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一学期 一章 後輩からの告白

001 桜木ちろるは一途だから、きっと全力で俺をほれさせにくる

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「先輩の事が大好きです。好きっ……大好きっ……」

 そう言いながら、後輩の桜木さくらぎちろるは俺の胸にひしっとしがみ付いてきた。

「えっ……」

 突然の後輩からの告白に、俺は激しく動揺した。

「………///」

 ちろるは恥ずかし気に、俺の胸へぎゅっと顔をうずめている。

 どうする?どーすんの?オレ?どーすんのよ!!!

 俺の脳内には、少し前のオダギリジョーの出てるライフカードのCMのように、三枚の選択肢が書かれたカードが浮かび上がった。

 本命、俺には他に好きな人がいるんだ、告白を断る
 対抗馬、ちろるんこんなに頑張ってんじゃん、ちろるの告白をOKする
 穴馬、回答を保留する。

 いや、まじどーすんの?

 正直に言うと、俺には別に好きな女の子がいる。

 同じクラスの神崎かんざきさんという、下界に落ちてきた穢れを知らない天使である。吹奏楽部でフルートを吹く彼女が好き過ぎて、もう他の女子生徒は案山子かかしに見えるほどである。

 ここは男らしく、本命の神崎さん……と言いたいところだが、可愛い後輩からの告白をOKしてやりたい気持ちもある。

 自分の好きを諦めて、後輩からの好きを受け入れるべきか……はたまた自分の好きを貫き通すか……。

「なぁちろる……。」
「……はい。」

 俺は彼女の震える肩に手をあて、俺の身体から引き離した。

「……。」

 ちろるは全てを悟ったかのように、足元を見つめた。

「ごめん、今までそういう風に、お前の事を見てなかった。……だから、今は返事ができない。」
「……。」

 まさかの大穴、回答を保留する。我ながら全く持って情けねぇ。

「勝手なこと言ってるよな。本当にごめん。」
「いえ……わかりました。」

 ちろるは制服の袖で顔をこしこしと拭った。そしてにこっと笑顔を作った。少しぎこちない笑顔だったのだけれど、それはどこか決意に満ちたような表情だった。

「そうですか!……ということは、私にもまだまだ希望はあるってことですね!」
「おっ……、おう。」

 我ながらなんだその情けない返事は。しゃっきりせんかい。

「これからばんばんアピールしますからね!全力で惚れさせにかかりますから、覚悟してください!」
「……。」

「ちょっと、何か反応してくださいよぉ~!不安に……なります。」

 ふてくされたように、ちろるは頬を膨らませた。

 そうだ……。好きな人に思いを伝えるのは不安なのだ。どう思われてのか?嫌われていないか……?とつい一喜一憂してしまうものだ。

「……ははっ。そうだな。どんどんかかって来い!返り討ちにしてやる。」
「返り討ちにされるんですかっ!?」

「そうだな。俺のことを惚れさせるように、せいぜい頑張ってくれ。」
「はぁ!?なんかムカつくんですけど!……ふんっ、先輩なんかもう知りません!」

 暗くならないように、ついお道化どけてしまった。

 でも、とりあえずは、ちろるの元気が出てくれたようでよかった。

 回答を保留するという決断は、男らしくないだろう。俺が少年ジャンプのラブコメの主人公なら、読者から総スカンを喰らって、今頃ネットで大炎上している頃だろう。

 でも、本気で悩むための保留は、適当な返事をするよりいいのではないか。

 俺には神崎さんという好きな人がいる。
 でも、ちろるの告白を受け入れたい気持ちもある。

 それが今の、正直な気持ちである。
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