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44 話のわかるシスコン
しおりを挟む「我が名はパシオンだ。貴様、名はなんという」
「ナガマサです」
目の前のパシオンのことが、なんだか大らかな気持ちで見られるようになった。
バカだと思うとなんか怒るのもバカらしくなってくるよね。
名前を聞かれたので素直に答えた。
自己紹介してくれたってことは、向こうも話をしてくれる気になったんだろうか。
「まずは先程の非礼を詫びよう。女児に剣を向けるは男児に非ず。申し訳ない」
「ぱ、パシオン様!? このような者達に頭を下げる等……」
謝罪と共に頭を下げたパシオンを見て、お供の男ジャルージが慌て出した。
そしてパシオンを諌める。
その行動はパシオンの怒りに触れたようだ。
「貴様の非礼を詫びているのだ! 貴様も頭を下げぬか! 切って落として地面に押し付けてくれようか!?」
「は、はっ! ……申し訳ないことをした」
「首切るの? タマ手伝おっか?」
めっちゃ怒ってる。
物理的にクビにされそうな勢いだ。
そこでタマが物騒なことを言って乱入していく。
やめなさい。
「はいはい、タマちゃんはちょっと向こうで俺の筋肉とマッスルしてようか」
「まっするまっする!」
マッスル☆タケダが空気を読んでタマを引きはがしてくれた。
ジャルージがちょっと安心してるのが分かる。
切り落としたらどうなるんだろう?
「タマちゃんか。タマちゃんもすまなかった。許してくれ」
「……すみませんでした」
「タマはさいきょーだから許す!」
タマの名前を聞いたパシオンはタマに向き直って改めて謝罪した。
タマは許してくれるようだ。
最強だからな。
心も広い。
「さて、ナガマサよ。ではどうしたら至高の我が妹ミゼルに怒られず、その装備を手に出来ると言うのだ? 譲る気はないのだろう?」
ええと、なんだっけ。
妹さんの話か。
常識的な妹さんに怒られない方法なんて、常識的な方法しかないだろう。
少なくとも、脅して強奪するのは常識的ではないと思う。
「勿論そんな気はないですよ。さっきパシオンさんが仰ったように、素材を集めて作ればいいじゃないですか」
「ううむ、やはりそれしかないか。あの装備に使われている素材はどこで採取出来るのだ? 特にあの銀色の装甲部分だ。あの気高くも美しい、可憐なあの輝きは相当希少なものに違いない」
パシオンは少し悩んだ後に、素材の情報を訪ねてきた。
それほど、将軍クワガタの素材があしらわれた鎧に一目惚れしたらしい。
なんというか意外だ。
話さえ出来れば、このパシオンは素直らしい。
バカなだけに単純なのかな。
しかも見る目はそれなりにあるようだ。
多分貴重だからな。
「あれはストーレの街から南へ行った、ストーレの森04にいる将軍クワガタというモンスターの素材です」
「なっ!?」
「あの≪魔の森≫の……? ジャルージ、将軍クワガタというモンスターを知っているか? 知っているのならば、その情報のみ発言を許そう」
俺の返答にジャルージはかなりびっくりしている。
パシオンも、驚くどころか困惑しているらしい。
魔の森って何?
「はっ! 将軍クワガタとは、あの森を支配するモンスター達の中でも、高位に位置するMVPモンスターです。その恐ろしさは、かつてこの街の騎士と魔道士を総動員して、ようやくあの森に封じ込めることが出来た程という、とんでもないものです」
「それほどのものか」
「はっ! しかし、我々精鋭の力を以てすれば討伐は容易いかと」
「ふむ」
かっこつけたように跪く。
そんなジャルージの情報を聞いて、パシオンは考え込んだ。
MVPモンスター?
倒した時に出たあのMVPの文字と何か関係があるんだろうか。
しかしあのクワガタ達にそんな逸話があったとは。
知らないだけで他のモンスター達にもそういうのありそうだよな。
調べてみるのも面白いかもしれない。
だけど精鋭かぁ。
どのくらい強いか分からないけど、タマに剣を掴まれて狼狽えてるようじゃ難しいんじゃないのか?
正直タマは最強すぎるから、比較は難しいかもしれないが。
考え込んでるけど、鵜呑みにするんだろうか。
パシオンはバカだからなぁ。
「ナガマサよ、将軍クワガタの素材入手の助力を願えぬか?」
「パシオン様!? こんなどこの馬の骨とも知れぬ冒険者如きに」
意外とパシオンは賢かった。
バカだけど間抜けじゃないってやつ?
ジャルージの意見を鵜呑みにすると思ってすみませんでした。
そこで納得いかなかったのがジャルージだ。
まぁその気持ちも分かる。
お前達じゃ頼りにならない、と言われたとも取れるからな。
「貴様に発言する権利はないと言っただろう! もう良い、先に帰っていろ!」
「ですが!」
「ジャルージ! ――二度は無いぞ」
「……」
でもパシオンの言う通り、発言は許可されてないんだぞー。
やーいやーい、上司に逆らう無能部下ー!
心の中で煽っている内に、ジャルージは無言で一礼して去って行った。
さて、どうしよう。
これって何かのクエストなのかな。
発生条件が謎過ぎるし、どうなるかも全く分からないんだけど。
うーん、せっかくだし受けてみるか。
内容も一度倒したモンスターを討伐すればいいみたいだし。
タマがほぼ一人で倒したから、いつかまた挑もうとは思っていた。
早いか遅いかの違いでしかない。
「分かりました。お手伝いします。タマもいいか?」
「おっけー!」
「助かる」
タマに確認すると大きな声でお返事してくれる。
依頼を受けてもらえてパシオンも嬉しそうだ。
なんか妙なことになったけど、受けたからには頑張ろう。
「それで、とりあえず試着してもいいですか?」
「ああ、構わん。私は新たな鎧を我が妹ミゼルに捧げるという、至上の目的が出来たからな。その鎧は貴様の物だ。好きにすべきだ」
「タマ、これ着てみてくれ」
「わーい!」
ずっと持ったままだった装備をタマに渡す。
流石にここで着替えさせるのはまずいので、ストレージから着てもらった。
一瞬の早業で衣装が変わる。
昔映像で見たマジシャンもびっくりだ。
こういう時ゲームって便利だな。
「うわー! かわいい? かっこいい? しゅばって感じ?」
「うむ、ピッタリだな。我ながら会心の出来だ」
「おお、すごい可愛いぞタマ」
「やはり私の目に狂いは無かったようだな。素晴らしい鎧だ」
「やったー!」
その出来栄えは、最高だった。
俺の語彙じゃ表現出来ないくらい最高だ。
ノースリーブでへそ出しで、ショートパンツにニーソックスとかやばい。
タマじゃなかったら色気が爆発しそうだ。
作成を不安がっていたタケダも満足のいく出来栄えだったようだ。
これなら納得だ。
素晴らしいとしか言えない。
これはパシオンが欲しがるのも無理はない。
やり方には問題しかなかったけど。
タマも満足したみたいだし、作ってもらって良かった。
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