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226 逃走と仕切り直し
しおりを挟む二人は距離を取ってお互いに武器を構えた。
葵は父親の形見でもある剣。
見るからに強力そうで、かっこいい。
正確には≪魔導機械≫というカテゴリに属するらしい。
コッカーの方は……木の板?
長さは120cmくらいで、幅は20cm無いくらいか。
両端が丸くなっている。
あれはどこかで見たことがある気がするけど、なんだったっけ。
「アイスの、棒?」
「当たり。僕の相棒だよ」
葵の呟きにコッカーが答えた。
なるほど。
アイスの棒って、武器になるのか。
一体どんな戦い方になるんだろう。
見た目だけで判断すると剣なんだけど。
カウントダウンが始まる。
3、2、1、始まった。
「≪閃光弾≫!!」
「っ!?」
「――!!」
開始の合図と同時に、激しい光と音がコッカーから放たれた。
目潰しのスキルか何かだろう。
眩しいが、ステータスのお陰か俺達の目が潰れることはない。
二人の姿もきちんと見えている。
葵は影響があるのか、片腕で目を覆っている。
咄嗟の反応の可能性もあるな。
その隙を突いてコッカーが何かを口にした。
激しい音に紛れて聞き取れなかった。
スキルかと思ったが、違った。
葵の頭上に、『Win!!』の文字が出現した。
どうやら、コッカーが口にしたのは降参の言葉のようだ。
万が一を考えて降参はありにしたが、裏目に出たようだ。
多分、フィールドが解除されたと同時に逃げる気だろう。
そうはさせない。
転移スキルを発動する前にコッカーに≪目印≫を使用しておく。
「≪テレポート≫!」
「あっ……!?」
「あいつ逃げたー!!」
コッカーの姿が消えた。
光と音が収まり、腕を下ろした葵が呆然としている。
「ナガマサさん、逃げちゃいましたよ!」
「ぶっ殺そう!!」
「装備とお金を捨ててでも逃げたかったみたいだね。タマ、ちょっと落ち着いて」
「ぶっ半殺そう!!」
「よし」
「なんですかあの人、絶対に許せません!」
「大丈夫、なんとか間に合ったから」
「間に合った、ですか?」
コッカーが降参したことで、形式的には葵の勝利だ。
勝負前に設定していた報酬が葵に送られている。
しかし、葵もミルキーも俺もタマも、誰一人として納得していない。
まだ呆然としている葵の為にも、見逃すつもりはない。
「ちょっと迎えに行ってくるよ。その間にPKの人達を縛っておいてもらっていい?」
「分かりました」
「はーい!」
葵はまだ立ったまま呆然としている。
こっちも声をかけておかないと。
「葵ちゃん。あいつ連れてくるから、ちょっと待ってて」
「出来るの?」
「任せといて」
「お願い。あいつ、絶対許さない……!」
「その意気だよ。それじゃあ行ってくる」
マップを開いてコッカーの現在地を確認する。
ストーレの街だ。
すぐ連れて来れるな。
空中を踏みしめて、ストーレの街へ向かう。
壁を越えて街の中へ。
「げぇ!?」
一軒の宿へ入ろうとしていたコッカーを確保した。
首根っこを摑まえて、葵のところへ連行する。
数分経たずに戻ってこれた。
葵の前に、すっかり大人しくなったコッカーを転がした。
「次真面目に戦わなかったら痛みでおかしくなるまで延々と攻撃し続けますからね」
「私にもやらせて下さい」
「タマも!」
「私も……!」
コッカーへ脅しをかけておく。
皆も乗っかって来た。
よっぽど腹が立ったんだろう。
ムッキーも全身を使って頷いている。
混ざりたいようだ。
「わ、分かった。真面目に戦うから命だけは許してくれ」
「保証しますって」
コッカーの気持ちも分からないでもない。
葵との決闘とはいえ、背後には俺達が控えている。
捕まった時点で勝とうが負けようが、どちらにせよ命の保証は無い。
それなら全財産を捨ててでも逃げ出した方がマシだ。
しかし、俺達からするとそれは侮辱以外の何物でもない。
特に葵は、相当馬鹿にされた気分だろう。
何にせよ、コッカーは判断を間違えた。
それを言うなら俺達にちょっかいを出した時点で大間違いなんだが。
幸せな第二の人生を邪魔するなら、容赦はしないからな。
コッカーのメイン装備だけは返却して、決闘の申請からやり直しになった。
装備が無い状態で勝負して、負けをそのせいにされても気分が悪い。
正々堂々葵が勝たないと意味が無いからな。
ちなみに、今回は降参は無しの設定にした。
その代わり10分の制限時間が追加された。
これで、長引くこともなく強制的に結果が決まる。
「あーくっそ、どんだけチートなんだよ。こうなったら思い切り八つ当たりしてやる。痛い目見ても僕を恨むんじゃないぞ」
「それはこっちの台詞。恨むなら自分を恨んでね……!」
「ふん、余裕ぶってるのも今の内だよ」
仕切り直しのカウントダウンが、0になった。
「≪起動(スタートアップ)≫!」
「≪オーラブレード≫!」
二人同時に駆け出し、二人同時にスキルを発動した。
どちらもバフ効果を持つスキルだと思う。
葵の剣に刻まれている溝が輝きを増し、右腕を覆う装備にも光の線が奔っている。
コッカーの持つアイスの棒も薄らとした黄色い光に包まれた。
炎のように揺らめいて、動きに合わせて尾を引いている。
二人の距離は一瞬にして縮まり、葵の振るう剣とコッカーの相棒が激突した。
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