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132 農耕の村と衝動買い

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 とりあえずタマと一緒に薄ら光っている円から出ておく。出現地点のようだ。
 重なったりすることはないだろうけど、もし目の前にミルキーやミゼルが出てきたらびっくりして変な声を出しかねない。
 相手も驚かせてしまうだろうし。

 他の皆が出てくるのを待つ少しの間で辺りを見渡す。
 タマも興味津々らしく、キラキラした瞳で身体ごと回って周囲を眺めている。
 まだ静かだけど、これはすぐに爆発しそうだ。

 周囲を見回してみると、片側に家が何件か見える。
 ここは村の入り口付近のようだ。
 簡易的な門がすぐ近くにあって、木で出来た柵が門の両側から伸びている。結構広そうだ。

 門番らしき人が門の向こう側に立っているな。
 門の向こう側には、一本の道と野原が広がっている。

「モジャモジャー! すごーい! ここどこ!?」
「よしよし、落ち着こうなー」
「うわー!」
「転移系のスキルもちゃんとあるんですね。持ってると便利そうです」
「ふふ、タマちゃんは元気ですわね」

 円の中にミルキーが現れたあたりで、タマが興奮した様子でタックルしてきた。
 受け止めて頭をがしがし撫でてやると楽しそうに暴れている。
 落ち着いてはいない。


 ≪ワープゲート≫のスキルに関心を示すミルキーが円を出て、最後にミゼルとノーチェがやって来た。
 入口と違って地味に光っていた円は消滅した。

 入口側も消えたんだろうな。
 時間なのか、それとも術者の任意で消せるのか、ちょっと気になる。

「全員揃ったみたいすね。こっちっす」

 ノーチェはここにお留守番のようで、待機。
 出汁巻玉子に案内されて村を歩く。その間に簡単に説明もしてくれた。

 ここは≪農耕の村バーリル≫。
 ストーレの街から見て西の方へ来たところにある。正確には西南西らしい。

 村は人口の割にそこそこの広さで、広場なんかもある。
 基本的に木造建築で、一部の集会所や蔵なんかは石も使われているようだ。

 名前の示す通りに村の中には畑が広がっていた。
 数は少ないが、牧場みたいに家畜を育てている家もあるらしい。
 普通の動物じゃなくてモンスターだそうだけど、どんな感じなんだろうか。

 やって来たのは一件の家だ。中央の広場から少し離れた位置にあって、どちらかと言うと畑エリアに近い。
 見た目は普通の一軒家だ。
 裏手の方に柵で囲われてるっぽい場所も見える。
 あれはなんだろう。庭かな。

「説明するんで中へどうぞっす」

 出汁巻に促されてぞろぞろと中へ入る。
 ミゼルが出汁巻に命じて探してきたにしてはすごく庶民派だ。
 パシオンのおススメみたいに、もっと貴族貴族した物件が来ると思ってたからびっくりした。

 中は土足であること以外は普通の家だ。
 二階建てでリビングにキッチン、客間がある上に個室が五つにお風呂も完備してある。

 外見の雰囲気からするとかなり豪華なのは、やっぱりゲームならではだろう。
 中世風の世界感でこんな村にお風呂はまだほとんど無い筈。
 プレイヤーに優しく作った部分に違いない。

 中をざっと見た後はこの家で出来る事も説明してくれた。
 見た通りに普通に生活する分には問題ない。

 パシオンが勧めてきたものよりも落ち着く。
 畑エリアの一角もこの物件にはついているということで、作物も育てられる。
 追加料金を払えば範囲を広げることも可能だ。

 家の裏手の柵で囲んである場所では、モンスターを飼うことが出来る。
 飼い方は簡単で、おろし金にやったようにテイムした後、そのモンスターのコインを登録すれば良い。
 この場所で飼うことで、一定期間ごとにそのモンスターの素材が手に入る。

 見てのとおりある程度の広さを柵で囲ってあるだけだから、小屋とかは別途立てる必要がある。
 このスペースも追加料金で広げられる。

 出汁巻が教えてくれたのはこんなところだ。
 村については、宿屋や道具屋、武器防具のお店なんかもあるそうだ。
 数は少ないがプレイヤーが露店を出していることもあるんだとか。

「ナガマサ様、ここは拠点にいかがでしょうか?」
「すみません、ちょっと相談しても良いですか?」
「ええ、もちろんですわ。どうぞ、じっくり相談なさってください」

 一通りの説明が終わり、ミゼルに聞かれた。
 俺一人で決める訳にもいかないし相談する時間をもらって話し合うことにしよう。

「タマは――」
「モジャとならどこでもいいよ!」
「ありがとな。ミルキーはどう?」
「私としては、悪くないと思います。植物を育てたりも出来そうですし、パシオン様のものより落ち着けます。でもストーレから距離があるのがちょっと気になります」
「なるほど」

 ミルキー的にもありなようだ。俺と同じようにパシオンが紹介してくれた物件より落ち着くらしい。
 やっぱりそうだよなぁ。あんな豪華な家住んだことないし、俺はまず普通の家に憧れてたからこっちの方が理想と言えば理想だ。

「ナガマサさんはどうですか?」
「俺は……かなり気に入ってるね」
「そうなんですね」

 普通の家というところもそうだし、畑で色々育てられるというのも楽しそうだ。
 モンスターを飼えるというのもすごく楽しそうだ。
 ただ住むだけじゃなく、やりたいことが出来るという部分に魅力を感じる。
 ストーレの街で探すとなると畑や家畜を飼うにはハードル高そうだし。

「出汁巻さん、ちなみにここはおいくらぐらいなんですか?」
「畑とかを含めて600kっすね。畑や放牧スペースの拡張、小屋の建築は別料金っす。ここだけの話、これでもかなり安くなってるっすよ」

 この辺の拠点用の家の相場は1Mらしい。しかも畑と放牧スペース別!
 どうやらミゼルが一部負担してくれるらしい。
 慌てて気を遣わなくて良いと言ったが、命を助けてくれたお礼だと頑なだった。

 ううん、そうなると悪い気がするし他で探すか――?
 でも牧場っぽいことも出来るし、畑も出来る。
 憧れてたりするしすごくやりたい。悩む。

 悩む。すごく悩む。
 悩んでいたはずなのに、気付けば俺達の所持金が900K――90万c減っていた。
 
 
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