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231 露店と薬

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 純白猫はやる気を漲らせて去って行った。
 確かに契約自体はほぼ徹夜でという話になっている。
 でも連日徹夜は死にかねない。

 ぶっ続けではなく、死なない程度に休憩は挟んで欲しい。
 時間がないのは確かだけど。
 注文した側としては複雑な心境だ。
 これがジレンマっていうやつか。

 その辺りは自分で調整してもらえると信じたい。
 ちょっと心配なのが、好きなことに熱中すると周りが見えなくなりそうなところか。
 よくあのホラーな仮面だけを露店に並べてるからな。
 悪いことだとは思わない。
 ただ、それをするには強いメンタルか、強いこだわりが必要だろうと思うだけだ。

 俺とタマとおろし金は、大通りを歩いていた。
 立ち並ぶ露店の前をゆっくり歩く。
 並べられた商品を眺めるだけでも面白い。
 目的の物はあるが、関係なく見てしまう。

 タマも、何か気に入ったものがないか探しているようだ。
 目をキラキラさせて露店を見て周っている。
 タマと葵がお揃いで装備している≪ミニクラウン≫みたいにいいものが見つかるといいな。

「兄さん兄さん、うちのアイテム見て行かない? ほとんど店売りしてない便利な消耗品だよ」

 何となく見ていた露店の主に声を掛けられた。
 商品は色々な形の瓶に入った液体。
 薬屋のようだ。

 アイコンの色は緑。
 プレイヤーだ。
 名前は≪ツッチー!≫。
 装備はどことなく魔法使いっぽい。
 自分で生産してるんだろうか。

 ちなみに、店売りの店とはNPCの構える商店のことを指す。
 位置が固定で営業時間内ならいつでも売買が出来る。
 その代わり、商品の種類もほぼ固定。
 変わったものや掘り出しものが欲しければ、露店を漁るのがいい。

 これは、ミーガンに教わったことだ。
 元気にしてるだろうか。

「へぇ、どんなのですか?」
「これは≪HP増大薬≫。一定時間最大HPを増やしてくれる。こっちは≪SP増大薬≫。HPがSPになっただけで効果は一緒だ」

 HPとSPの上限を上げる薬か。
 確かに便利そうだ。
 どのくらい上がるかにもよるが、最大値が増えるということは事故の確率を下げることに繋がる。
 死んだら終わりのこの世界では必須と言ってもいいかもしれない。

「説明を見せてもらってもいいですか?」
「うん、手に取って見てくれていいよ。他のも読んでもらって構わないからね」
「ありがとうございます」

≪HP増大薬≫
消耗品/薬 レア度:C+ 品質:B+
肉体を活性化させて体力を増大させる特殊なポーション。
一定時間で効果は消える上に中毒性もない安全な薬であるが、製法が特殊な為市場には少し出回りにくい。
600秒間最大HPが9%上昇する。

 9%か。
 ≪SP増大薬≫の方は7%だった。
 品質がB-だったからそのせいだろうか。

 割合で見ると微妙かもしれないけど、数字にすると結構増える。
 HPの方は事故防止の為にまとまった数買っておこうかな。
 SPは現状で余ってるから必要はないが、何かに使えるかもしれないしいくつかは買う。

 600秒ということは一つで10分間効果が持続する。
 一時間で六本消費。
 俺とタマとミルキーで十八本か。
 結構数がいりそうだ。

「HPの方の在庫はいくつありますか?」
「昨日せっせと作ったところだからたっぷり300本あるよ」
「じゃあ≪HP増大薬≫を300と、≪SP増大薬≫も20買わせてもらいますね」
「おおっ、兄さんお金持ちだね。毎度あり!」

 露店専用の取引ウインドウに表示された値段を確認する。
 HPは一本1200cでSPは一本1500c。
 合計39万c。
 いやー、良い買い物をした。

「この薬ってツッチーさんが作ったんですか?」
「そうだよ。他のプレイヤーから材料を買い取りして、薬を造っては売ってるんだ」
「買い取りですか。お店や他の露店で買ったりはしないんですか?」
「露店で買い集めるのもいいけど、やっぱり買い取りの方が安くあがるから。露店だと割高なんだよね」
「なるほど」

 なんとなく気が合って、しばらく話し込んだ。

 ツッチーの露店には、買い取りの看板が添えられている。
 ここに書いてある素材はこの値段で買い取る、という意思表示だ。
 これを見た通りすがりのプレイヤーがふらっと売って行ったり、買い取ってもらうことを目的に集めてくるんだそうだ。

 買い取り価格は他の店や露店に売るよりも少し高め、露店で売られているよりも安めを心がけているらしい。

「あれ見てみてよ」
「はい?」

 指差した先を見る。
 近くの露店で、ツッチーが買い取りたい素材が少し高めに並べられている。
 店主らしきプレイヤーは不敵な笑顔を浮かべている。
 欲しければ金を出せ、ということだろう。
 恐ろしい。
 ツッチー曰く、どうしても必要な時があって買ってしまうことがあるらしい。

 フルーツアイランドへ行く時も足元を見た露店があったな。
 素材を取りに行く手間が惜しくて、買ってしまった。
 勿論割高なのを分かってだ。
 みんな上手いこと考えるものだ。

「ありがとうございました」
「こちらこそ。またどうぞ!」

 ≪HP増大薬≫は三人で使ったとして、十六時間分くらいはある。
 また無くなったら買いにこよう。

 さぁ、まだまだ色んな露店を覗くぞ。
 
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