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新たな始まり

285 筋肉と筋肉

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 何か乗り気じゃないような台詞だった。
 今まであんなこと言われたことないのに、どうしたんだろうか。
 サービスが開始したタイミングで何か仕様の変更があったのか?

 まあいいや。
 今は考えても分からない。
 それなら気にするだけ損だ。

「モジャーとモジャとーのあいだーにはー。きょおーもつーめたーいモジャがーふーるー」

 タマのご機嫌で謎な歌を聞きながらストーレの街を歩く。
 サービスが開始されてから初めて来たけど、一般プレイヤーの数が結構多い。
 歩いていたり、露店を覗きこんだり、楽しそうだ。

 露店を出してる人も少しいるようだけど、そっちはあまり多くない。
 まだ一日しか経ってないし、商人系はまだレベルが足りないか、そもそも選択する人が少ないのかもしれないな。

 でも、これだけのクオリティのゲームなら、商売や生産だけしていても楽しめると思う。
 俺もとりあえず最初は冒険出来るようなステータスにした。
 だけど実際に薬や装備を作ってみたら楽しかった。

 それだけをして生きてる人がいるのも、納得出来る楽しさだった。
 商人プレイヤーがサクサクレベルアップするのにも、俺の初心者シリーズは役に立つ筈だ。
 どんどん増えて、この大通りの露店がもっとひしめき合うと良いな。

 露店を覗きながら歩く内に、いつもの場所へ到着した。
 ムキムキでスキンヘッドのおじさん、マッスル☆タケダが経営する露店だ。

「こんにちは」
「こんにちまっする!」
「おおナガマサさん、タマちゃん、こんにちマッスル!」

 声を掛けるといつも通りの筋肉挨拶を返してくれる。
 人気が出てると聞いてた割には、忙しくなさそうだ。
 タイミングが良かったんだろうか。

「頼まれてた装備装備の受け渡しか? その件なんだが……」
「どうしました?」
「実はまだ到着していなくてな。約束の時間からもう三時間は過ぎてるんだが、もう少しだけ待ってもらえないか?」

 俺が依頼していたのは、ミルキー用の盾だ。
 厳密に言えば、以前に依頼したのと同じ盾型のゴーレムだけど。

 タケダが言うには、それはタケダだけの手で作られたものじゃないらしい。
 大まかな部分はタケダが作って、肝となる部分は≪錬金術師≫の友人に依頼して作ったものなんだとか。

 で、その友人から受け取る筈が、約束の時間になっても現れない。
 拠点に行ってみたりもしたが、誰もいなかったそうだ。

 タケダの知る限りでは、約束をすっぽかしたりするような人物ではない。
 だから何かがあって遅れてるだけだから、待ってほしい。
 そういうことだった。

 待つのは構わない。
 だけど、果たしてその人は生きてるんだろうか。
 口にはしない。
 だけど、顔に出てしまったようだ。

「言いたいことは分かる。だが、大丈夫だ。何せ奴は、俺が認めた男だからな」
「分かりました。いくらでも待ちますよ」
「すまないな。……おっと、来たようだ」
「え?」

 タケダの視線を追って振り返る。
 そこには、二メートルを越す大男がこちらへ歩いてくる光景があった。
 のっしのっしと大股でやってくるその男の名は、≪筋太郎≫。

 何故かブーメランパンツにマントとベルト、後はブーツだけしか装備していない。
 いや、良く見ると靴下は装備している。
 もっと大事なものがあるだろうに。

 筋肉はタケダに負けず劣らず発達している。
 なんだこのマッスル二号は。
 ていうかさっき錬金術師って言ってなかった?
 どっちかと言うと練筋術師って感じか?
 
 どちらにしても、服装がアウト過ぎる。
 変態が服を着ずに歩いてるようなものだ。 

 その変態が露店の前までやって来た。
 でかい。
 筋肉も、背も、股間の膨らみも、全てがビッグサイズだ。
 パシオンに見つかったら牢屋に連行されない?

「すまぬ、遅くなってしもうたわい! 心配かけたか?」
「なに、心配なんてしてねぇよ。しかし、依頼人にはきちんと理由は話してもらうぞ」
「うぬ?」
「依頼人のナガマサさんと、相棒のタマちゃんだ」
「マッスルだー!」
「どうも」

 タケダの言葉で筋太郎が俺達の方を見る。
 タマは新たなマッスルの登場に興奮を隠せていない。
 とりあえず軽く頭を下げる。

「おお、あんたが依頼人か。俺は筋太郎ってもんだ。待たせてしまって申し訳ねぇ! ちぃと面倒なのに絡まれてしもうてな、いくら言っても退かんから、終いにはこの拳で蹴散らしてやったわい」
「おぉ……」

 なんか見た目通りの解決をしてきたっぽい。
 でもそれだけだと分からないから、じっくり話を聞いてみた。

 筋太郎が話してくれた内容を纏めると、こうだ。

 筋太郎が盾をタケダのところへ届けようとしたら、性質たちの悪い一般プレイヤーに絡まれた。
 盾を寄越せとしつこく、数人で囲まれてしまい移動できなくなった。
 言葉で説得しても聞かず、外に連れて行こうとしてきたのを、決闘を申し込んで返り討ちにした。

 どうして盾のことがばれたのかと思ったら、仕上げ工程で太陽の光を浴びせていたところを見られていたそうだ。
 そんな工程があるのか。
 錬金術は奥が深い。

「いやあ、迷惑掛けたな! しかし力作が出来たから、受け取ってくれい!」
「ありがとうございます」

 差し出された盾を受け取る。
 大型の盾だ。
 表面は黒く艶やかで、そんなに厚みが無い筈なのに、吸い込まれそうな程深く見える。
 不思議な質感だ。

「ナガマサさんの持ち込む素材はどれもえげつねぇ性能だからな、自然と気合いが入るってもんだ」
「俺ぁこれで二回目だが、いつもこの調子なのか?」
「ああ、そうだな。いつものことだ」
「がはははは! そいつぁとんでもねぇ!」
「モジャはとんでもないモジャだからね!」
「がはははは!」

 筋太郎は楽しそうに笑っている。
 そんな筋太郎のヒゲもものすごいモジャモジャしてるんだけど、タマはそこには食いつかないようだ。
 なんでだ。

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