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116 祝福と発覚
しおりを挟む「ナガマサさん、そろそろお昼にしませんか?」
「え? あ、もうこんな時間か。そうだね、そうしよう」
「タマお腹空いたー」
「ごめんごめん、すぐお昼ご飯食べに行くからな」
「わーい! モジャモジャは食べないであげる!」
「お、おう」
楽しく露店を眺めていたら、いつの間にか13時を回っていた。
眺めて周るのが楽しすぎて気付かなかった。
無駄にナイフとか買っちゃったもんな。
タマもお腹を空かせてるみたいだし、何か食べよう。そう考えると俺もお腹が空いてきたな。
今日はどこへ行こうか。
「あ、ナガマサさん! はぁはぁ、やっと見つけました!」
「あれ、シエルさん」
「あ、シエルだ! やっほー!」
「こんにちは」
「あっ、すみません。みなさんこんにちは」
突然声を掛けられた。
声のした方を振り向くと、そこにはシエルがいた。
走って来たのか息を切らして肩を上下させている。
もしかして俺達を走って探してたのか?
「そんなに慌ててどうしたんですか?」
「実は色々お話したいことがありまして! 皆さんは昼食はお済ですか? 良ければ僕の屋敷でご馳走しますけど」
「ええっと……どうしよう?」
よく分からないが何か話があるらしい。
昼食もご馳走してくれるということだが、どうするか。
「私は大丈夫ですよ」
「食べ放題? 食べ放題?」
「ええ、思い切り食べてください!」
「じんぎすかーん!」
ミルキーとタマに確認してみるとミルキーは快諾。
タマも謎の雄叫びを挙げて……これは承諾なのか? 多分承諾だろう。
「なんかすみません。それじゃあお邪魔します」
「どうぞどうぞ!」
タマのよく分からないテンションを謝りつつ、シエルの屋敷へとお邪魔することにした。
屋敷へ到着し、食堂へ通された俺達は案内された席へ座る。
すると、どんどん料理が運ばれてきた。
「どうぞ、遠慮しないで食べてくださいね。冒険者の方が普段行かれるお店を参考にしてますので、マナー等は気にしなくて大丈夫です」
「「ありがとうございます」」
「いただきまーす!」
目の前には大皿に乗った料理と、取り分ける用の小皿。
コース料理じゃないのを不思議に思ってたら、シエルが俺達に合わせてくれたらしい。
パシオンのところではコース料理だったからな。
美味しかったけどマナーとかよく分からないし、食器の扱いに慣れてないから苦労した。
パシオン達も、俺やタマが騒がしく食事するのを気にしないでいてくれたけど。
食堂の席についているのは俺、タマ、ミルキー。
対面にはシエルと、何故かアルシエ。
その首には、緑の宝石があしらわれたネックレスが付けられている。
「実は僕達、正式に婚約しました」
「おお、それはおめでとうございます」
「すごい、良かったですね!」
「ナガマサさんのおかげです」
「俺の?」
シエルとアルシエの恋が、無事実ったとのことだった。
上手くいったんだな。それはめでたい。
が、アルシエの言葉がよく分からない。宝石を持って行ったくらいで何かした覚えはないんだけど……。
「何があったのか私からお話します」
シエルは諦めないと俺に宣言した後、職人の手によって作り上げられた最高のネックレスを持ってアルシエのもとへ向かった。
そして改めて、全力でプロポーズをしたんだそうだ。
それに対してアルシエは、自分のどこが好きなのかと問いかけた。
勿論シエルは、アルシエの綺麗な緑色の髪を褒めまくったんだとか。
実際にその言葉を聞いたけど、よくそんな例えがポンポン出てくるなと思うくらいの量と独創性だった。
アルシエはそれを聞いた後、更に問いかけた。
私の緑の髪が失われたらどうしますか、と。
「そこで彼は――シエル様はこう言いました。『そんなことは僕がさせません、何が相手だろうと未来永劫僕がアルシエ様ごと守って見せます』と。やっぱりどこかずれてるんですけど、何故だか可笑しくなってしまって、プロポーズを受けることにしました」
「あはは……」
「そんな気分になれたのも、きっとナガマサさんのお陰なのだと思います」
「そんなことないですよ。アルシエ様が前向きになれたのも、シエルさんがずっとアルシエ様のことを想ってたからだと思います。ちょっと度が過ぎてるかなとは思いますが」
「ふふっ、そうですね」
俺の言葉にアルシエは笑いながら同意してくれた。
シエルは相変わらずだったけど、上手くいったみたいで良かった。
少しとはいえ関わったわけだから、二人次第とは言っても関係がダメになるよりも上手く行く方がやっぱり嬉しい。
「改めて僕からもお礼を言わせてください。ナガマサさん達のお陰で、最高のネックレスが作れました。このネックレスに、僕はプロポーズする勇気をもらえたのかもしれません。ありがとうございました!」
「俺達はただ依頼を受けただけですから。その勇気はシエルさんが元々持ってるものですよ」
「例えそうだとしても、お礼は言いたかったんです」
否定せずに感謝の気持ちを伝えてくるなんて、やっぱりいい人だ。
緑の髪が関係してなければまともなんだな。
「プロポーズといえば指輪だと思ってたんですけど、ネックレスでプロポーズっていうのも素敵ですね」
ミルキーが雑談をシエルに振った。
それは俺も気になった部分だった。俺もプロポーズと言えば指輪だと思ってたし。
「この国ではプロポーズを申し込む時は、相手に髪の色と同じ石で飾ったネックレスを贈る風習があるんですよ。その後指輪を付けるかどうかは、当人達の自由ですね」
「そうなんですね」
「へー、なるほ――ど?」
この国ではプロポーズの時に指輪じゃなくてネックレスを、しかも相手の髪色と同じ石のものを贈る?
あれ、それってどこかで聞いた話じゃないか?
これはもしかして、まずいことをしてしまったんじゃないか?
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