288 / 338
274 巣立ちと望み
しおりを挟むパーティーは和やかに終了した。
ほとんどのお客さんは帰り、片付けも佳境に入ったところだ。
ウチの家族以外で残っているのはモグラ、タケダ、ゴロウだ。
今日はそんなに酔っていない。
ダウンせずに片付けを手伝ってくれるなんて初めてだ。
「今日はナガマサさん達のお祝いでもあるからね。偶にはオレ達も働かないと樹に吊るされちゃうよ」
「んだんだ」
「俺達はみんなナガマサさんにお世話になってるからな。筋肉労働なら任せといてくれ」
と、有難いことを言ってくれた。
それで皆で後片付けをしていた訳だ。
「お疲れ様でした」
「でしたー!」
そして、部屋もすっかり片付いた。
ここで宴会をしていたなんて全く分からない。
相棒バトルが発展して始まった、超狭範囲PvPの痕跡も綺麗サッパリだ。
優勝は……ミルキーが恐ろしく強くなっていたとだけ言っておく。
最後に労いの言葉をかけると、みんなも返してくれる。
これで本当の意味で今日のパーティーは終わりだ。
「ナガマサさん、お疲れのところごめんね。ちょっと時間いいかな?」
「なんですか?」
「葵がちょっと話があるんだってさ」
「葵ちゃんが?」
「ほら、自分で言うんでしょ」
「うう……」
モグラが背後に隠れている葵を前に出そうと促す。
しかし、背中にしがみついて出てこない。
半分しか見えないけど、すごいしかめっ面だ。
何か言いづらいことでもあるんだろうか。
気になる。
クレイジーの腰使いが全く気にならないぐらい心配だ。
「どうしたの? 何かあった?」
今日は葵の送別会をやった。
ほぼ名目だけのパーティーではあったけど、皆よろこんで来てくれた。
……いつの間にか俺とミルキー、ミゼルの結婚のお祝いも計画されていたのは予想外だったな。
もしかしたらそれを不満に?
でも葵もお祝いをしてくれた。
むしろ、言いだしっぺは葵の筈だ。
じゃあ何だ。
俺は一体何をしてしまったんだ?
「えっと……その」
葵がモグラの前に出る。
しかし、しかめっ面のまま俯いてしまっている。
チラッ。
チラッ。
葵の視線が周りに向けられて、再び足元に落ちた。
「あー、タケダさん、ゴロウちゃん、俺達はあっちで水でも飲んでようか」
「そうだな。剛力無双パンに余ったチーズでも乗せて焼くか」
「よっしゃあ食べるのは任せてくれ!」
「ミゼル様、私達はお部屋で明日の準備でもしましょうか」
「はい、そういたしましょう」
『タマよ、わらわの城に遊びに来ぬか? おろし金も一緒にのう』
「行くー!」
「キュルル!」
突然キッチンの方へ意気揚々と去って行ったモグラを皮きりに、皆どこかへ行ってしまった。
広いリビングに残されたのは俺と葵だけ。
繋がってるキッチンには男三人組がいるが、騒がしく調理に夢中だ。
こっちを気にしてる風は一切ない。
どうやら、皆気を遣ってくれたようだ。
葵は他の人に聞かれたくなかったんだな。
「それにしても葵ちゃん、立派になったね」
「え、あ……そう、かな」
「そうだよ。初めて来た時にはその剣も持てないくらいだったのに、PKも一騎打ちで倒すくらいになったんだから。かっこよかったし、プレゼントした装備もよく似合ってる」
「ありがとう。……でも、それはナガマサ達のお陰だから」
葵は強くなった。
ステータスや、戦闘力で言えば間違いなくそうだろう。
それに関しては俺達の影響がかなり大きかったのも、否定はしない。
だけど、葵は元々強かった。
戦闘力じゃなく、心がだ。
父親が死んで一人残されて、形見の剣はPK達が狙う可能性が高い。
そんな中で葵は、剣を手放さず、使いこなそうと努力していた。
俺にそんなことが出来るかと言われると、多分出来ない。
強くなってから。使いこなせるくらいレベルを上げてから。
そう考えてストレージに仕舞ってるだろう。
それだけ強い葵のことだ。
俺達のところに来ることが無くても、きっとあの剣を使いこなせる冒険者になっていた筈だ。
俺達はそれをほんのちょっと、先取りしただけだ。
「葵ちゃんが頑張ったからだよ」
「えへへ……」
葵は照れくさそうに笑った。
ここに来た当初よりも、色々な表情を見せてくれるようになった。
少しは俺にも馴染んでくれただろうか。
「……えっと、私は、今日でこの家から卒業するよね?」
葵は意を決したように口を開いた。
「……うん、そうなるね」
「私は、どこに行ったらいいと思う?」
それは、どこか窺うような台詞。
どこか、どこかってどこだろう。
モグラとは、少し話をした。
葵を預かる時の話では、モグラが葵を守れない間だけ、保護するという約束だった。
だけど、もう葵は俺も、モグラも保護する必要がないくらい立派になった。
だから葵が望むなら、モグラのところじゃなく、好きなように生きてもいい。
モグラからは、そんな言葉を聞いた。
多分、葵もモグラにそう言われたんだろう。
「どこがいいか、か。それは葵ちゃん次第だと思うよ。他の誰かにとっていいことよりも、葵ちゃんにとっていいことを選んで欲しい」
「私にとって……。私が選ぶ、ってこと?」
「そうだね。葵ちゃんが決めたことなら、皆応援してくれるよ。勿論、俺も応援する」
葵は頑張った。
父親の形見の剣も立派に使いこなせるようになった。
ここは第二の人生を送る場だ。
俺だけじゃない。
ミルキーだって、葵だって、好きに生きていい。
これに関しては俺の意見を聞いて決めるべきじゃない。
「ん、分かった。私、明日からもここに住みたい。ダメかな……!?」
辺りを見回してみる。
男共の騒ぐ背中しか見えない。
頼りに出来そうな人はいない。
せめてミルキーとミゼルには許可を取りたい。
でもいない。
もしかして、これを見越していなくなったんだろうか。
……ああ、葵に言ったことは俺もないがしろにするわけにいかない。
それが責任だ。
俺も、俺がいいと思う返事をしよう。
「勿論、大歓迎だよ」
「ありがとう……!」
葵の笑顔は、タマに見せるものと同じくらい、自然なものだった。
0
お気に入りに追加
1,182
あなたにおすすめの小説
異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた
甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。
降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。
森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。
その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。
協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生
西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。
彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。
精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。
晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。
死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。
「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」
晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。
バイクごと異世界に転移したので美人店主と宅配弁当屋はじめました
福山陽士
ファンタジー
弁当屋でバイトをしていた大鳳正義《おおほうまさよし》は、突然宅配バイクごと異世界に転移してしまった。
現代日本とは何もかも違う世界に途方に暮れていた、その時。
「君、どうしたの?」
親切な女性、カルディナに助けてもらう。
カルディナは立地が悪すぎて今にも潰れそうになっている、定食屋の店主だった。
正義は助けてもらったお礼に「宅配をすればどう?」と提案。
カルディナの親友、魔法使いのララーベリントと共に店の再建に励むこととなったのだった。
『温かい料理を運ぶ』という概念がない世界で、みんなに美味しい料理を届けていく話。
※のんびり進行です
異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
異世界転移したので、のんびり楽しみます。
ゆーふー
ファンタジー
信号無視した車に轢かれ、命を落としたことをきっかけに異世界に転移することに。異世界で長生きするために主人公が望んだのは、「のんびり過ごせる力」
主人公は神様に貰った力でのんびり平和に長生きできるのか。
神に同情された転生者物語
チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。
すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。
悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる