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161 交渉と挑発

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 ドアを開けると、一人の男が立っていた。
 後ろには、さっき来た≪ムラマサ≫がいる。
 ばつの悪そうな顔をしてるな。

 男は少し太っていて、片目を眼帯で隠している。
 怪我でもしてるんだろうか。
 名前は≪伊達正宗≫。
 どこかで見た名前だけど、有名人の名前を借りたのかな。

「どちら様ですか?」
「夜分遅くに失礼する。≪三日月≫のギルドマスター、伊達正宗だ。システムにはないけどな、気分の問題だ。この家の代表者に話があって来たんだが、あんたで間違いないか?」
「そうですが」

 うわぁ、やっぱり≪三日月≫の関係者だった。
 しかもマスター。
 それってリーダーのことだよな。
 話通じなさそうだなぁ。

「まずは、こいつのことでいくつか聞きたい。この家をいくらで買い取ると持ちかけた?」
「ひゃ」
「2Mですマスター!」

 俺が答えようとしたところで、ムラマサの声にかき消された。
 2M?
 その金額は初めて聞いたけど。
 そんな、『分かってるよな?』みたいに睨まれましても。

「お前には聞いてないんだが……。そうなのか?」
「いいえ。100Kです」
「お前……!!」
「やっぱりか。どうやらうちの者が失礼をしたようだ。すまない」

 そう言って、伊達正宗は頭を下げた。
 詳しい話を聞くと、畑と裏の城に興味を持ったのは事実らしい。
 そこで金に糸目は付けないからと、ムラマサを交渉役として送り出した。
 最低買い取り金額は2M。

 だがそこで、ムラマサが暴走。
 本人が言うには、安く済ませて伊達に褒めてもらおうとした。
 プレイヤーなら≪三日月≫に貢献するのは当たり前。
 だそうだ。

 本人は、三日月と伊達のことを想ってとか言っていた。
 安く済ませたとして、実際の金額を正直に言ってたかどうか怪しいところだ。
 浮いた分を懐に入れそうな気がしてならない。
 余所の人に態々難癖つけたりはしないが。

 ちなみに、家の中に入れたくないからずっと玄関で対応している。
 
「というわけで、いくらなら売る?」
「売るつもりはありません。ずっとそう言ってるのに、そこのムラマサさんに聞かなかったんですか?」
「聞いたが、金額が気に入らなかったんじゃないのか? 言い値で買うぞ」
「お金の問題じゃないです。売りません」

 案外悪い人じゃないかもと思ったけど、結局これか。
 売らないと言ってるのにしつこい。
 お金にしか興味が無いと思わないで欲しい。

「そうか……。こんなやり方はしたくないんだが、仕方ないな」
「なんですか?」
「俺達は全員で四十人近くいる。どいつも高レベルばかりだ。それが、今はこの村に集まってるんだぜ」
「――それで?」
「なに、深夜にモンスターが襲撃してくるかもしれないからな。撃退する時に流れ弾があっても許して欲しいだけさ。後は、そうだな。最近PKが活発化しているらしい。このゲームは街や村でもPK出来るから、あんたも気を付けることだ」

 伊達は馬鹿にしたようにニヤついている。
 ――こいつ。
 馬鹿な俺でも分かる。
 武力と人数を笠に着て、脅して来てるんだ。
 危害を加えられても知らないぞと、そう言っている。
 
「心配してもらってありがとうございます。でも、俺達は強いので大丈夫ですよ」
「ほー。それは俺達よりも、か?」
「それは分かりませんけどね」
「そんなに自信があるなら比べてみようじゃないか。俺達が勝てば、この家を売って貰おう」
「なんでそうなるんですか」

 ちょっとムキになった部分はあるけど、別に力で叩きのめしたい訳じゃない。
 それに、勝ったところで大して特にならなそうだし。

 ただ、勝ったら『寄越せ』じゃなくて、『売れ』なのはちょっと凄いと思った。
 完全に横暴って訳でもなさそうなのが、余計対応をどうするか悩んでしまう。
 いっそムラマサみたいに不愉快な方に振り切ってた方が、気が楽だったかもしれない。

「自信がある感じだったじゃないか。もしあんたらが勝てば、この家のことは諦める。買い取る為に提示したお金も、そのままくれてやる。どうだ?」
「お金に興味ありませんから」
「ふーむ……」
「マスター、ちょっと」
「何だ?」

 きっぱりと断ると、何か考え込み始めた。
 そこにムラマサがこそこそと耳打ちをする。
 何だ何だ。
 伊達が悪そうな笑顔を浮かべたぞ。

「そんなにこのボロい家が大事なのか? 中古だし、普通なら売っても1Mもいかないだろう? 今なら20Mで買い取るぜ? どうだ、勝負しないか?」

 いい加減しつこい。
 もうこれを断ったら無理矢理追い帰そう。
 本当に襲ってくるようなら返り討ちに遭わすだけだ。
 もし他の知り合いに手を出されても困るし、そうなったら一人残らず片付けるしかないが。

「おこと――」
「勝負します!」
「えっ」

 きっぱり断ろうとした俺の代わりに、後ろから誰かが答えた。
 そこには、ミルキーとタマが立っていた。
 今のはミルキーの声だ。

「私達は、貴方みたいな人達には負けません!」
「そうだそうだー!」
「ちょっとミルキー――」
「よし、決まりだな。俺達より強いらしいしルールはこちらで決めさせてもらうが、いいか? 弱虫でもなければ、断るなんてことはしないよなぁ」
「それはおか」
「好きにしてください! 絶対に負けませんから!」
「そうだそうだー!」
「あー……」

 ミルキーとタマは完全に頭に血が上っていた。
 伊達の良いようにされてる気がするんだけど、気のせいか?

「細かい日時とルールは決まり次第連絡する。じゃあな、失礼するぜ」
「一昨日来てください!」
「そうだそうだー!」

 こうして伊達は去って行った。
 なんかとんでもない展開になってしまった。

「ナガマサさん、頑張りましょうね!」
「タマも頑張る!」
「ミルキー、どうしてあんなこと言ったの?」
「だって、悔しいじゃないですか。私達の家を馬鹿にして……。ナガマサさんのスキルなら絶対負けませんよ! 見返してやりましょう!」
「ミルキー、俺は楽しくのんびり暮らしていけたらそれでいいと思ってる。俺達は異常に強くなってるけど、それは楽しく生きる為に使うもので、誰かを蹴散らす為にはあんまり使いたくないんだよ」
「でもあの人たちが――」
「向かってくるなら仕方ないけどね。でもさっきのは、向こうにうまく乗せられただけだと思うよ」
「……ごめんなさい」

 そこまで言って分かってくれたのか、ミルキーは謝ってくれた。
 正義感が強いから、我慢出来なかったんだろうな。
 家を馬鹿にされて怒ったのも、大事に思ってくれてる証だし。

 だけど、強いからってそれを全面に出せばあの伊達と変わらなくなってしまう。
 強いからこそ、使い方には気を付けたい。

「決まっちゃったものは仕方ないし、とりあえず勝つことを考えよう。俺達の家は俺達の手で守らないとな」
「はい!」
「タマも頑張る! ミチっと捻り潰すぞー!」

 ミルキーもタマもやる気十分。
 ああは言ったけど、どうせやるからには徹底的にやる。
 家を馬鹿にされて苛立ってるのは俺も一緒だからな。

 翌日、メッセージで決闘に関しての詳細が届いた。

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