上 下
7 / 121
一学期 一章 後輩からの告白

007 ちょろるんは、きっとDVされても謝って抱きしめられたらすぐに許しちゃう。

しおりを挟む
 俺は部活の朝練に向かうため、まだ日が昇りきってない時間に家を出た。

 この朝早い時間の駅のホームは、いつも乗客はまばらである。少し冷たいベンチに腰かけ、ぼんやりと電車が来るのを待っていると、「雪ちゃんせんぱい!」と聞き慣れた声がホームに響いた。

「おはようございます!」

 にこっと笑いながら、ちろるは俺の隣に腰かけた。

 どうやら、昨日のことはそこまで気にかけてはいないようだ。いや、気まずくならないようにそうしているのかもしれない。

「おう、ちろるん。今日は珍しくおはやいな。いつもは朝練ぎりぎりに来るのに。」

 ちろるんは少しもじもじしながら言った。

「だって……先輩は、いつも朝早いから……電車が一緒になるかなって思って……///」

「……おい、そういうのはちょっと反則だ。ついぐっときてしまう。」
「えぇ~?だって昨日、かかって来いって言ったじゃないですか。」

 そうだった……。返り討ちにしてやるとまで言ったのに、なんてざまだ。

「ふふっ!この調子なら、せんぱいの方から告白してきてくれる日も近いですかね?」

 と言いながら、ちろるんは身体をこちらにすり寄せてきた。

「夏でもこの時間は少し、冷えますね?」
「……あぁ、そうだな。」

 やめろ、近い、昨日も超思ったけどなんかいい匂いする。なに女の子ってそんなもんなの?女の子と手繋いだことしかない俺には、その辺の知識はあまり精通していないのですけれど、誰か親切な非童貞の方、教えてもらえませんでしょうか。

「そんな顔しなくても、学校ではこんなことしませんから、心配しないでください。あっ、電車きましたよ。」

 正直、ここまで真っすぐに好意を伝えてくれるのは、すごく嬉しいことだ。

 そして、学校ではぐいぐい来ないというこの空気の読みっぷり、ちろるんひょっとして、まじでいい奴なのでは?お嫁さんにしたいランキング結構上位じゃね?

 おい、誰だよちょろるんとか言った奴、俺の方がちょろくなってるじゃないか。

 そんな考えが頭に浮かびつつ、電車へ乗り込んだ。

 朝早い電車には、二人並んで座れる十分な空席がある。再び俺とちろるは、隣あわせで緑色のクッションシートに座った。

「先輩っていつもこの時間の電車なんですか?」
「うん、基本的に朝練ある日はこの時間だ。俺はルーティーンを大事に生きてるからな。」

「へぇ……スポーツ選手はそんな人が多いって聞きますけど、先輩もそうなんですね。どんなルーティーンしてるんですか?」

「あぁ。色々あるぞ。例えば食事のルーティーン。野菜から食べるとか軟弱なことは言わず、とにかくたんぱく質にむさぼりつくとか、部活終わりにはファミチキ買って食べ歩いて帰るとか、運動後と寝る前には必ず、プロテインを飲むとか。」

「……どんだけたんぱく質を欲してるんですか?」

 と、ちろるは少し呆れたような表情になった。

「でも、先輩って全然太らないですよね。いいな~。」
「まぁその分動いてるからな。」

 実際のところ、体質の部分も多い。脂肪もだけど、残念ながら筋肉もなかなかつきにくい。

「私は逆に野菜から食べたら太らないっていうから、そのへんは意識して続けてますけど。」

「そうなん?ちろるん別に太ってないじゃん。むしろやせ形の方だろ?」
「……え、そうですかね……//」

 あっ、やっぱりちょろるんだった。合コンとかでおだてられて、ころっとお持ち帰りされないか、将来が不安である。

「ち、ちなみに、せんぱいの好きなタイプってどんなですか?やっぱり痩せてる方がいいんじゃないですか。」
「うーん……まぁそうだな……。強いて言うなら……巨乳。」

「……。」

 おい、聞かれたから素直に答えたんだろ。そんな目で俺を見るなよ。こいつ俺のこと本当に好きなのかよ。

「うぅ……私だって……。マッサージしたら大きくなるって言うし……。」

 ちろるは自分の控えめな御胸様に手をあて、きゅっと寄せるようなしぐさをした。

「まぁ、ないよりあった方がいいというだけで、別に巨乳フェチではないんだけど。」

 神崎さんも別に巨乳じゃないしな……。巨乳がタイプなのに、神崎さんが好きというのは、矛盾が生じるのだろうか。ほこたてが始まってしまうのだろうか。

 いや、好きなタイプがあったとしても、実際に好きになるのがそのタイプの人かはわからない。巨乳は好きだが、巨乳だから好きになるというほど俺はおっぱい星人ではないのだ。恋におちるというのは全く不思議なものである。

「ほら、いつまでも胸マッサージしてないで、もうつくぞ。」
「……はぁっ!?してませんよっ!」

 駅を降りると、まばらだがうちの高校の制服を着た生徒たちの姿もあった。

「雪ちゃん先輩……ここからは、離れて歩いた方がいいですか……?」

 ちろるは、少し遠慮がちな表情を見せながら、そう尋ねた。

「……。いや、お前はサッカー部のマネジなんだから、サッカー部の俺の隣歩いてても不思議じゃないだろう。一緒の電車になったのに、離れて歩く方が逆に変じゃね?」
「……ほんとうですか。……うれしいな///」

 やめて、そういうこと言われたらついぐっときちゃうから。俺途中で好きな人ころころ変えるラブコメ主人公嫌いなんだから。

「っじゃあ、私もこれから……この時間の電車に、乗ってもいいですか……?///」
「………………。」

 俺はつい、ちろるんの頭に、ぺしっと軽くチョップをかました。

「いたっ。何するんですか!?」
「いや、ついぐっときてしまったことに腹立ったから。」

「何ですか、その理不尽な理由っ!?そしてすぐ手を出すとか、最低です!きっと雪ちゃんせんぱいは、結婚したらDV男になるんですね。」

 誰だよその最低な奴にほれてるやつは……。話が飛躍しすぎだし……。ちょろるんちょろいから、DVされてもその後謝られて、ギュッとはぐされたらころっと相手を許しそうだな。

「まぁ……なんだ。絶対いつもこの時間ってわけじゃないから、結構朝早いし、無理はすんなよ。」

「はい!好きな人と一緒になるかなってドキドキしながら毎朝通うのも、青春っぽくていいじゃないですか。」
「……そういうもんか。」

 まぁもし神崎さんが電車通学なら、きっと同じような事を思っていたのかもしれない。神崎さん俺の家の隣とかに引っ越してこないかな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

貞操観念が逆転した世界に転生した俺が全部活の共有マネージャーになるようです

卯ノ花
恋愛
少子化により男女比が変わって貞操概念が逆転した世界で俺「佐川幸太郎」は通っている高校、東昴女子高等学校で部活共有のマネージャーをする話

切り札の男

古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。 ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。 理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。 そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。 その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。 彼はその挑発に乗ってしまうが…… 小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

俺の彼女は、キスができない

如月由美
恋愛
しっかり者の“奥原 柚子”には、“加藤 柚希”という彼氏がいる。 二人は、“ゆっちゃん”と“ゆっくん”で呼び合うほどに、仲良し。 だけど、柚子には、ある秘密があって………。 その秘密とは、一体!? さらに! 柚子が階段から、落ちる!? そして、記憶が消える!? 壁を乗り越えろ!! 試練的純愛ラブストーリー!! (過激かもしれません。苦手な方は、戻ってください)

処理中です...