159 / 338
152 崩壊と旅立ち
しおりを挟む――ゴゴゴゴゴゴゴゴ。
ドロップアイテムも回収したし、戻ろうかと思ったその時だった。
激しい音と振動が俺達を襲った。
有り得ないぐらい上昇したステータスのお陰かなんともないけど、これはイベントが進行したのかな。
俺達の目の前に光る球体が現れた。
これは≪ダイヤモンドクイーン≫のいる謁見の間と、このエリアとを繋ぐ役割を持っている。
この空間への転送や、ダイヤモンドクイーンとの会話を可能にしてくれる優れものだ。
それがここに来たっていうのは、イベントで間違いなさそうだ。
『討伐に成功したようじゃな』
「はい」
『もうすぐその場所は崩壊するであろう。こちらへ呼び戻すが良いか?』
空間が崩壊する緊急事態なのに聞いてくれるのか。
これ、多少は待ってくれるんだろうな。
ドロップアイテムとかを拾う猶予を残してくれてるのかもしれない。
もしこのまま崩壊して、あのワニと再戦出来ない場合は非難が凄そうだし。
「タマ、ミルキー、やり残したことはないか?」
「もっと心臓狩りたい!」
「大丈夫です!」
「タマ、今回は諦めてくれ」
「モジャー……」
悲しそうに鳴いてるが、これは仕方ない。
よっぽど騎士を狩るのが楽しかったんだな。
またどこかで強敵がわさわさいるダンジョンを探そう。
納得してくれたようだから撤収だ。
「お願いします」
タマ二号に話しかけると、景色が切り替わった。
そこは煌びやかな謁見の間だった。
玉座にはダイヤモンドクイーンもいる。
無事に戻って来られたようだ。
『よくやったぞ、冒険者達よ。戦士達の無念を晴らしてくれて、感謝する』
女王は頭を下げた。
それに追随するように、部屋にいた≪クリスタルナイト≫達が一斉に跪いた。
一糸乱れない動きはすごい迫力だ。
「どういたしまして」
この場面で謙遜するにしても、仕方が分からない。
素直に受け取っておこう。
『……フッ。さて、では褒美をとらそう。大したものではないかもしれぬが、感謝の気持ちじゃ。受け取るがよいぞ』
女王の言葉と共に、俺達の頭上に女神のエフェクトが二人ぶわぁっとなる。
どうやらクエスト完了の経験値で、二人同時にレベルが上がったらしい。
向かい合わせでがっしり手を繋いで百合ポーズだった。
ストレージにも何かアイテムが放り込まれているようだ。
どれどれ。
取り出してよく見てみる。
豪華な作りに見える。
≪宝石女王の腕輪≫
防具/腕輪 レア度:S- 品質:A+
Def:10 Mdef:10
宝石女王の願いが込められた腕輪。
宝石が散りばめられており、中央部分には一際大きなダイヤモンドが輝く。
最大HP+20%
最大SP+20%
スキルディレイ-20%
斬撃耐性+30%
魔法耐性+30%
無属性攻撃耐性+30%
なんかすごい性能の腕輪だ。
ミルキーは豪華な首飾りを眺めている。
同じような性能なんだろうか。
『異界暴食大海魔を討伐し報告が完了された為、ワールドクエスト≪宝石女王の願い≫が達成されました!』
「あっ」
「えっ」
「モジャ」
メッセージが流れた。
これは、おろし金が魔王を倒した時と同じやつだな。
知らず知らずの内にワールドクエストを達成してしまったらしい。
多分これは発生前というよりは、実装前のやつな気がするんだよなぁ。
「やりましたね!」
「よく分からないけどやったモジャ!」
でもミルキーが喜んでるし、いっか。
色々レアな素材や装備も手に入ったし。
この腕輪を装備してたら、より一層雑魚に見られなくて済むかな?
『さて、わらわ達は新たな地を求めて旅立つとするのじゃ』
「えっ、そうなんですか?」
異次元にワニを封印していた力を転用して、三層からイカの足が出てくることはなくなった。
それならもう、女王達がこの洞窟に籠もる理由ももう無いのだそうだ。
女王は、イカが地上に出ないよう文字通り身を削って見張ってくれていたらしい。
自分達のように、地上がイカに蹂躙されるのを見たくなかったと語ってくれた。
それなら引っ越しするのも当然なのかもしれない。
『それに、この地は嫌な事を思い出してしまう。悲しみが多すぎるのじゃ』
という女王の言葉が胸に響いた。
そして、閃いた。
それならいっそ、あの村に来ればいいんじゃないか?
ミルキーの方を見てみる。
俺の考えが伝わったのか、しっかりと頷いてくれた。
ありがとう。
「新天地って、どこか決まってるんですか?」
『決まってるわけなかろう。わらわ達はこの地より出たことが無いのじゃ。それでも、大海魔に汚されてしまったこの地よりも良い場所は、きっとどこかに有る筈じゃ』
「それなら、俺達のいる村に来ませんか?」
『なんじゃと?』
見た目は強そうなドラゴンのおろし金だって受け入れてもらえたんだし、ダイヤモンドクイーンだって大丈夫な筈だ。
人型だし、良く見たら普通に美人な感じだし。
そもそも扱いってモンスターになるのか?
人とは違うだけで、人に近い種族なんじゃないのか?
ファンタジーでは定番のエルフとか、ドワーフみたいに。
『申し出は嬉しいが、無理じゃ。わらわ達は人の世では暮らしていけぬ。そう神に定められておるのじゃ』
「神に……」
やっぱり括りとしてはモンスターなのかもしれない。
クリスタルナイトとかも普通に戦ったし。
それでも知性はあるんだから、なんとか出来る筈だ。
『そなたらには、心の底から感謝しておる。今の申し出も、嬉しく思う。神に定められていなければ、頷いておったじゃろうな』
「分かりました。すみません、ちょっと強引かもしれないけど、試させてください」
『何……?』
うまくいくかは分からないけど、ダメで元々。
うまくいけば儲けものだ。
ストレージから≪コイン:ブランク≫を取り出した。
『一体何をするつもりじゃ?』
「いいから、これを握ってください」
手を取って、コインを握らせる。
女王の手は少しひんやりしていた。
戸惑いがちにコインを握ってくれた。
頼む、うまくいってくれ。
コインを握りしめた手を、その上から握ったまま祈る。
「大丈夫だよ」
タマがその上に手を重ねて、励ましてくれる。
俺の祈りが通じたのか、女王の手の中のコインが光を放つ。
光は広がって、女王の身体を包み込む。
そして、光が消えて、俺の手の中には一枚のコインが残されていた。
0
お気に入りに追加
1,182
あなたにおすすめの小説
異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた
甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。
降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。
森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。
その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。
協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生
西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。
彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。
精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。
晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。
死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。
「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」
晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。
バイクごと異世界に転移したので美人店主と宅配弁当屋はじめました
福山陽士
ファンタジー
弁当屋でバイトをしていた大鳳正義《おおほうまさよし》は、突然宅配バイクごと異世界に転移してしまった。
現代日本とは何もかも違う世界に途方に暮れていた、その時。
「君、どうしたの?」
親切な女性、カルディナに助けてもらう。
カルディナは立地が悪すぎて今にも潰れそうになっている、定食屋の店主だった。
正義は助けてもらったお礼に「宅配をすればどう?」と提案。
カルディナの親友、魔法使いのララーベリントと共に店の再建に励むこととなったのだった。
『温かい料理を運ぶ』という概念がない世界で、みんなに美味しい料理を届けていく話。
※のんびり進行です
異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
異世界転移したので、のんびり楽しみます。
ゆーふー
ファンタジー
信号無視した車に轢かれ、命を落としたことをきっかけに異世界に転移することに。異世界で長生きするために主人公が望んだのは、「のんびり過ごせる力」
主人公は神様に貰った力でのんびり平和に長生きできるのか。
神に同情された転生者物語
チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。
すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。
悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる