上 下
237 / 338

228 木 二度寝と追加

しおりを挟む

「ううん……朝か……?」
「おはよー! 起きるモジャ?」

 目を開けると、部屋がすっかり明るくなっていた。
 ベッドの縁に腰かけていたタマが俺の顔を覗きこんでくる。
 
 昨日は夜中に色々あって疲れた。
 今朝はゆっくり起きると話をしてあったから、起こそうとせずに確認してくれているようだ。

 ウインドウを開く。
 時間は朝6時。
 いつも起きてる時間だ。
 疲れてる筈なのに目が覚めるのは、しっかり休みたい時には困るな。

「もう少し寝るよ。タマもゆっくりしてていいんだぞ」
「んー、タマはおろし金と畑に行ってくるね!」
「そうか、気を付けて行ってくるんだぞ」
「はーい!」

 タマは元気よく返事をして、部屋を飛び出していった。
 いつも元気だ。
 日課の畑仕事をやっておいてくれるらしい。
 後でよく褒めてやらないといけないな。

 とりあえず二度寝しよう……。

 



「んん……もう10時か。沢山寝たな」

 ベッドから降りて伸びをする。
 固くなった筋肉が伸びて気持ちいい。
 本来の肉体はもうないのに、すごい再現度だ。

 このなんでもない動作ですら感動してしまう。
 伸びが出来るって、なんて素晴らしいんだろう。
 この世界に来て本当に良かった。

 部屋を出て、一階へ降りる。
 階段の下はリビングに繋がっている。
 ミルキーが隣のキッチンに立っているのが見えた。

「おはよう」
「あ、ナガマサさん、おはようございます」
「誰もいないね。寝すぎちゃったかな」
「タマちゃんは少し前に朝ごはんを食べて、どこかへ出かけて行きましたよ。葵ちゃんはまだ寝てると思います」
「なるほど」

 静かだと思ったら、タマはどこかへ出かけているらしい。
 少し前なら畑仕事は終わってるだろうから、遊びにでも行ったかな。

 葵は昨日頑張った。
 小規模とはいえ、PK集団に襲われて、リーダーであるコッカーと一騎討ちまでした。
 いくらある程度鍛えたと言っても、普通の女の子だ。
 精神的な疲労は計り知れない。
 ゆっくり休むべきだし、沢山労ってあげないといけない。

「ミルキーは何時に起きたの?」
「私は7時くらいですね。少し寝坊しちゃいました。あ、今朝ごはん用意しますね」
「ありがとう」

 ミルキーの用意した朝食を美味しく頂きながら、ミルキーと今日の予定を話し合った。
 そんなに予定がある訳でもないが、確認みたいなものだ。

 まずは畑の様子をちら見。
 タマが行ってくれたようだけど、自分の目で確認しておきたい。

 次に、純白猫の様子を見に行く。
 昨日ある程度の素材を預けたから、練習とスキルレベル上げをある程度している筈だ。
 葵とお別れする日までに間に合うか、確認をしておきたい。
 素材が足りないようだったら補充も必要だしな。

 予定としてはこのくらいだ。

 モグラからメッセージが届いていた。
 どうやら朝早くに俺からのメッセージを読んで、即座にストーレに飛んで帰ったそうだ。
 メンバーの一人に大反対されたけど、俺のことを信じて押し切ったんだとか。
 結局そのメンバーが裏切り者で、激闘を繰り広げたとも書いてあった。

 そいつは逃がしてしまったが、モグラもゴロウも無事帰還。
 PK側にも作戦の失敗は伝わっただろうから、大きな動きはないだろうとのことだ。
 それでも一応今日は厳戒態勢で警戒しておくそうだから、街は今日も平和だろう。

 本当にすごい人だ。
 激闘のこととか、また今度詳しく聞きたいな。

「ご馳走様でした」
「お粗末様でした」
「ちょっと畑見てくるね」
「分かりました。すぐストーレに行けるよう準備しておきますね」
「いってきます」
「いってらっしゃい」

 畑へ向かう。
 いい天気だ。
 村は今日ものどかだな。

「キュル」
「あ、モジャだー!」

 畑へ着くと、おろし金とタマが出迎えてくれた。
 どこに行ったのかと思ったら、まだ畑に居たのか。
 一体何してたんだろうか。

「畑仕事してたのか?」
「んーん。あれ見てあれ!」
「うん?」

 タマが指を指したのは、≪モジャ畑≫の中央に生える樹の上部分。
 正確には、畑に埋まっている巨大なイカが背負った貝の中ほどから生えた樹の、葉が生い茂っている場所。

 そこには、いくつもの沈黙を表す吹き出しが見える。
 あれは一体なんだろうか。
 巨大イカこと≪ピンポン玉≫の側へ行ってみると、足や腕が見える。

 空中を蹴って更に近づくと、アイコンと名前が表示された。
 どうやらこれはプレイヤーらしい。
 その中には、昨日葵に負けたコッカーの名前もある。

 枝葉の中に突っ込んでみると、蔦のようなもので縛られたコッカーが居た。
 見張りなのか≪イチゴ細マッチョ≫と≪リンゴ細マッチョ≫の二体に抱きかかえられている。

「もご! もごごもごもごごー!」

 コッカーが必死に何かを訴えようとしているが、沈黙の状態異常のせいで意味不明だ。
 沈黙にかかると、言葉が封じられる。
 スキルも使えなくなるから、脱出出来ない訳だ。

「あっはっは、何言ってるかさっぱり分からないですね」
「もごー!」

 中々面白い絵面だった。
 半泣きだったけど、今日を合わせて五日間頑張って欲しい。

 しかし、他にも細マッチョ達に捕まってたプレイヤーは何なんだろうか。

 畑の柔らかい土に降り立つと、石華が歩いているのを見つけた。
 丁度いい。
 通訳してもらってあのプレイヤー達が何なのか、ピンポン玉に聞いてみよう。

 早速石華の近くまで一歩で移動する。

「おはよう石華」
『む、ご主人様ではないか、おはよう。どうかしたかのう?』
「ちょっとお願いがあって」
『何でも話すが良いのじゃ』

 石華は村の住人に頼まれて、家畜モンスターの様子を見ていたらしい。
 モンスターの気持ちを通訳することで状態の把握に一役買っているそうだ。
 すごい馴染んでるな。

 俺も通訳をお願いすると、快く引き受けてくれた。
 石華の通訳でピンポン玉から事情を聞いて、あのプレイヤー達の正体が判明した。

 あれは、PKプレイヤーキラーだった。
 多分、コッカーがどうにかして助けを呼んだんだろう。
 それで返り討ちにあって、ああなったと。

 合わせてタマも教えてくれた。
 タマとおろし金が畑仕事をしている時にも何人か来たらしい。
 それはタマが瞬殺して、同じように筋肉抱き枕の刑に処した。

 それが面白かったから、一旦家に帰って朝食を摂った後、他に獲物が来ないかとここで待機していたらしい。
 PK達の自業自得だから仕方ないな。
 コッカーと同じタイミングで解放したらいいだろう。

「おかげで色々分かったよ、ありがとう」
『なに、ご主人様の為ならこれくらいお安い御用なのじゃ。他に困ったことは無いかの?』
「ああ、もう大丈夫。助かったよ」
『ではわらわは行くのじゃ。他にも何件か周らなければならんからのう』
「うん、気を付けてな。タマ、おろし金、俺達も一旦帰ろうか。これからストーレの街に行くぞ」
「はーい!」
「キュル!」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

異世界転移したので、のんびり楽しみます。

ゆーふー
ファンタジー
信号無視した車に轢かれ、命を落としたことをきっかけに異世界に転移することに。異世界で長生きするために主人公が望んだのは、「のんびり過ごせる力」 主人公は神様に貰った力でのんびり平和に長生きできるのか。

死んだのに異世界に転生しました!

drop
ファンタジー
友人が車に引かれそうになったところを助けて引かれ死んでしまった夜乃 凪(よるの なぎ)。死ぬはずの夜乃は神様により別の世界に転生することになった。 この物語は異世界テンプレ要素が多いです。 主人公最強&チートですね 主人公のキャラ崩壊具合はそうゆうものだと思ってください! 初めて書くので 読みづらい部分や誤字が沢山あると思います。 それでもいいという方はどうぞ! (本編は完結しました)

異世界転生でチートを授かった俺、最弱劣等職なのに実は最強だけど目立ちたくないのでまったりスローライフをめざす ~奴隷を買って魔法学(以下略)

朝食ダンゴ
ファンタジー
不慮の事故(死神の手違い)で命を落としてしまった日本人・御厨 蓮(みくりや れん)は、間違えて死んでしまったお詫びにチートスキルを与えられ、ロートス・アルバレスとして異世界に転生する。 「目立つとろくなことがない。絶対に目立たず生きていくぞ」 生前、目立っていたことで死神に間違えられ死ぬことになってしまった経験から、異世界では決して目立たないことを決意するロートス。 十三歳の誕生日に行われた「鑑定の儀」で、クソスキルを与えられたロートスは、最弱劣等職「無職」となる。 そうなると、両親に将来を心配され、半ば強制的に魔法学園へ入学させられてしまう。 魔法学園のある王都ブランドンに向かう途中で、捨て売りされていた奴隷少女サラを購入したロートスは、とにかく目立たない平穏な学園生活を願うのだった……。 ※『小説家になろう』でも掲載しています。

魔力は最強だが魔法が使えぬ残念王子の転生者、宇宙船を得てスペオペ世界で個人事業主になる。

なつきコイン
SF
剣と魔法と宇宙船 ~ファンタジーな世界に転生したと思っていたが、実はスペースオペラな世界だった~ 第三王子のセイヤは、引きこもりの転生者である。 転生ボーナスを魔力に極振りしたら、魔力が高過ぎて魔法が制御できず、残念王子と呼ばれ、ショックでそのまま、前世と同じように引きこもりになってしまった。 ある時、業を煮やした国王の命令で、セイヤは宝物庫の整理に行き、そこで、謎の球体をみつける。 試しに、それに魔力を込めると、宇宙に連れ出されてしまい、宇宙船を手に入れることになる。 セイヤの高過ぎる魔力は、宇宙船を動かすのにはぴったりだった。 連れて行かれたドックで、アシスタントのチハルを買うために、借金をしたセイヤは、個人事業主として宇宙船を使って仕事を始めることにする。 一方、セイヤの婚約者であるリリスは、飛んでいったセイヤを探して奔走する。 第三部完結

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

知識を従え異世界へ

式田レイ
ファンタジー
何の取り柄もない嵐山コルトが本と出会い、なんの因果か事故に遭い死んでしまった。これが幸運なのか異世界に転生し、冒険の旅をしていろいろな人に合い成長する。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

処理中です...