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192 にゃーことゴロウ

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 俺達は≪五体解放≫の効果で空を走れるし、所謂瞬間移動が出来る。
 その最大距離は測ったことはない。
 空中でとにかく一番遠くを指定してひたすら跳ぶ。
 
 遮蔽物の無い空中だと、多分一歩で1kmくらいは移動出来ている。
 ≪極・神脚疾駆≫の効果で移動速度の最大値も上がってる俺達が、全力で移動するとどうなるか。
 四エリア程離れたストーレの街の上空に到着するまで10秒かかるかどうかだった。

 ゴロウからのメッセージが最後に届いたのは、丁度狩りが終わった時だった。
 あれ以降届いていない。
 居場所とかは特に書いてなかったけど今どこにいるんだ。

「こっち!」

 タマがある方向へ飛んでいく。
 何かに気付いたようだ。
 俺とミルキーは後を追いかける。

 タマが降り立ったのは、複雑に入り組んだ路地裏だった。
 なんかこの辺り見たことある。
 俺がPKに襲われたのもこの辺じゃなかったか。

「にゃーこさん!」
「にゃあ」
「なんだてめぇら!」
「あなた達こそ、なんなんですか!」

 そこには武器を構えた二人のプレイヤーと、傷ついた猫がいた。
 タマが今にも飛び掛かりそうだったプレイヤーの前に立ちはだかる。
 凄む男達に、ミルキーも参戦した。

 毛むくじゃらな猫だ。
 あの毛皮は見覚えがある。
 タマが言った通り、にゃーこという名前の、ゴロウの相棒だ。
 何故こんなところに一匹でいるんだ。

 あっちは二人に任せてにゃーこを保護しよう。

「げはっ!!」
「ぐべぉ!?」

 ≪応急手当≫を使用してにゃーこを回復させる。
 ゴロウの代わりに戦ってたのか?
 偉いぞ。よしよし。

 男達はさくっとのされたようだ。
 一応、死んでないのは確認した。

「お疲れ様」
「タマはさいきょーだから大丈夫! にゃーこさんを苛めるやつは敵!」
「そうだな、えらいえらい」
「わーい!」
「ところで、この二人はどうしようか」
「PKは街の兵士に引き渡せば牢屋に入れてくれるらしいですよ。ただ、相棒だけを狙った場合PKになるかどうか分かりませんね」
「なるほど」
「でも一応連れて行くだけはしてみますね。ナガマサさんはゴロウさんを助けてあげてください」
「ありがとう」

 おろし金と、いつか使ったロープをミルキーに預ける。
 ミルキー一人でもこの二人を運べるだろう。
 けど、魔法使い風の女の子が男二人を担いでたらすごく目立つ。
 だからおろし金はお手伝いだ。

「にゃーこ、ゴロウさんの場所は分かる?」
「にゃあ」
「あっちだって!」
「よし、付いていこう。それじゃあミルキー、そっちはお願いね」
「はい、任されました」

 抱っこしていたにゃーこに聞いてみた。
 一声鳴いて、もぞもぞと動きだした。
 離してやると路地を更に奥へと駆けていく。
 どうやら場所を知っているようだ。
 タマと二人で追いかける。

「にゃあ」

 にゃーこが止まって鳴いた。
 ここ?
 PKもゴロウも、誰もいない。

 狭い路地の途中で、脇にはガラクタが積み上げてある。
 とても誰かが隠れてるようには見えない。

「ゴロウさーん。いますかー?」
「ゴロー! 生きてるー?」

 呼びかけてみるも返事はない。
 にゃーこがいるし、多分生きてると思うよ。

「にゃあ」

 バリバリバリバリ。
 転がっていた木箱をにゃーこが爪で引っ掻いた。
 蓋を開けてみたが、中は空っぽだった。
 
 じゃあどこだろう。
 どうしようかと思ったら、空っぽだった筈の木箱から転がり出るようにしてゴロウが現れた。

「ゴロウさん?」
「あ、いた!」
「ナガマサさん! 助かったー。ちゃんと連れてきてくれたんだな、えらいぞにゃーこ」
「無事だったんですね。一体どうしたんですか?」
「ちょっと聞いてくださいよ。今回はマジでやばかったんで。不運(ハードラック)と踊(ダンス)っちまうとこだったんですよ!」

 ゴロウは興奮気味に、何があったか教えてくれた。

 ゴロウは冒険者兼商人だ。
 狩りに出ない時は露店を開いている。
 少し路地の方に入った場所でやっている割には、お客さんも増えたそうだ。

 今日も空いた時間で露店を開いていたが、15時半頃に店を畳んで、移動を開始した。
 昼過ぎにモグラから連絡があって待ち合わせをしたから、早めに店じまいしたんだそうだ。
 多分、運営からのメッセージの件だろう。

 時間がギリギリになったから人気の無い路地裏を通っていたら、誰かにつけられている感じがした。
 その時点でモグラに連絡するも、返事が来ない。
 それで俺の方にもメッセージを送った。

「ナガマサさんと炊飯器以上に頼れる存在を俺は知らないから」

 というのがゴロウの言葉。
 スイッチ一つでご飯が炊けるなんて、炊飯器は俺より高性能だと思う。
 
 そしてPKに遭遇。
 最初に襲われた時は、一人が相手だったからなんとか退けた。
 しかし、何故かその日はPKが大勢いて、ゴロウを追いかけたらしい。

 で、この場所で木箱と自分を合成することで、上手くやり過ごしたということだった。
 特殊な職業なだけあってすごいスキルがあるな。
 俺もタマも全く気付かなかった。

 最後の途切れたメッセージは、文字を打ってる最中に追いつかれそうになって咄嗟にスキルを起動したからそうなったらしい。
 木箱と合成したら両手も使えないし、解除するまで何も出来ないんだとか。
 スキルを使う前に、俺達を探して連れてくるようににゃーこを放ったのはファインプレーだった。

 それでにゃーこはPKに見つかって、戦闘になってたようだけど。
 あれがなければまだ探していたかもしれない。
 もしかしてタマは、にゃーこが戦ってる音で気付いたんだろうか。

「とりあえずモグラさんと合流しましょう。護衛しますよ」
「ありがとうありがとう。これで怖いもの無しだ! かかってこいやPK共ー!」
「蹴散らしてやるー!」
「流石タマちゃん! 最強! 可愛い!」
「へへーん!」

 
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