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112 決闘と滅魔刃竜剣
しおりを挟む「悪いと思うんなら、ミルキーさんのそのローブで許してあげますよ」
「はい? どうしてそんなこと」
「お前がミナモさんに失礼な態度とったからだろ!?」
「賠償は当然ですよ」
「っ――!!」
「タマ、ミルキーを止めておいてくれ」
「らじゃー! ミルキーすてい! すていすてい!」
「むむむむむ!」
余りにも自分勝手だ。
もしかして、最初から装備が目当てで難癖つけてきたんじゃないだろうな。
ミルキーがキレそうだ。
俺もかなり腹が立ってきたけど、ミルキーはもっとやばいだろう。
タマにしっかりと止めておいてもらえば、とりあえず安心の筈だ。
「すみません、それはちょっと出来ないです」
「はぁ? よしちょっと痛い目見せてやるよ、表出ろおらぁ!」
「分かりました。じゃあ決闘で決めませんか?」
俺が提案すると、野草とゆーじは固まった。
かと思ったらバカにしたように笑い出した。
視界の端でミナモがこっそり笑ったのも、俺は見逃さなかったからな。
「決闘? お前がオレ達とぉ!? ぶっ、あはははは! 超うける!」
「身の程知らずとはこのことですね」
「どうするんですか?」
「もちろん受けるぜ。オレ達が勝ったらミルキーさんの装備を一つずつ寄越せよ」
爆笑した末に野草が決闘を承諾した。
さり気なく全員と戦う流れにしてやがる。せこいな。
まぁいいさ。
どっちが身の程知らずか教えてやる。
「じゃあそっちが負けたらミルキーさんに謝罪してもらいますよ。あと相棒も叩き折ります」
「はいはい、分かりました分かりました」
「全員と戦えばいいんですよね?」
「分かってんじゃねーか。まさか今更止めようなんて、言わないよなぁ?」
俺はもう言質をとった。
後はいくらでも相手に合わせてやるさ。
「勿論。一人ずつで良ければ全員お相手します。負ければその度にミルキーの装備も渡します」
「おい聞いたかみんなぁ! しっかり証人になってくれよ!」
段々と多くなっていた野次馬に野草が声を掛ける。
自分で墓穴を掘ってくれて有難い。
その穴に捻じ込んでやるから覚悟してろよ。
勿論全員まとめてだ。
「それじゃあここだと迷惑なんで、外に移動しましょうか」
「おう」
俺達は外へ場所を移すことにした。
街の大通り、しかも門のすぐ近くで決闘なんかしたら迷惑だからな。
さっきの騒ぎの時点で既に迷惑だった気もするが、それはこいつらが絡んできたせいだし、しっかり反省してもらうつもりだ。
野次馬すらも引き連れて、俺達は街の外へと向かう。
俺達が逃げないように囲んでいるのが地味にうざい。
そんなに睨まなくてもいいのに。
何もせずに逃げるわけがないんだからな。
「た、タマちゃん、もう大丈夫だから! 大丈夫だから離して――!?」
「すてい、すてーい」
ミルキーはタマにがっちり掴まれたまま、お姫様抱っこで運ばれていた。
うわぁ、あれは恥ずかしい。
顔を両手で覆っているが、耳が真っ赤だ。
怒りを忘れられて良いかもしれないが、後で謝ろう。
門から南へ出て、少し離れたところで立ち止った。
俺と野草が向かい合い、それぞれの少し離れた位置にパーティーメンバー。
そして全員を囲うように野次馬がいる。
「うし、覚悟はいいか?」
「ちょっと待ってください」
「あん?」
ニヤニヤしながら聞いてくる野草は置いといて、野次馬に用がある。
「みなさんにお願いがあります。この決闘が終わるまで、俺とそこの四人全員が戦うまで誰も逃げないようにしてください」
「はっ、いい度胸だな。オレ達からも頼むぜ!」
野草は俺に便乗して野次馬に声を掛けている。
他の連中も俺をバカにしたような顔をしているだけで、特に文句はないようだ。
俺の装備してる≪オオカナヘビの皮鎧≫は、確かに強い装備じゃない。
だけど俺が初めて作った装備を馬鹿にしたり、多人数でミルキーを威圧するような奴にはお仕置きが必要だ。
俺が決めた。
決闘はお互いが同意したら起動出来るシステムで、相手のHPを1にしたら勝利となる。
この決闘でどれだけのダメージを与えても0になることはない。
勝敗が決まればHPやSPは元通り回復するし、勿論死亡した扱いにもならない。
また、決闘中のプレイヤーの攻撃は他のプレイヤーを通り抜け、痛みもダメージも与えない。
流れ弾を気にせずに戦えるし、観る方も気にせずに観戦が出来るという訳だ。
決闘の申請が野草から送られてくる。
設定はペインフィルターが0、ダメージ等倍、決闘範囲が10m四方。
おまけに降参不可。
他に細かい設定も出来るらしいが、今回はほぼ通常の狩りと変わらないようだ。
範囲はそのまま10m四方の半透明の壁が出現するらしい。
プレイヤーは決闘が終わるまで、外と行き来することが出来ないようだ。
すぐに承諾する。
俺達の頭上に10という数字が表示された。
半透明の壁も現れる。
カウントダウンか。
これが0になれば決闘が開始される。
ふー。
馬鹿で良かった。
この世界で生きて行くのに、痛みを消す機能なんて存在していない。
ペインフィルターは決闘システムだけの機能だ。
それを態々0でやるなんて、ギャグだな。
文字通り俺に痛い目を見せたかったんだろうけど、自業自得ってやつだ。
精一杯自分で受け止めてくれ。
カウントが1に、そして0になって消えていった。
「行くぞおらぁ!」
「「野草(のぐさ)さん頑張ってー!」」
真っ直ぐ向かってくる野草の武器はハンマーだ。しかも結構でかい。
向こうの女二人が野草に声援を送っている。
片方はミナモ、もう片方の名前は≪孔雀≫。
っていうかあれ『のぐさ』なのか。『やそう』だと思ってた。
「おら! おらぁ! ……あれ、こいつ、HPが減らない!?」
「気が済んだか?」
何度か殴ったところでダメージが通らないことに気付いたようだ。
俺はその場を動いていないが、ダメージはほとんど無い。
今まで気にしてなかったが、Agiが高いと回避値という数値が上がっていき、Dexによって増加する命中値が上回っていないとダメージの代わりにMissと表示されてしまう確率が上がっていく仕様らしい。
物理攻撃だけの話で、魔法は関係ないらしいが。
俺のAgiは合計14万を越えている。
安定して攻撃を当てたかったら、最低でもDex14万持って来い!
「野草さんどうしたの!?」
「そんな奴余裕でしょ!」
「んなこと言ったってよぉ――!」
何度振ってもダメージが増える気配がない。
とは言っても、100%回避というわけでもないらしい。
あくまでも補助的な意味合いだから、全く足りてなくても七割は当たるそうだ。相手が全く動かなければの話だが。
偶に当たった時にダメージの数値が表示されるが、もちろん1だ。
ふぅ、しばらく殴らせて、不利を悟ったらしい顔を見たら楽しくなってきた。
だけど適当に終わらせるつもりは無い。
そのままの痛みを受けるのが希望のようだから、俺も全力で応えよう。
「気功法! 六道踏破!」
オーラのような気功が俺の身体を包む。
そして、六色の光球が現れる。
スキル名を言わなくてもスキルの発動は出来るが、今は格好つけたい気分だ。
「わ、悪かったよ。だから許してくれ、な」
「謝らなくてもいいよ」
「そ、それじゃあ許して――」
「何を言われようと、お前ら四人と決闘するって約束を破るつもりはないから」
「あ、ああ……あああああ!! スマッシュ! ハンマーブレイク! くそっ、減らねぇっ……!!」
野草が殴りかかってくるが無視だ。
いくら殴ったって何の意味もないからな。
剣を抜いて掲げる。
その剣に六色の光球が重なり、輝く光剣となった。
「滅魔――」
「ま、まっ!」
「――刃竜剣!!」
「びぐぎぃ!?」
俺の全ステータスと全SPの輝きを乗せた光の剣は、決闘エリアごと野草の全身を呑み込んだ。
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