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二章 幻の大地溝帯の町(フォッサマグナ)
016 背後で鳴る着信音は死亡フラグ
しおりを挟む翌日、だんだんと太陽が落ちていき、代わりに満月が浮かびあがってきた頃、道幅の広いメインストリートは大きな溝へと変わっていた。大規模なアハ体験のように、目の前に巨大な溝が現れたのを間近に見て、ワタルとリーシャは幻術にでもかけられたかのように感じた。
「この溝をずっと進んだ先に、例の魔物がいます。くれぐれもお気をつけて…。」
町長の糸魚川は、ワタルとリーシャに祈りを捧げて見送った。
「静かだね…。」
「うん…。あっ、あれは…!?」
リーシャの指をさす先には、地面に犬の骨格の化石が落ちていた。それが命を得たようにむくむくと起き上がってくる。それに続いて、猫や牛、豚などの色々な動物の骨が、むくむくと起き上がって襲い掛かってきた。
「ボスの前の前哨戦ってところかな…?行くぞっ!」
ワタルは銅の剣で次々と骨の敵を打ち払う。ワタルの会心の一撃を食らった骨たちは、バラバラになって地面に散らばった。負けじとリーシャも、道具屋の主人にもらったダガーを振り回し、骨を蹴散らしていった。
「うわっ!?あの骨は何の動物?」
リーシャの指さす先には、恐ろしい牙を何本も携えた骨の動物が現れた。
「あの骨格は…カバだね。」
ワタルは冷静に骨格を分析した。
「っじゃあ、あっちのバカでかい骨は?」
「あれは…ゾウだ。」
「あの首の長いのは?」
「キリンだね。」
「わぁー、ワタルってすごい物知りだね!」
「そうかな?ははは…ありがとう……。」
それらの巨大な骨たちは、地響きをあげながら一歩ずつ、確実にワタルとリーシャの方へ近づいてきた。二人は現実逃避に、動物の骨格当てをやっていたのだった。
「…………ちょっとやばくないかな?」
「なかなか骨が折れそうだね……。骨だけに……。」
「こんなときに…やめてよね…。」
「ごめん……。行くぞぉぉぉお!!!!」
それでも、二人はなんとかその巨大な骨たち相手に奮闘した。ワタルは会心の一撃をゾウのキバに放って叩き折り、リーシャはキリンの脚の骨にダガーで回転切りを入れて打ち砕いた。
「きゃっ!?」
リーシャの小さな叫び声が聞こえた。ゾウの骨を始末したワタルが驚いて振り向くと、リーシャはカバの骨に突進され、かなり勢いよくふっとばされていた。
「大丈夫?リーシャ?」
ワタルは急いでリーシャに駆け寄り、彼女を抱きかかえて心配そうに尋ねた。
「うん……。なんとかっ…大丈夫。」
カバの骨格は、もう一度二人にめがけて突進を繰り出した。ワタルはリーシャを抱きかかえたまま、カバの突進をジャンプして避け、岩場の陰にリーシャを休ませた。
「あとは僕がなんとかするから、リーシャは少し休んでて!」
「ワタル…。」
心配そうなリーシャに微笑みかけ、ワタルは再びカバの骨格と対峙した。
「来いっ!」
勇者ワタルは、カバの突進をぎりぎりで避け、会心の一撃を放った。しかし、流石は動物界最強と名高いカバの骨格である。その一撃では倒れずに、首をふってワタルを薙ぎ払った。
「何のこれしき!」
勇者ワタルは再度カバに切りかかり、今度こそカバの骨を打ち砕いた。骨がバラバラになって地面に舞う。
「ふぅ…。まだ肝心なボスにすら出会っていないのに…。」
汗をぬぐったワタルは、月明りに照らされる自分の影が、やたらと巨大になっていることに気が付いた。先ほどまで目の前の敵に集中し気づかなかったが、どっかの映画で聞いたことのある「びーぴろりー♪」という間抜けな着信音が背後から聞こえている。
「あっ…。」
恐怖に満ちた表情で後ろを振り返ると、ワタルの背後には巨大なTレックスの顔があり、巨大な鼻から吹く鼻息が髪の毛を揺らした。
「ギャ―――ッ!!!!」
勇者ワタルの断末魔が聞こえ、リーシャは岩場から顔を出した。
「ワタルッ!!」
勇者ワタルはTレックスの巨大な口に加えられ、おもちゃのように振り回されていた。
「うわぁぁぁぁぁ――――っ!」
ぐるんぐるん振り回され、ワタルは宙に放り投げられた。リーシャはボロボロになって落ちてくるワタルを、なんとか受け止めようとしたが、体重差が大きくとても受け止めきれなかった。二人そろって地面に倒れているところに、ズシンと音をたてながらTレックスの化石は近づいてくる。
もう駄目かと思った時、二人の前を何者かの影が横切った。
「大丈夫か、ワタル?」
それは幼いころから憧れていた、聞き慣れた兄の声だった。
タグ: 着信あり ジュラシックパーク
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