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109 ネックレスとネックレス

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「おはようございます!」
「あれ、シエルさん」
「シエルー!」
「タマちゃん、今日もかわいいね!」
「でへへー、そうでしょ!」
「どうしたんですか?」

 宿を出て街を歩いていると、シエルに出会った。
 昨日かなり落ち込んでいたはずだけど、すっかり元気に見える。

「昨日は放って帰ってしまってすみませんでした」
「ああ、まぁショックだったみたいですし仕方ないですよ」
「ありがとうございます。でも僕は諦めません! 僕の本気を分かってもらう為にもあの宝石を使って最高のネックレスを贈ろうと思います」
「奇遇ですね。俺もこれからネックレスをプレゼントしに行くところです。頑張ってください」

 シエルはあのくらいじゃへこたれないらしい。
 まぁ今までも素っ気なくされてても、変わってないみたいだしな。
 実はアルシエと両想いだったりするから頑張って欲しいところだ。

 しかし、シエルもネックレスを贈るのか。
 発想が被ってしまってるが、アクセサリーとしては一般的だろうから仕方ないな。
 思い付いたのは俺の方が早いし。

「そうなんですか、それは偶然ですね! いいなー、僕も頑張ろう! それじゃあお幸せに!」
「ん? それじゃあまた」
「またねー!」

 お幸せにってなんだ?
 シエルが変な事を言うのは今に始まったことじゃないし、まぁいいか。

 時間は10時。
 俺とタマは城へとやって来た。
 城の門番は≪王家の紋章≫のおかげで素通り出来る。

 それどころか、にこやかに挨拶までしてくれるようになった。
 守護竜ってすごい。

 城に入ってうろうろしていると、いつものようにパシオンが現れた。

「あ、パシオンさん」
「やっほー!」

 いつもタイミングがいいけど見張られたりしてないよな?

「よく来たな、ナガマサよ。今日はどうした?」
「ミゼル様に誕生日お祝いを持ってきました」
「ほう、数日遅れとはいえ、殊勝な心がけだな」

 目的を告げるとパシオンは偉そうなことを言っている。
 どこか誇らしげだったが、すぐに眉間に皺が寄ってきた。
 なんで不機嫌そうな顔になってるんだこいつは。

「さては貴様、ミゼルの気を引こうと――! いくら貴様といえど私は許さんぞ!」
「してないしてない。勘違いだから落ち着いてください」
「落ち着かないとタマが落ち着かせちゃうよ?」
「う、うむ、分かった。ではどういった理由だ?」

 変な勘違いをしていたようだ。
 確かに女性にプレゼントをする理由って、大体がその辺だろうしな。
 タマが握りこぶしを見せつけたことで一先ず落ち着いたパシオンに説明する。

 そんなに複雑な理由じゃない。
 女の子が誕生日のお祝いでもらうものが剣や鎧だけっていうのも寂しいかなと、俺が勝手に思った。それだけだ。
 風習として残ってるだけで。王様やパシオンからまた別にもらってるかもと思ったが、それならそれで別に誰も困らないと思った。

「ふむ、確かに王家の者以外では違和感を感じてもおかしくはないか。生憎私や父上、ミゼル本人もそういうものだと思っている筈だ。普通に渡してやればきっと喜ぶだろう」
「はい」

 どうやら家族からのプレゼントは本当にあれだけだったようだ。
 話を聞いた限りでは、王家としてそれが当たり前だったみたいだからな。
 きちんとお祝いの意味が込められているんだから本人も満足してるに違いない。

 俺がプレゼントを渡すのは、知り合ったら偶々誕生日が近かっただけのこと。
 俺が考えてる事なんてどうでもいいことだ。

「して、どのようなものを用意したのだ?」
「ネックレスです」
「ほう、ネックレス、だとぅ?」
「えっ、どうかしましたか?」
「――いいや、なんでもない。そのネックレスを見せてもらっても良いか?」
「いいですよ」

 ストレージからネックレスを取り出してパシオンへ渡す。
 ケースは来る途中に革製品のお店があったからそこで購入した。
 流石にそのまま渡すのもあれだと思ったからな。

 パシオンはケースから取り出したネックレスを眺め出した。

「ほほう、これは中々の逸品のようだな――はっ!!」
「はぁ!?」

 出来や品質に文句は無いのか特に怒ったりもしない。
 と思ったら、突然走り出した。
 勿論ネックレスを握りしめたままだ。
 何考えてるんだあいつ!

「タマ!」
「あいさー!」
「――がはっ!?」

 俺の呼びかけに応えたタマの姿が消えて、次の瞬間にはパシオンが廊下に倒れていた。
 きちんと転ばしてくれたようだ。

 呻いているパシオンの近くまで行くと丁度立ち上がった。
 まだ逃げるつもりなのかチラチラ後ろの方を確認しているが、そっちにはもうタマがいる。
 廊下だから逃げ道はない。

「パシオンさん、何してるんですか?」
「うるさい! それは貴様がネックレずぶすっ……!?」
「ナガマサ様、大変失礼いたしました。こちらを」
「あ、はい、ありがとうございます」

 話を聞こうとしたらパシオンがまたもヒートアップした。
 何故なのか。
 しかしそれを答える前に、パシオンは突然変な声をあげて崩れ落ちた。
 どうやら天井から降ってきたメイドさんの当身によって気絶させられたようだ。

 メイドさんはパシオンの手からネックレスとケースを回収して俺に返してくれた。
 有難いけど、あれはいいのか?
 何か言おうとしてたみたいだけど。

「ミゼル様のお部屋へご案内致します」
「あ、はい、ありがとうございます」

 有無を言わせないという、強い意志を感じる。
 助けてもらったんだろうし気にしないでおこう。
 パシオンはどこからともなく現れた別のメイドさんに回収されていった。
 
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