上 下
67 / 338

65 儀式開始と襲撃者

しおりを挟む

 怒り心頭のタマとおろし金をミルキー、タケダと一緒になだめてる内に儀式の時間が近づいていた。
 騎士達も貴族も整列をしている。
 この儀式の参加者は昨日とほぼ変わらない。
 親族と招待客がメインだ。

 違うところと言えば、参加者全員が武装していること。
 そして騎士や兵士が大勢並んでいることくらいか。
 モンスターに対する軍事的な意味合いも強いみたいだから、こうなってるんだそうだ。

 俺達は招待客ということで、真ん中の前の方に並んでいる。
 左の方にはミゼル親衛隊の姿も見える。
 先頭にはジャルージが立っていた。
 いたのか。
 流石に騎士団長を儀式の場に呼ばない訳にはいかなかったのか?

 少し離れた場所には、俺達に向かい合うように王様や臣下達が横に並んでいる。
 その中にはパシオンもいる。
 何故かヴェルスもいる。
 いくらパシオンが嫌っていても、立場とかそういうので仕方なくなんだろうか。
 他にも何人か貴族っぽいのが並んでるしな。

 王様達は壁を背にして並んでいる。
 壁の向こうは何かの建物が建っている。
 王様達の中心には出入り口らしきトンネルのような場所があるから、きっと建物へ続いてるんだろう。
 なんの建物かは分からないが、多分大事な場所なんだと思う。

 その出入り口の上の部分には、大きなドラゴンみたいな像が設置されている。
 昔協力してくれた竜に誓いを捧げる儀式と聞いてるから、そのドラゴンの像ならすごく大事なものに違いない。

「それではこれより、16歳を迎えられたミゼル殿下による≪滅魔の儀≫を執り行う!」

 臣下のおじさんの宣言が響く。
 トンネルのような場所からミゼルが姿を現した。

 ミゼルの鎧は、タマの鎧に似たデザインだが結構違っている。
 お腹は出ていないし、ショートパンツではなくロングのスカートになっていて、露出が控えめになった印象だ。
 それでもその美しさは変わらない。
 変更した部分も相まって、清楚なミゼルを更に引き立てている。
 会場の誰もが息を呑んで見惚れてしまっている。

 タマも騒がないように言い聞かせておいたからか静かだ。
 もう機嫌も直ったらしく、キラキラした眼でミゼルを見つめている。

 パシオンはやばい。
 あまりの美しさに叫び出しそうになっているのを、数人のメイドさん達に抑え込まれている。
 というか多分叫ぶだけじゃなくてミゼルに駆け寄りそうになってるだろあれ。
 見なかったことにしよう。

 ミゼルは竜の像の下で俺達にたっぷりその姿を見せつけた後、横に並んでいる王のところへと向かった。
 王の正面に立ったミゼルは王と向かい合っている。
 ミゼルは王に対し跪いた。

「ミゼルよ。そなたは今日で成人を迎える。この国の王族としての責務は理解しているか?」
「はい。民の生活を守る為に、最前線に立ち続ける事です」
「その覚悟は出来ているか?」
「勿論でございます」

 物騒な感じだけど、この国の王族はこういう考え方らしい。
 有事の際は王族が最前線で戦って、民を守る。
 城がこの街の端にあるのも、かつて山脈から降りてくる≪魔の者≫を迎え撃っていた名残なんだとか。

 勇猛果敢な王族なんだな。
 王様は漫画やアニメだと一番安全な場所に引きこもってたりするのに大違いだ。

 臣下が差し出した剣を王様が受け取る。
 そしてそれを、ミゼルへ差し出した。

「ならば祝いとしてこの剣を贈ろう。この剣を以て、守護竜となりこの街を守り続けてくださっている≪滅魔光竜リュミエーク≫様へ、その覚悟を示すのだ」
「有難く頂戴します」

 王様が差し出した剣をミゼルが受け取った。
 剣が誕生日プレゼントってすごい世界だ。
 正装が鎧なくらい雄々しい誕生日だし、そういうものなんだろうか。
 多分女の子らしいプレゼントもちゃんともらってるとは思うんだけど。
 今日には間に合わないだろうけど俺も何か用意した方が良いのかな。

 ミゼルは立ち上がり、受け取った剣を鞘ごとベルトの左側に差した。
 あの鎧は帯剣する為の機能もしっかり備えているようだ。

 臣下の一人が小箱を開いて差し出した。
 ミゼルがその中に入っている何かを手に取った。
 多分今日パシオンがこっそり見せてくれた≪封印されたコイン≫だろう。

 枠が付けられて、そこに短い鎖がつけられている。
 あんな感じのコインをネックレスにしたものが現実にもあったような気がする。

 左手にコインを持ったミゼルは竜の像の前へと戻った。
 そして竜の像へ向き直る。
 俺達に背を向けた状態だけど、この儀式はあくまでも竜へ捧げるものだから俺達観客のことは考慮されないそうだ。
 目的を考えると不思議ではない。

 ミゼルが左手に持った鎖を掲げる。
 先端についているコインを見せつけるような感じだ。
 そして、剣を抜こうとした時、動いた者がいた。

「なっ、止まれ!」

 俺達のいる方からミゼルに向かって駆け出して行ったのは、ジャルージだった。
 突然のことに追いかける人はいない。
 数拍遅れて出汁巻玉子が動き出すが、出汁巻は少し離れた位置にいた。
 腐っても騎士団長、中々速い。間に合いそうもない。
 ジャルージはもうミゼルのすぐ後ろに迫っている。

 ジャルージは剣の柄に手を掛けている。
 抜刀のままに切り付けるつもりだ。

 だけど俺とタマが動くことはない。
 間に合う奴がいるからだ。

 数名のメイド達がジャルージに突撃していった。
 流石騎士団長と言うべきか、メイドの攻撃は全て受け流された。
 メイド達は受け流された勢いのまま走り抜けて、攻撃範囲から離脱している。

「貴様、何のつもりだ!?」
「お退きください、パシオン様!!」

 メイドの攻撃が全て通じなくても、その攻防で稼いだ僅かな時間でパシオンがミゼルとの間に割って入っていた。
 ジャルージはパシオンに攻撃をするのは躊躇われるのか、足を止めてパシオンに謎のお願いをしている。
 本当に何がしたいんだ。

「ミゼル様、危険ですのでこちらへ!」
「何事なのですか……!?」

 その背後ではヴェルスがミゼルを庇うように動いていた。
 ミゼルに対しては優しいのか?
 絶対許さないけどな!

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた

甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。 降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。 森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。 その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。 協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

バイクごと異世界に転移したので美人店主と宅配弁当屋はじめました

福山陽士
ファンタジー
弁当屋でバイトをしていた大鳳正義《おおほうまさよし》は、突然宅配バイクごと異世界に転移してしまった。 現代日本とは何もかも違う世界に途方に暮れていた、その時。 「君、どうしたの?」 親切な女性、カルディナに助けてもらう。 カルディナは立地が悪すぎて今にも潰れそうになっている、定食屋の店主だった。 正義は助けてもらったお礼に「宅配をすればどう?」と提案。 カルディナの親友、魔法使いのララーベリントと共に店の再建に励むこととなったのだった。 『温かい料理を運ぶ』という概念がない世界で、みんなに美味しい料理を届けていく話。 ※のんびり進行です

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

異世界転移したので、のんびり楽しみます。

ゆーふー
ファンタジー
信号無視した車に轢かれ、命を落としたことをきっかけに異世界に転移することに。異世界で長生きするために主人公が望んだのは、「のんびり過ごせる力」 主人公は神様に貰った力でのんびり平和に長生きできるのか。

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

処理中です...