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241 最低の提案

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 ミゼルとの結婚。
 そういう話もあった。
 
 一目惚れしたとかされたとか、そういうわけではない。

 少し前に、ストーレの街にある城が魔王みたいな何かに襲われた。
 ミゼルの誕生日であり、成人の儀式が行われた日だ。
 依頼を受けた縁で招待されていた俺達は、その場に居合わせた。

 そのイベントは、ワールドクエストのプロローグ的なものだったんだと思う。
 所謂負けイベントだ。
 モグラ達との話し合いでは、本来は王族は全員殺されていただろうという結論に至った。

 しかし、偶然にも仕様の穴をついて、俺達は魔王モドキを撃退した。
 おろし金も大活躍だった。
 むしろ、おろし金がいなければ見ていることしか出来なかっただろう。

 その活躍で、おろし金は生ける守護竜認定をされた。
 お陰で城に寄る度に貢物をもらっていたりする。

 そんなおろし金の主人である俺にも、国王は注目してしまった。
 おろし金との関係を強固なものにする為に、ミゼルとの結婚を強く勧めてきた。
 ミゼルも本人も、国の為にはそれが一番良いと判断した。

 早い話が政略結婚だ。

 けど、困った。
 俺は今の生活で満足してしまっている。
 家もあるし、家族もいる。

 王族と結婚することに、特に魅力を感じない。
 ミゼルは良い子だと思うけど、それだけだ。
 今の生活を捨ててまで手に入れたいとは思っていない。

 ミルキーは気にしないと言ってくれていたけど、複数の女性と結婚するのはやっぱり抵抗を感じるし。

「結婚っていうのは、政略結婚ですよね」
「はい、そうですわね」
「俺が王族に婿入りするんですか?」
「お兄様がああですので……。世継ぎを得る為にも、私が家を出る訳には参りませんの」

 ミゼルの笑顔が微妙な感じになった。
 パシオンは重度のシスコンだからな。
 ミゼル以外とは結婚などしない、なんて平気で言いそうだ。
 将来も不安になる。

「――すみません。俺は、今の生活が気に入っています。離れることは出来ません」
「私と結婚すれば沢山の……ふふ、ナガマサ様は、そのようなものをお望みではなかったですわね」
「え?」
「貴方を見ていましたから。きっと、断られるだろうと思っていました」

 ミゼルはくるりと回って背を向けた。
 何故だか、弾むような声だ。
 なんとなく気まずくて、言葉が出てこない。

「この村でのんびりと暮らす姿は、とても楽しそうでした」
「はい。みんなもいるし、楽しくて仕方がないです」
「私も、村の皆さんやナガマサ様、タマちゃん、ミルキー様達と過ごす時間がとても楽しいと感じましたわ」
「……もしミゼル様がこの村に嫁いできてくれるなら、俺達の生活にミゼルが加わる形なら、歓迎します」

 何を言ってるんだろうか俺は。
 王族に嫁いで自分に責任と義務が生まれるのは嫌なのに、相手には嫁ぐことを望むなんて。

 ミゼルの笑顔は、とても眩しい。
 綺麗だ。
 俺はずるい。

 生活を捨ててまで欲しくないと思った。
 言いかえれば、生活を捨てなくても良いなら、欲しいということだ。
 男としてどうなんだろうか。

 現実では、普通に生活したことはほぼない。
 ベッドの上にいる時間が、人生のほとんどを占めていた。
 経験も知識も足らな過ぎる。
 最低なことを言ってから後悔しても遅いんだけどな!

 なんでこんなこと言ったんだ。
 ミゼルが嫁ぐことは出来ないだろうと思ってつい出てしまったんだろうか。
 余計最低だ。

「そう出来たら、とても楽しそうですわ」
「きっと楽しいと思います。もしそうなったら……こんな情けない俺ですが、精一杯幸せにするよう、努力します」
「ありがとうございます」

 ミゼルが振り返った。
 今までと同じ、いや、それ以上の笑顔だった。

「私は、一度お城へ戻ります」
「そうなんですか」
「はい。お父様もお兄様も、寂しがってうるさいと騎士達から報告がありましたので。それと、色々準備しなければならなくなりました」
「寂しくなりますね」
「お城へいらしたら、いつでもお知らせください。またお食事をしながら、お話を聞かせてください」
「分かりました」

 笑顔の意味は聞けなかった。

 でもやっぱり、ミゼルは俺と結婚することはないんだろう。
 この国の為に、もっと立派な人と結婚して王族を、この国を、繁栄させていくに違いない。

 差し出された手を取って、家まで送った。
 ミゼルは一言挨拶をして、我が家の隣に建つ家へ入って行った。

「ただいまー」
「おかえりなさい」

 俺も自分の家に帰った。
 中にはミルキーがいて、出迎えてくれた。

「何かあったんですか?」
「何かあったというか、自己嫌悪かな」
「お茶でも淹れますから、何があったのか話してください」

 ミルキーに優しく対応されて、少しホッとした。
 話すのは少し恥ずかしい。

 でも自分の恥だし、自業自得だ。
 包み隠さず、全てを話した。
 俺がどう思っていたのか、全部だ。

「そういうことですか。確かに、言葉だけを見ると中々に最低だと思いますけど……」
「だよね……」

 思わず項垂れてしまう。
 ミゼルにも失礼な発言だもんなぁ。
 どうしてあんなこと言ったんだろうか。

「でも、気にしなくて大丈夫だと思います」
「え?」
「とりあえず今夜はもう寝ちゃいましょう。明後日のお別れパーティーに向けて準備とかもあるんですから」
「えっ、でも」
「ほらほら、ベッドに入って寝ちゃってください」

 何故か押しの強いミルキーに負けて、布団に潜り込んだ。 
 一体どうしたんだ。
 まぁいいや、言われた通り寝てしまおう。
 ミルキーに話したお陰でちょっと気が楽になったし。

 明日はまず純白猫に会って出来具合の確認だ。
 葵の送別会は明後日の夜。
 正式リリースがされてからだ。

 正午からしばらくは家から出たくないから、それまでに大体の準備を終わらせておかないといけない。
 いつまでも後悔してたって仕方がない。
 今度ミゼルに出会ったら謝ろう。

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