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61 ビフォーとアフター

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 それから3時間程経って、ようやく動きがあった。
 とはいってもミルキー達がやって来たのではなく、俺が衣装室へと連れて行かれた。
 そこでさっきパシオンが決めてくれた衣装に着替えろということらしい。

 衣装は落ち着いた感じのものだ。
 キンキラキンじゃなくて本当に良かった。
 着ようとしていると、メイドさんが着せてくれた
 手際が良すぎて恐縮する暇も無かった。

 俺のくせ毛も妙な感じにセットされてしまった。
 これがおしゃれというものなのか?
 今まで縁が無さ過ぎて分からない。
 自分で髪の毛をいじる事なんてなかったからなぁ。

 そしてそのままパーティー会場へ連れて行かれた。
 ミルキー達とは向こうで合流するらしい。

 時間は17時半くらい。
 パーティーの開始は18時だったかな。
 結構ぎりぎりになってしまった。

 大きなホールへと案内された。
 メイドさんはここまでのようで、お辞儀をして送り出してくれた。
 客間ではずっと無言で、隣に立っててすごい気まずかったけど悪い人ではなさそうだ。
 お仕事なんだろうしな。

 ホールの中には結構な人がいる。
 ミルキー達はもうこの中にいるんだろうか。
 メッセージを送ってみるか?
 でも歩いて捜したほうが早い気もするな。

 歩き回っていると、料理のテーブルでがっついている子供を見つけた。
 ドレスを着て可愛く着飾っている。
 これが俗に言う美少女か。

「モジャだー!」

 その美少女は聞き慣れた台詞と共に突撃してきた。
 集中して見ても黄色いカーソルが出ない。
 え、もしかして――。

「タマか?」
「そうだよモジャモジャー」

 こいつは何を言ってるんだと言わんばかりに小ばかにした顔をされた。
 いやだって普段のサイドテール? を下ろしてるし妙に可愛いしで全く分からなかった。
 これがビフォーアフターってやつ!?

「ミルキーさんは? 一緒じゃないのか?」
「一緒にいたけどおなかへったからご飯食べてたらいなくなったー」
「そうか」

 どうやらはぐれたらしい。
 多分、いなくなったのはタマの方だと思うぞ。
 でもこの部屋にミルキーがいるのは間違いなさそうだ。
 捜そう。

「行こう、タマ。ミルキーさんを捜すぞ」
「はーい!」

 ミルキーはすぐに見つけることが出来た。
 人だかり、正確には美人に群がる男共を見つけて、その中心にいる美人さんに目が行ったらミルキーの名前が表示されたからだ。
 黄色いドレスを着たミルキーも物凄い美人になっていた。

 それは貴族らしき男共が群がって声を掛けまくり、貴族らしき女性達が遠巻きに睨むくらいだ。
 色々怖い。
 名前が表示されなかったら気付かなかったかもしれない。
 よくよく考えたら元が美人だったのか?
 生き死にがかかってる場所で出会ったせいか、気付かなかった。
 
 さて、放っておく訳にもいかないだろう。
 男達の対応している顔は引き攣った苦笑いだし、俺が誘ったから来てくれたんだからな。

「すみませんミルキーさん、お待たせしました」
「あっ、ナガマサさん! すみません、お相手が来ましたので私はこれで」

 なんとか男共に割り込んで顔を出すと、ミルキーさんはホッとしたような顔でこっちへ来てくれた。
 相当困ってたらしく、笑顔が眩しい。
 男達の恨みの籠った視線が痛い。
 甘んじて受けとめよう。

「大丈夫でしたか?」
「はい。タマちゃんともはぐれてしまうし、男の人に囲まれてどうしようかと思いました」
「うちのタマがすみません。ほら、タマも謝りなさい」
「ごめんなさい!」

 ほんとすみません。
 タマもこの通り反省して……るか微妙だなこれは。

「それにしてもその、ドレス、似合ってますね」
「あ、ありがとうございます! で、でもこんな服着たことなくって、私なんてすごく浮いちゃってると思います!」
「そんなことないですよ」

 確かに浮いてるけど、それは美人過ぎてだ。
 男達はミルキーしか見てないし、貴族のご令嬢方も怖い顔でミルキーを見ている。
 美人過ぎてびっくりした。

「ナガマサさんも、とっても素敵ですよ!」
「えっ、あっ、そんなことないですよほんと!」
「とっても素敵ですって!」
「いえいえいえ、そんなことは……! ミルキーさんの方がよっぽど素敵ですから!」
「えっ、いえ、そんなことないですって!」
「貴様ら、初々し過ぎてこっちまで恥ずかしくなって来そうだ。もっと堂々と出来んのか?」

 ミルキーと謎の応酬を繰り広げていたら呆れ顔のパシオンが横に立っていた。
 いつの間に。
 全然気付かなかった。
 いつもミゼルミゼル言っているのに、パーティーの主役の親族がこんなところにいていいのか?

「あ、パシオン様」
「もがおーじ! やっほー!」

 タマの口は肝心な所だけは塞いでおいた。
 金色のタキシードにお色直しさせられても困る。

「こんなところにいていいんですか?」
「祝いの歌を贈っていたら追い出されたのだ」

 どうやらパシオンはミゼルの側を追い出されたらしい。
 パーティーの時くらい大人しくできないのかこいつは。

 パシオンがいることで何かを察したのか、ミルキーに対する視線は明らかに減った。
 四人で談笑していると、時刻が18時になって演奏が始まった。
 パーティーの始まりだ。

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