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211 成長の証
しおりを挟む「ちょっと待って……!」
「うん? 何ー?」
モグラが去ろうとしたところで、葵が声を掛けた。
モグラが振り返る。
お酒を結構飲んでいたから顔が赤い。
「どれくらい成長したか、見て欲しいの……!」
「今かー、まぁ、いいよ」
「大丈夫ですか? 結構飲んでましたけど……」
「だいじょーぶだいじょーぶ。これくらい、何の影響もないよ」
本人がそう言うなら大丈夫か。
葵の要望を叶える為に移動する。
やって来たのは、今日も待ち合わせに使った広場だ。
決闘の申請が行われて、受諾される。
周囲にはフィールドが生成されていく。
細かい設定は分からないが、酷い設定にはなっていない筈だ。
「頑張れあおいー!」
「さぁて、どこからでもかかって来ていいよ」
モグラはいつもの鎧姿に片手剣。
いつもサングラスを掛けているが、今も掛けている。
夜でも見えるんだろうか。
リラックスした様子で葵を待っている。
あれは、どっちかと言うと油断してるな。
葵は背中の剣の柄へと手を伸ばす。
今までは持つことすら満足に出来なかった。
それが今は、鞘をストレージに仕舞い、重量の全てが右手にかかっても、持っていかれることはない。
しっかりと保持したまま、抜き放つように構える。
「ふー……ふっ!」
「――おおっ!?」
葵が鋭い踏み込みと共に剣を振るった。
モグラが手に持つ剣で受ける。
葵の動きに驚いたようだ。
びっくりした顔と、焦ったような声が物語っている。
ふふん、葵を舐めてると痛い目を見るぞ。
「あー、びっくりしうぐっ!?」
面喰いながらも後ろに下がっていたモグラは、攻撃の勢いも利用して距離を取る。
しかし、葵の攻撃は終わらない。
しっかりと距離を詰めてさらに追撃。
体勢を立て直していたモグラは余裕たっぷりに剣で弾いた。
が、ほぼ同じタイミングで放たれた葵の蹴りがモグラの脇腹に突き刺さった。
えぐい。
葵は剣捌きだけでなく、体術もかなりのレベルで習得していた。
これも≪オレンジ細マッチョ≫との修行の成果だ。
葵はまだまだ攻め立てる。
モグラと違って油断はしないし、手加減も一切ない。
全力だ。
モグラに成長した姿を見てもらいたいんだろう。
葵の攻撃をモグラが辛うじて防ぐ。
偶に反撃もするが、全ていいように捌かれてしまっている。
体力的にはどちらもほぼ減っていないが、葵が優勢に見える。
モグラって結構強かった気がするんだけどなぁ。
やっぱり≪オレンジ細マッチョ≫との特訓は、レベルでは計れない強さを葵にくれたようだ。
「参った!」
「っ……!」
ついに葵の猛攻にモグラが耐え切れず、ガードが大きく弾かれた。
完全に無防備になったモグラを返す一閃が切り裂こうとしたところで、モグラが負けを認めた。
葵の動きが止まる。
その刃はモグラの肩の数cm上だ。
葵の頭上に『Win!!』という派手な文字が現れる。
「どうだった……?」
「いやー、すごいね、レベル差あっても全然攻撃通じないし、そもそも防ぐのでやっとだったよ。これでレベルが同じだったら速攻負けてるんじゃないかな」
「やった……!」
武器を仕舞ったモグラが感想を伝えている。
成長をしっかり見てもらえたのが嬉しかったんだろう。
葵は小さくガッツポーズをしている。
「超頑張ったみたいだね。すごいよ葵」
「えへへ」
「やったー!葵おめでとー!」
「ありがとう……!」
「お疲れ様です」
「ナガマサさんも、ありがとね。葵がどれくらい強くなったかしっかり伝わったけど、ナガマサさんが預かってくれたお陰でもあるから」
「俺はほんの少しお手伝いしただけですからね。葵ちゃんの頑張りの結果ですよ」
「はは、勿論承知してるよ」
俺は大したことはしていない。
どうしても他の武器を使いたくなかった葵が、そのまま戦えるようにはしたし、転職出来るくらいまでは過保護状態だった。
でも、それだけだ。
レベルが低くても、技量だけでモグラに有効打をいれられるまでになったのは、葵が頑張ったからだ。
いくら環境を整えたって、成長しない人はいる。
葵がそうじゃなかったからこそ、勝てたんだ。
まぁ、ステータスが負けてるかどうかっていうと、分からないんだけど。
葵のステータスって今何倍になってるんだろうね。
モグラもスキルを使ってないし、何より、全力だったとは思えない。
「葵、勝利のダンスを踊ろう!」
「え、え……?」
「ほらこっち!」
「わわっ……まっ……!?」
「モグラさん、酔ってません?」
タマが葵を引っ張っていった。
もしかして、葵が居ると聞きづらいことを察してくれたんだろうか。
「いやいや、そんなことないよ。さっきも言ったけど、このくらい何の影響もないって」
「本当ですか?」
モグラは、そこまでお酒に強くない。
以前我が家で飲んだ時は、完全に酔っぱらって全裸で村を全力疾走していた程だ。
「ほんとほんと。もしお酒を一滴も飲んでなくても、結果は同じだったよ」
「そうですか」
でも、モグラがそう言うんならそうなんだろう。
少なくとも、今はそれで良い筈だ。
「おーい、帰るぞー」
「はーい!」
ご機嫌なタマと、同じくらいご機嫌な葵と共に、鼻歌混じりのモグラを見送った。
さぁ、俺達も帰ろう。
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