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243 練習と成果
しおりを挟むいつものようにおろし金の背に乗って、ストーレへとやって来た。
今日は城のお偉いさんが揃って待ち構えていた。
手には大量の貢物。
おろし金は城に預けて行くことにした。
大きな肉の塊を頬張ってご機嫌だ。
タマも食べたそうにしていたが、引きずって行く。
「タマもお肉ー!」
「屋台で何か買ってやるから、行くぞ」
「はーい。モジャは?」
「モジャは買わない」
葵は修行、ミルキーは付き添いで留守番だ。
成長したとはいえ、葵をPK達が狙ってくる可能性はまだまだ高い。
誰かがついておかないと心配だ。
ミルキーがいてくれれば、大抵のことは対処出来るだろう。
今朝みたいに石華でも良いが、石華は石華で用事がある。
村の家畜と会話が出来るから、畜産をしてる家に引っ張りダコらしい。
器が大きくて案外気さくだからな。
人気者になるのも不思議なことじゃない。
中央の噴水広場で、待つこと十分。
笑顔の仮面を付けた怪しいプレイヤーが現れた。
「おはようございます! すみません、お待たせしましたか?」
「おはよー!」
「おはようございます。まだ時間の五分前ですから気にしないでください」
「はい、了解です!」
妙にテンションが高い。
笑顔の仮面もいつも以上に笑顔に見える。
今日も徹夜をしたっぽいな。
「確認が終わったらしっかり休んでくださいね」
「ええ、分かってますとも。これを見せればナガマサさんも間違いなく納得して、私も安心して眠りにつけます!」
しかし気にしない。
徹夜をするのは契約に織り込み済み。
あまり無理をしてほしくはないが、死なない程度なら良い。
元気そうだし、この後ある程度休んでもらったら大丈夫か。
すぐに徹夜の影響が出ないのも、ゲームのいいところだ。
それぐらいしないと、明日までに間に合わない。
葵にはなるべく最高のプレゼントを送りたい。
「それで、どんな感じですか?」
「ふっふっふ、私の睡眠時間の結晶、とくとご覧あれ!」
純白猫は一つの装備を取り出した。
ジャケットを縦に割った右半分。
固定用のベルトが二つ、装着されている。
袖口に手袋が一体化している。
形は葵の装備している初期装備と似ているな。
違いは色。
初期装備の方は明るい青。
これは濃紺だ。
「見せてもらっても良いですか?」
「はい、どうぞです」
「どうも」
手に取って詳細を見せてもらう。
どんな風に仕上がってるかな。
≪純白式魔導躍進機:右装≫
防具/鎧/魔導躍進機 レア度:C- 品質:B+
Def:25 Mdef:10
独自のアレンジが加えられた≪魔導躍進機≫。
一撃よりも操作性、安定性を重視した性能に仕上がっている。
≪起動≫の効果に+3%
右手で≪魔導機械≫を保持している間、以下の効果を発動する。
Str+5
Agi+5
Dex+5
Atk+5
≪起動≫を発動している間、以下の効果を発動する。
Str+5
Agi+5
Dex+5
スキルディレイ-5%
≪純白猫≫の銘が刻まれている。
かなり出来が良い。と、思う。
前よりも素のステータスが高いし、効果も豊富になっている。
Atkの補正は前の方が高いが、方向性の違いだろう。
レア度が同じなのに品質が高くなっているのがポイントだ。
「かなり腕を上げてませんか?」
「ふっふっふ、分かってしまいますか。いえ、分かってくれますか」
「素材は前と同じものですか?」
「ええ、種類はほとんど変えてませんよ。デザインも、初期装備と同じものです」
同じ素材で同じレアリティ。
品質は向上している。
それは、純白猫の腕が上がっていることの証明になる。
「短期間でよく出来ましたね」
「ええ、それはもう頑張りました。挫けそうになると、どこからともなく『頑張るモジャ。頑張らないと引き千切るモジャ』という声援が聞こえてきたお陰ですかね」
「……そうなんですか」
タマの方を見る。
視線を逸らされた。
まさか張りついてたんじゃないだろうな。
「とりあえず、メインはこのデザインで行きます。散々練習したので、材料を変えてもある程度のクオリティは維持できると思います」
「やっぱり難しいんですか?」
「素材のレア度が上がるとその分成功率と品質は下がっちゃいますね。厳密に言うと、劣化率が上がると言いますか……」
純白猫は装備の作成に関してざっくり説明してくれた。
装備を作成する時は、スキルレベルやステータス、素材との兼ね合いでまず成功確率が算出される。
上手く成功すると、今度は品質やレア度、能力値が算出される。
効果は方向性は指定できるが、ピンポイントの指定は出来ない。
レア度が高い素材を使うと基本の性能は高くなる。
しかし、品質は上がりづらくなる。
高レア度の素材で高品質の装備を作る為には、いくつかの方法がある。
スキルレベルを上げる。
レベルを上げる。
ステータスを上げる。
補正のかかるスキルを取得する。
等だ。
生産に有利になる効果を持つ装備も、世の中には存在する。
マッスル☆タケダが、パシオンから褒美としてもらっていたような気がする。
逆に言うと、同じ条件で素材のレア度だけ上げると、品質は下がってしまう。
品質が一定以下になる場合は、成功確率に関係なく強制的に失敗してしまうらしい。
しかも、品質による性能の上下はレア度が高いほど激しいそうだ。
腕前が伴わない間は無理にレアな素材を使うよりも、ありふれた素材の方が強い武器になったりもするんだとか。
レアな素材を使い潰して強引にスキルレベルを上げる方法もある。
勿体な過ぎて、余程の余裕がないと出来ないブルジョアレベリングに分類されているそうだ。
この情報はトップ生産職プレイヤーと名高い≪ゴン太≫が、情報収集大好きなプレイヤー数人と協力して得たデータらしい。
この世界でも検証好きはいるんだな。
こういう仕様だったから、純白猫はひたすら数を作ってスキルレベルを上げていたわけだ。
俺の持ち込んだ素材のレア度はどれも高めだからな。
申し訳ない。
でも色々作り放題だから、純白猫に損は無い筈だ。
素材は全部こっち持ちだし。
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