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73 仕切り直しと指輪

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 気付けば、打ち上げが終わった。
 店を出て、微笑ましいものを見るような顔のマッスル☆タケダと、ニヤニヤしているモグラと別れた。
 あの空気に耐えられなかったからだ。
 モグラとタケダを固定パーティーに誘うのも、あの流れでは無理だ。
 先にミルキーにしっかり話しておかないといけない。

 だけど、それにはちょっと準備がいる。
 まるで告白してるみたいなことを言って、勘違いさせてミルキーがOKをしてくれた。
 酷い話だ。
 そのまま付き合うことだって出来るかもしれない。

 だけど、俺にはとてもそんなこと出来ない。
 真剣に考えて答えてくれたミルキーに失礼になってしまうと、俺は思うからだ。
 かと言ってあそこで訂正するのもミルキーに恥をかかせてしまうし、怒らせてしまうだろう。

 もう答えは決めた。
 後はどうにでもなれだ。

 幸いすぐに連絡はついた。
 良かった。
 運がいい。

 街の隅にある広場にやってきた。
 何に使うのかは分からないが、ベンチがあって休めるようになっている。
 老人が何人か日向ぼっこをしているくらいで人はあまりいない。

「ミルキーさん、少し待っててもらっていいですか?」
「あ、はい」
「行くぞタマ!」
「あいさー!」

 まだ少し顔の赤いミルキーを残して、大通りの方へ戻る。
 通りすがりに露店をチラチラ覗き込むが、目当てのものは無い。
 仕方ない、先に目的地に行こう。

 到着したのは、大通りから少し外れた場所。
 その路地に、見覚えのあるプレイヤーが露店を出していた。

「どうも、ゴロウさん」
「おっす!」
「こんちゃー。タマちゃんもこんちゃ。急にお願いだなんてどうしたんですか?」
「えっと、実はですね」

 さっきのことと、お願いの内容を掻い摘んで話す。
 ミルキーを待たせてる手前あまり時間がかけられないからな。

「なるほどなるほど、事情は分かりました。素材はどうします?」
「ええっと、どうしようかな……」

 素材はもう大体決めてある。
 使えるかどうかは分からないけどな。

「これと、これでお願いします」
「どれどれ。・・・おお? これはまた、とんでもないもの持ってきましたね」

 ゴロウに預けたのは≪神滅魔王の瞳≫と≪コイン:ブランク≫だ。
 今の俺には惜しくもない。

「出来るみたいですよ。成功率は……0.2%ですね。やりますか?」
「お願いします!」
「頼むぞごろー!」
「では」

 どれだけ可能性が低くてもこれに賭ける。
 俺みたいなダメな奴には、このくらいの素材じゃないときっと何も伝えられないだろうから。







「すみません、お待たせしました」
「いえ、そんなに時間も経ってませんし、大丈夫ですよ」
「ふぅ、ありがとうございます」
「あれ、タマちゃんは一緒じゃないんですか?」
「あ、はい。ちょっと」

 タマは少し離れた場所で待機してもらっている。
 最近はお願いすれば静かにしてくれるから一緒にいてもいいんだけど、これからすることを考えると恥ずかしい。

「それで、ちょっとミルキーさんにお話があるんですけど」
「はい、なんですか?」
「その、すみませんでした。実はですね、さっきのことなんですけど」
「はい」
「途中から、告白に聞こえたかもしれませんけど、……そうじゃないんです」
「え?」
「困ってるミルキーさんに何かしてあげたくて、臨時パーティーを組まなくてもいいように、ただ、固定パーティーを組めば変な噂とか気にしなくてもいいかな……とですね」

 黙ってしまいたい。
 顔を伏せてしまいたい。 
 それでも、自分の発言には責任を持たないといけない。
 自分の責任で、訂正をしないといけない。
 途切れ途切れでも、なんとか言葉を絞り出す。

「つまり、告白でもなんでもなくて、最初に言ってた固定パーティーの勧誘のつもりだったってことですか?」
「……はい、そうです」

 肯定する。
 ミルキーの顔はどんどん赤くなっていく。
 恥ずかしいだろうなぁ。
 告白されたつもりだったのに勘違いだったなんて、もし自分だったら死にたくなるに違いない。

「あ、あの、すみません! 変な勘違いをしてしまったみたいで!」
「いえ! 俺の方こそ勘違いさせるようなことを言ってしまって、本当にすみませんでした!」
「私が悪いんです! 自意識過剰過ぎますよね、ああ、恥ずかしい……」

 ミルキーは申し訳なさとか恥ずかしさが入り混じって頭の中が爆発しそうになってるんだろう。
 ついには両手で顔を覆ってしまった。
 本当に申し訳ないことをしてしまった。

 だけど、本番はここからだ。

「ミルキーさん」
「なんでしょう……」
「勘違いさせてしまってたんですけど、ミルキーさんが真剣に考えてOKしてくれたんだと思うと、俺、嬉しかったんです」
「……え?」
「ミルキーさんは真面目で良い子だし、オオカナヘビの大群を受け持とうとした時も隣にいてくれました。あと、お城でのドレス姿、とっても素敵でした。とっても、綺麗でした!」
「そ、そんなお世辞はいいですから……!」
「お世辞じゃありません。だから、俺は多分、ミルキーさんの事が好きになっていってると思うんです。だから、さっきは勘違いさせてしまいましたけど、改めて言わせてください」

 もう自棄に近い。
 恥ずかしくて死にそうだ。
 だけどもう行くしかない。
 気合いと勢いだ! 
 ゴロウに頼み込んで用意したアイテムを取り出す。

「こんな俺で良ければ、これから先、一緒にいてください」

 差し出したのは指輪。
 ボロボロで、お世辞にも綺麗とは言えない。
 かろうじて指輪の形をしていて、宝石がついているのが分かるが効果も何もない。

 正直こんなもの見せられても迷惑なだけだろう。
 それでも、あの素材で作ったのは俺の気持ちだ。
 失敗したからと言って無駄にすることは、したくなかった。

「――もう、勘違いだったとしても悩んで一回承諾しちゃいましたからね。許してあげます。これからもよろしくお願いしますね」
「ありがとうございます! こちらこそよろしくお願いします!」

 ミルキーはボロボロの指輪を受け取って、薬指にはめてくれた。
 ああ、やっぱりいい子だな。
 この子と楽しく生きていきたい。
 何があっても守ってやる。

「おめでとー!」
「うおおおおおおおおおお!! おめでとおおおおおおおおお!!」
「ナガマサさんやるねー!」
「おめでとうございます」

 近くで見守っていたタマ、そしてマッスル☆タケダ、モグラ、ゴロウまでもが飛び出してきた。

「ええっ!? いつからそこに!? というかなんで!」
「俺が皆を呼んだんですよ」
「ゴロウさん……」

 ゴロウの呼びかけで野次馬してたらしい。
 祝ってくれてるけどさっきのもばっちり見られてるのか。
 恥ずかしい。

「ようし、ナガマサさんとミルキーさんの交際を祝って飲みに行こう!」
「「「おー!」」」

 こうしてモグラの提案で酒場へと連れて行かれることになった。
 悪くはないけど、やっぱり恥ずかしい。

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