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新たな始まり

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 教えてもらった方へ行くと、人が多くなった。
 βNPCもちらほら見かけたが、ここにいるのはプレイヤーばかりだ。
 一件の家を、少し距離を置いて囲んでいる。

 村の入口よりも多い。
 こいつら、皆モジャ作の武器を求めて来たのか?

「おいおい、本当にここなんだろうな」
「ずっと見張ってるのに誰も出てこないぞ」
「すみませーん!」
「どうして出てこないんだろうな」
「さあて、引きこもって武器でも作ってるんじゃないか?」
「それだったら俺達に売ってくれればいいのにな」
「武器を売って欲しいんですけどー!」

 プレイヤー達は三十人くらいはいる。
 こんなに大勢が出待ちしてたら、普通の神経してたら出て来られないだろ。
 相手がβNPCだからって、そんなことも考えないのか?

「何よこいつら、自分勝手が過ぎるんじゃないの?」
「ゼノさん……」
「これは、酷いな」

 酷過ぎる。
 ルインも怒りをそのまま言葉にしているようで、イライラがよく伝わってくる。
 シュシュは悲しそうな瞳で俺を見つめてくる。
 同じβNPCがこんな目に遭ってたら、嫌だよな。

 うんざりしていると、俺達の前にいたプレイヤーが二人、振り向いた。
 どちらも男で、片方は短髪で渋めのおっさん戦士風。
 名前はギガガガ。

 もう片方は長髪でバンドマンみたいな魔法使い風だ。
 名前はサクリファイ。
 
「ああん? お前ら、何か言ったかよ?」

 戦士風が機嫌悪そうに口を開いた。
 俺かルインの呟きが耳に入ったようだ。
 身体ごと向き直る二人に、ルインが俺の前に躍り出た。

「自分勝手が過ぎる、って言ったのよ。性根だけじゃなくて耳まで腐ってんのかしら?」
「はあ!? てめぇ、相棒か? AIの癖に、いい度胸してるじゃねえか」
「コインが相棒? はっ。おいお前、謝るなら今の内だぞ」

 ルインはイライラマックスだ。
 止める間もなく挑発しやがった。

 しかしまぁ、それも仕方ない。
 俺もムカついたからな。
 ルインを鼻で笑い、薄ら笑いを浮かべるバンドマン風の男を睨みつける。

「俺が謝る? 俺の相棒は、事実を言っただけだろ」
「おいてめぇ、喧嘩売ってんのか?」

 戦士風の男、ギガガガが凄んできた。
 どうやら見たまんま、こいつの方が血の気が多いようだ。

「非常識なことしてるのは、お前らだろうが。さっさと解散しろ。こんな大勢で押しかけられたら迷惑だろうが」
「迷惑? 相手はNPCかβNPCだ。人間じゃない。迷惑になんか、なりゃしねぇよ」
「お前らは、NPCと話さなかったのか? βNPCとは? 会話をしてないのか?」
「はあ? したが、それが今何の関係があるんだよ」

 チラリと、一瞬だけシュシュを見る。
 会話をしたことがあるなら、もっと、優しくしてあげたっていいじゃないか。

「NPCも、βNPCだって、感情や表情は俺達と変わらない。ゲームだけど、ここは一つの世界なんだ。この世界の中では、NPC達は生きてる。ただの、人間なんだ」
「ゼノ……」
「ゼノさん……」
「――はっはっは! こいつおかしいぜ! NPCを人間だってよ!」
「頭いっちゃってんなー」

 ギガガガは大声をあげて笑い出した。
 サクリファイは、呆れたように失笑している。

 少し距離を取っていた他のプレイヤー達も、ヒソヒソと何かを囁き合っている。
 笑い声も聞こえる。

 俺は思ったことを言っただけだ。
 人と意見が違うことなんて、当たり前だ。
 笑われたって構わない。
 
「ストーカーは迷惑行為だ。さっさと解散しろ」
「誰がお前の指図なんか受けるかよ。お前がどっか行っちまえよ」
「そうだそうだ!」
「帰れ!」
「俺達がどうしようと勝手だろ!」
「βNPCに迷惑もクソもねーよバーカ!」
「これ以上付き纏うなら通報するぞ!」

 誰も俺の意見を聞いてくれなくても、それも仕方のないことだ。
 俺だって、NPCに対して人間扱いしようなんて、今まで思ったことが無かった。

 ルインやシュシュと知り合って、なんとなくそう思っただけだ。
 効率や強い武器を求めてプレイしてる人達が、NPCに配慮するプレイなんてする訳がない。

 そもそも、他人のプレイスタイルに口を出す権利は無い。
 NPCに対しての付き纏いが、プレイヤーに対してと同じように禁止行為として定められていない以上、止めさせる手段は無い。

 俺には、何も出来ないのか?
 何か、手段は――。

「決闘だ! そんなにここに居座りたいなら、俺と決闘しろ!」
「はあ?」
「何言ってるんだこいつ」
「そんなの誰が受けるんだよ、あほらしい」
「無視だ無視」

 反応は芳しくない。
 当然だ。
 メリットが無い。
 何も賭けずに見知らぬ他人を動かす事なんて、出来る筈がない。

「俺が勝ったらここから去ってくれ。その代わり俺は、カスタムジュエルを賭ける」

 俺の言葉に、周囲がざわついた。
 目の前にいるギガガガとサクリファイも、笑みが消えている。
 あれは、何かを考えている顔だ。

「ちょっとゼノ、カスタムジュエルって何よ。そんなアイテムあった?」
「課金アイテムだよ」

 カスタムジュエル。
 一個百円。
 これは、ゲームで少し有利になれるアイテムに交換することが出来るアイテムだ。

 決闘システムでは色々なアイテムやゲーム内通貨を賭けることが出来るが、カスタムジュエルも対象に含まれる。
 公式にしっかりと書いてあった。

「で、カスタムジュエルをいくつ賭けようってんだ?」
「百個だ」
「何?」
「お前、正気か?」

 百個で一万円。
 正直惜しい。
 でも、ここまでしないとこいつらは動かない。
 俺の本気は伝わらない。

「正真正銘、正気だよ。途中で負けようが、少なくとも今この場にいる全員は相手にしてやるから、安心していい。その代わり、負けたら大人しく退いてくれ」
「そういうことなら、受けてやる」
「オレもだ」
「俺も、俺もやるぞ!」
「私もやるわ!」
「何言ってんだ、俺が先だ!」

 ギガガガとサクリファイを筆頭に、プレイヤー達はこぞって食いついてくれた。
 これで良い。
 負けなければ良いだけの話だ。
 俺とルインなら、やれる。

「決闘をするけど、ここは狭い。中央にあった広場に移動するから、受ける奴らは付いてきてくれ。行くぞ、ルイン、シュシュ」
「任せときなさい!」
「あ、待って!」

 広場へ向けて歩き出すと、プレイヤー達も移動を開始した。
 全員付いて来てくれているようだ。

 広場へ到着した。
 途中で事情を聴いた者や、広場の周囲にたむろっていた連中も野次馬に加わったようで、さっきよりも増えている。
 それでも、最後までやりきるしかない。

「さあ、最初は誰だ?」
「オレだ」

 前に出たのは、ギガガガ。
 望むところだ。

 決闘の申請画面を開く。
 色々設定出来るようだが、ほぼデフォルトでいい。

 大事なのは賭ける物、勝者への報酬の部分だ。
 俺が賭ける物に、カスタムジュエル百個を設定。

 相手の方には、進入禁止エリアとしてあの家周囲半径百メートル四方を指定した。
 期間は一週間。 
 これで、俺が勝てばそいつらはしばらくあそこへ近づけない。

 申請を送ると、ギガガガはしっかりと項目を読み込んでいる。
 見た目に似合わず、そういった部分はきっちりしているようだ。
 多分、熟練のゲーマーだろうしな。

「間違いは無いか?」
「確認したぜ、これで問題ない」

 俺達の周囲をバトルフィールドが覆って行く。
 さあ、戦いの始まりだ。

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