないですか!」
「すみません!翔さんのお部屋を会場に使わせてもらっちゃって…。」
女子高生三人娘は、実習が終わったという解放感で、どこかいつもよりテンションが高そうに見える。
もとは三人で桃花の部屋を使い、お疲れさま会をする予定だったらしいのだが、栞がトミーに誘いの連絡をいれ、「それなら私と翔君で、みんなをねぎらおうじゃないか。」と返事をしたらしい。
結果、金曜の午後から翔とトミーは、この会のためにいろいろと準備をすることになった。
「晩御飯はこれだよー。」
トミーはキッチンから、大きな漆塗りの黒い桶を抱えて持ってきた。
桶の中には、ルビーのように輝くいくら軍艦、透明に近い白のえんがわ握り、よく脂がのったサーモン、青と銀色に光るアジなど色とりどりの寿司が並んでいた。
「うわー、お寿司だ!」
「美味しそうっ!」
「早く食べたいっ!」
黄色い視線が桶の中に集まる。
「お腹減ってるだろうし、さっそく食べようか。」
トミーが箸を配り終えるのを合図に、「いただきます!!!!」と声をそろえ、鮮やかな寿司に各々手をのばした。
「沙織と栞はどこに実習行ってたんだ?」
翔の問いに、沙織はイカのにぎりを飲み込んでから答えた。
「三宮駅前のタイ焼き屋やで。」
「鳴門金時のあんこのタイ焼きがあるとこだね。」
「あー、あそこか。僕もたまに買いに行くよ。どうだったんだ?」
翔の問いかけに、沙織は腕を組んで自信満々で応えた。
「そりゃ、タイ焼きも粉もんの仲間といえば仲間やからな。うちにかかればちょちょいのちょい…」とそこまで言いかけて、栞に遮られた。
「あんの入れ方や、焼き加減がまだまだなってないって親方に怒られて、泣きそうになって練習したくせに…。」
「ちょっと、言わんといてやー。」
沙織は恥ずかしそうに声をあげた。
「栞はどうだったんだ?」
翔の問いに、栞はイワシの握りを自分の小皿に取り終えてから答えた。
「私はケーキ屋さんで実習させてもらいました。かの有名な、王冠をかぶったくまさんのお店です。」
「えっ、すごいな。神戸のスイーツ店の超老舗じゃないか。」
「そうですよ。厨房には美しいドイツのお菓子が宝物のように並んでいて、とっても幸せな一週間でした。」
夢うつつをみるような表情で栞は語った。
「みんな、なかなか充実した実習になったみたいだな。」
一しきり寿司も食べ終わった頃、時計の針は九時前に差し掛かっていた。“今夜の金曜ロードショーは!?”と軽やかな声とともに、九時から始まるハムナプトラの予告が流れた。
「うわっ、今夜ハムナプトラだったのか。予約しとけばよかった!」
トミーが残念がるような声をあげる。
「別にここで観ていけばいいだろう?」
「それもそうだね…。翔君の部屋は私の部屋でもあるものね。愛してるよ翔君。」
トミーが翔の肩に腕を回してきたので、怪訝そうな顔で翔はそれを払いのけた。
「翔さんって、トミーさんにだけ辛辣な態度とりますよね。」
栞が興味ありげな顔で二人のやりとりを見ていた。
「あれじゃね?ツンデレってやつやろ?そういうツンツンするやつは、本当は相手のことが大好きで、実は受けなんだって日本橋の友達が言ってた。ちなみにうけってなんのことなんだ?」
ソファに寝転がりながら、沙織はあまり興味なさげに言った。
「その友達と日本橋に買い物へ行くのは止めた方がいいよ…。」
翔は冷やか目で沙織に助言した。翔の言葉に沙織は首をかしげている。
「お二人はどうやって知り合ったんですか?」
桃花が翔とトミーの二人を見比べながら質問した。
「よくぞ聞いてくれたね。」
トミーは謎の渋い表情を浮かべ、すごく昔の壮大な話をするかのように語り出した。
「あれはまだ…八重桜がぼんぼりのように灯る一回生の春の頃だった……。……っあ、ハムナプトラ始まっちゃう。」
「何も語らんのかいっ!」
翔の普段あまり見せない厳しめな突っ込みに、桃花は噴き出した。
「まぁ特に理由はないよ。最初はトミーが僕に気持ち悪い質問してきてさ。変な奴に目をつけられたなぁって思いながら、学部もサークルも一緒で、必然的によく過ごすようになった。」
「もっと感動的な語りをしてほしいなー。残念だなー。」
そういいながら、トミーの目はテレビの画面に釘付けになっている。
「気持ち悪い質問ってなんですか?」
「あぁ、『君は幽霊って信じるかい?』とかそんなことだよ。入学当初だったし、てっきりオカルトサークルのやばい人に目をつけられたと思った。」
「それは確かに気持ち悪いな。なんでそんなんきいたん?」
沙織はトミーに質問したが、トミーは画面に目を離さず、「今ちょっと忙しいから!集中してるからっ!」っと答えた。質問に答える気はないようだ。
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