上 下
282 / 338

268 滑り込みと独演会

しおりを挟む

「ただいまー」
「たっだいまー!」

 今日は珍しく玄関から帰宅する。
 おろし金に乗らずに、自力で空を全力疾走して帰って来た結果だ。
 一歩ごとに瞬間移動をしたお陰で、なんとか12時までに間に合った。

 街中で空に駆け上がったせいで目立ってたけど、それは仕方がない。
 12時までに帰宅するのが最優先だったからな。

 玄関のすぐ向こうにはリビングが広がっている。
 そこにはミルキーもミゼルも葵も、皆揃っていて出迎えてくれる。
 石華やおろし金も、思い思いに寛いでいる。

 何でもない事だろうけど、ただいまを言っておかえりなさいが返って来るのは、なんというか……いい。
 たったそれだけのことで幸せな気分になる。

「時間ギリギリでしたね。何かあったんですか?」
「色々あってね。タマが大活躍だったよ」
「タマちゃんが活躍するようなことって、ほんとに何があったんですか?」

 ざっくりと説明すると、ミルキーが微妙な顔で喰いついた。
 今度は何に巻き込まれたのか、と顔に書いてある。

「私も是非聞きたいですわ」
「私も、聞きたい……!」
「タマはさいきょーだからね! 話してあげる!」

 ミゼルと葵まで興味津々だ。
 こっちの二人はすごいワクワクした顔をしている。
 純粋に楽しい話を期待している感じかな。

『おっ、それは楽しみじゃな。タマは嘘偽り無く最強に相応しいからの、さぞ爽快な話なんじゃろう。の、おろし金先輩よ』
「キュル!」

 石華はおろし金を撫でながらのんびりと耳を傾けている。
 先輩って、確かにうちのペットだとおろし金が一番の古株だけど。
 女王だった割に腰が低い。
 女王だったからこそ、器がでかいのかもしれないが。

「でねでね、急にシクラメンがモグラにがっとやろうとしたからタマがシュバッ、バキッ!! ってやって、シャー! って威嚇したの!」

 タマが元気よくみんなに説明する。
 相変わらず勢いがすごい。
 俺は見てたから大体は理解出来るけど、みんなは分かるんだろうか。
 なんて心配になったものの、皆楽しんで聞いているようだ。

「タマちゃん、すごいですわ!」
「えっへん!」

 ミゼルなんかは相変わらず目をキラキラさせている。
 特にタマが増殖した辺りでは、大興奮だった。

「凄すぎ……! 私にも出来ないかな」
「うん、やっぱりとんでもないですね」
『はっは、やはり期待通りじゃったな。のう、おろし金先輩』
「キュルル!」

 ミゼル以外はなんだろう。
 葵は対抗意識に燃えてる? ミルキーは呆れてる。
 石華は笑ってるし、おろし金は多分尊敬してる。

 聞いた感じでは、タマは≪滅魔双竜法≫で大量増殖したようだ。
 あのスキルの効果は二人に増える。
 効果が1000倍されれば、二千人まで増殖出来ることになる。

 なにそれ怖い。

 増えた分、能力値も全て分割される。
 が、たったそれだけだ。
 2000分の1されたところで、その辺の奴らのステータスより遙かに高い。
 数も多い上に強さも段違い。
 やっぱりうちのタマは最強だな。
 間違いない。

 ただ、ユニークスキルは割と自由度が高いのも分かってる。
 俺くらいぶっ飛んでるのがあってもおかしくないし、油断は出来ない。

 防御力が高いほど与えるダメージが増加する武器も純白猫が作ってたから、あれで殴られたら下手したら死ぬ可能性もある。
 タマの話を聞きながら、良さそうなスキルをいくつか取得しておく。

 生憎≪創造者≫にはほとんど無かったが、その前の≪異端者≫には豊富だ。
 今すぐ欲しいユニークスキルも少ないし、貯めておいた基本ポイントをいくつか割いておく。
 ついでにユニークスキルも取っておくか。

 半透明のウインドウをつつく。
 効果の少ないパッシブスキルが取得可能一覧に沢山出ていた。
 最近ユニークのスキルリストあまり開いてなかったからなぁ。
 
 ……よし、いいのがとれた。
 パッシブスキルは俺の持つユニークスキルと相性がいい。
 ステータスのおかしな数値も、その辺りの相乗効果の結果だ。

 例えば今取得した≪ナガマサ流防御術≫は、受ける物理ダメージを-5%する効果を持つ。
 これが100倍されれば、-500%される。
 多分最低保障の1は受けるだろうけど、たったの1。

 純白猫が葵用に作ってくれた≪裂断≫でもダメージを受けない。
 どれだけダメージが増えようが、最終的な数値から-500%されれば1だ。 

 これで物理も魔法も1しか受けない。
 スキルを共有してる俺とタマとミルキーは、ほぼ無敵に近い。

 心配ではあるが、葵はムッキーもいるし実力もついた。
 独り立ち出来るように応援してあげないといけない。
 過保護は良くないと、ミルキーにも怒られたことがある。

 けど、ミゼルのことは、ちゃんと守りたい。
 今日で少しレベルを上げただろうけど、家族の中では多分一番か弱い。

 常に一緒にいられたらそれが一番だけど、そうもいかない。
 四六時中は張り付いてるのは、ミゼルだって嫌がることもあるだろうからな。
 一番いいのは、俺とミルキーを繋いでいるこの指輪と同じものを、ミゼルにも贈ることだ。

 結婚も決まったわけだし、タイミング的にも丁度良い。
 一体何の素材を使ったんだっけ……?
 確か、ゴロウに作ってもらった筈だ。
 なるべく早めに思い出して、用意しないと。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた

甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。 降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。 森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。 その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。 協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

バイクごと異世界に転移したので美人店主と宅配弁当屋はじめました

福山陽士
ファンタジー
弁当屋でバイトをしていた大鳳正義《おおほうまさよし》は、突然宅配バイクごと異世界に転移してしまった。 現代日本とは何もかも違う世界に途方に暮れていた、その時。 「君、どうしたの?」 親切な女性、カルディナに助けてもらう。 カルディナは立地が悪すぎて今にも潰れそうになっている、定食屋の店主だった。 正義は助けてもらったお礼に「宅配をすればどう?」と提案。 カルディナの親友、魔法使いのララーベリントと共に店の再建に励むこととなったのだった。 『温かい料理を運ぶ』という概念がない世界で、みんなに美味しい料理を届けていく話。 ※のんびり進行です

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

異世界転移したので、のんびり楽しみます。

ゆーふー
ファンタジー
信号無視した車に轢かれ、命を落としたことをきっかけに異世界に転移することに。異世界で長生きするために主人公が望んだのは、「のんびり過ごせる力」 主人公は神様に貰った力でのんびり平和に長生きできるのか。

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

処理中です...