不遇ステータス《魅力》に極降りした結果、《姫》になりました

俊郎

文字の大きさ
上 下
4 / 38

3 姫と呼ばれる初体験

しおりを挟む

 とにかく人目から離れたくて、がむしゃらに走った。
 敏捷が低いせいかスピードは出なかったが、気付けば深い森の中にいた。

「結構遠くまで来たみたいだな。人はいないけど、逆にモンスターか何かが居そうだ……」

 俺の種族≪妖狐≫は、どちらかと言うと魔法系が得意。

 クラスである≪プリンセス≫も、魔法系が得意。
 更に細かく言うと、支援系を得意としているようだ。
 初期スキルに回復スキルがあったのもそういう理由だろう。 

 だから俺が選んだ初期武器は、≪杖≫。
 ≪初心者用ワンド≫を両手で握り締め、暗い森を歩く。

 レベル1で来るような雰囲気じゃないんだよな、ここ。
 まあでもせっかくここまで来たんだし、行けるところまで行っておくか。
 
 ゲームなんて死んでなんぼ。
 操作も身体で覚えるものだ。
 それに関しては、オフラインもオンラインも変わらない……筈。
 VRならより一層だろう。

 歩いていると、開けた場所に出た。
 そこにだけ草も木も生えておらず、ぽっかりと不思議な空間だ。
 一条の光が差し込んで、ある種幻想的な空気が漂っている。

 そんな場所に、一人誰かが佇んでいた。
 かっこいい全身鎧を身に纏っているみたいだが、こっちは背後になるからその顔はよく見えない。
 その前には、木を十字に組んだものが地面に突き立っている。

 あれってもしかして、お墓?
 そんでもって、あの騎士っぽいのはNPCのようだ。
 カーソルの色が緑色だ。

 色々と推測は出来そうだけど、なんか空気が重い。
 ここはそっとしておこう。

「ん?」

 そろそろ街に戻るかと振り返ったところで、五十メートル程先に、この世界で初めてとなるモンスターを発見した。
 目玉をひん剥き、舌と涎を荒ぶらせて全力疾走してくる熊。
 これでもかと野生を叩きつけてくるその存在は、全ての思考をぶっ飛ばすのに十分だった。

「うわあああぁ!!」

 再び180度ターンしてダッシュ。
 重いとかそっとしとこうとかそんなの関係ねぇ!
 とにかく全力で逃げるんだ!

 必死の全力疾走。

 騎士とお墓を横切っても特に反応は無かった。
 反応されても困るんだけど、今はとにかく逃げないと……あれ?

 俺を追いかけて来てる熊は、このまま真っ直ぐ来るだろう。
 そうしたら、お墓はともかくあの騎士も襲われる?
 これって俗に言うMPKモンスタープレイヤーキルってやつでは?

 流石にそれは忍びない。
 せめて声でも掛けておかないと。
 
 恐怖をこらえて、騎士のところへ戻る。
 ひいいいい、熊と目があった! こっわ! 熊こっわ!!

「あの、熊、熊来てます!」

「姫……私は、私はどうすれば……」

 パニックになりそうなのを抑えて騎士に声を掛ける。
 しかし、何か意味深なことを呟くだけで反応はよろしくない。
 こっちすら見ない。
 あの熊見て見ろよお前マジこわくってそれどころじゃないぞこっちはよぉ!

「熊、ほらっ、くま、くま来てますってぇ!!」

 必死に騎士を揺する。
 もう熊がかなり近い。
 距離が縮まったせいでその顔もよく見える。
 ぎゃああ!! 迫力半端ねぇぇぇぇ!!

「む――姫?」

「姫!? 姫って誰のことですか!? 早く逃げないと熊が、あああああ、もう来てる!!」

 意味の分からないことを言う騎士に、遂に俺はパニックが崩壊。
 もう目の前にまで迫った熊から現実逃避するように、しゃがみこんでぎゅっと目を瞑った。

「はぁ!!」

 ザン――!!

 気合いの入った声と、小気味の良い音が聞こえた。
 他には痛みも衝撃も、何もない。

「もう大丈夫。害獣は私の手でほふりました」

 優しくも力強い声にゆっくりと目を開けてみると、イケメンが居た。
 青い髪のイケメンだ。
 さっきまで必死に揺すっていたせいで、すがりつくような格好になっている。

「えっと、あの、ありがとうございます」

「お気になさらず」

 男の人相手とはいえ、この体勢は恥ずかしい。
 慌てて離れた。

 熊は、ドロップアイテムを残して消えていた。
 この騎士が倒した、のか?
 あんなワイルドすぎるモンスターを?
 あんな見た目で弱いモンスターってことはないと思うんだけど、この騎士もしかして超強い?

 そうなら、心配して損したな。
 帰ろう。

「それじゃあ」

「お待ちください」

 助けてくれた相手だしと一言挨拶したところで、呼び止められた。
 うーん、無下に出来ない、よなぁ。

「なんですか……えっ?」

 振り返ると、騎士はひざまずいていた。
 は? 何事?

「姫、また会える日を、お待ちしておりました」

「いえ、人違いですけど」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。 念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。 戦闘は生々しい表現も含みます。 のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。 また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり 一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。 また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や 無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという 事もございません。 また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ゲームで第二の人生を!~最強?チート?ユニークスキル無双で【最強の相棒】と一緒にのんびりまったりハチャメチャライフ!?~

俊郎
SF
『カスタムパートナーオンライン』。それは、唯一無二の相棒を自分好みにカスタマイズしていく、発表時点で大いに期待が寄せられた最新VRMMOだった。 が、リリース直前に運営会社は倒産。ゲームは秘密裏に、とある研究機関へ譲渡された。 現実世界に嫌気がさした松永雅夫はこのゲームを利用した実験へ誘われ、第二の人生を歩むべく参加を決めた。 しかし、雅夫の相棒は予期しないものになった。 相棒になった謎の物体にタマと名付け、第二の人生を開始した雅夫を待っていたのは、怒涛のようなユニークスキル無双。 チートとしか言えないような相乗効果を生み出すユニークスキルのお陰でステータスは異常な数値を突破して、スキルの倍率もおかしなことに。 強くなれば将来は安泰だと、困惑しながらも楽しくまったり暮らしていくお話。 この作品は小説家になろう様、ツギクル様、ノベルアップ様でも公開しています。 大体1話2000~3000字くらいでぼちぼち更新していきます。 初めてのVRMMOものなので応援よろしくお願いします。 基本コメディです。 あまり難しく考えずお読みください。 Twitterです。 更新情報等呟くと思います。良ければフォロー等宜しくお願いします。 https://twitter.com/shiroutotoshiro?s=09

海道一の弓取り~昨日なし明日またしらぬ、人はただ今日のうちこそ命なりけれ~

海野 入鹿
SF
高校2年生の相場源太は暴走した車によって突如として人生に終止符を打たれた、はずだった。 再び目覚めた時、源太はあの桶狭間の戦いで有名な今川義元に転生していた― これは現代っ子の高校生が突き進む戦国物語。 史実に沿って進みますが、作者の創作なので架空の人物や設定が入っております。 不定期更新です。 SFとなっていますが、歴史物です。 小説家になろうでも掲載しています。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

処理中です...