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20 タマと闇色の火焔剣

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「すみません、こっちはあなたが連れてきたモンスターのせいで死にかけたんですけど」
「何言ってるんだよ、お前らがオレの獲物を横取りしたんだろ!」

 やんわりと文句を言っても動じない。
 本気で俺達が横取りしたとか思ってるのか、堂々としている。
 やっぱり話は通じそうにない。

「とにかく迷惑なんでやめてもらえませんか?」
「うるさい! ここはオレの狩場だ! 文句があるなら出ていけ! さもないと……!」

 すっかりヒートアップしてしまったのか、†紅の牙†は相棒である黒剣を構えて威嚇してくる。
 正直怖くない。
 何故なら、もっと怖い存在がいるからだ。
 
「あいつ敵? タマ達の敵だよね?」
「落ち着け、落ち着くんだタマ」

 タマは今すぐにでも駆け出しそうな体勢で俺に捕まっている。
 多分両腕を掴んでなかったらしばき倒してた、いや、勢い余って殺してただろう。
 腕を掴んでる俺に気を遣って突撃しないだけで、本気を出せば俺なんか簡単に振りほどけるはずだ。

 そういえばタマは、この姿になる前からあいつに突っ込んで行きそうになってたな。
 それほど腹が立ってるんだな。
 それは勿論俺もだ。
 殺されそうになったと思うと、怒りしか湧いてこない。

 だけど、それで殺してしまうのはまずい。
 タマにそんなことをさせたくはない。

「偉そうなこと言って、オレが怖いんだろ? オレの相棒は最強だからな!」

 俺が必死にタマをなだめてると、†紅の牙†はやっぱり調子に乗り出した。
 いい加減我慢も限界だ。
 ……一旦放流しようかと思ったけどやめだ。
 まずここで一度痛い目を見てもらおう。

「残念だけどそれは違います。最強は俺の相棒です」
「はぁ? お前みたいな雑魚の相棒がオレの≪闇色の火焔剣ダークネスインフェルノ≫より強いなんて、有り得ないだろ!」

 うちのチート相棒より強いと言い張るのなら、確かめてやろうじゃないか!

「タマ、あの剣を狙え」
「いいの?」
「許す。ただしプレイヤーの方には一切ダメージを与えるなよ」
「はーい」

 タマの両手を離して解き放つ。
 さて、どうなるかな。

「えっ、止めないとタマちゃんが……!」
「大丈夫。うちのタマは最強ですから」

 ミルキーが慌てて俺を嗜めようとしてくれた。
 タマのことを気遣ってくれて嬉しい。

 だけど、タマなら大丈夫。
 いつの間にか最強になってたからな。
 あのステータスとスキルは、反則なんてものじゃないと思う。
 レベルアップに必要な経験値は一体どこから持ってきたんだろうね。

「なんだよ、やる気か!? お前らが悪いんだからな! オレに逆らうから!」
「えい!」

 台詞とは裏腹にどこか嬉しそうな顔の†紅の牙†は、剣を振り上げながら駆け出そうとした。
 出来なかった。
 タマが気の抜けそうな明るい掛け声と共に腕を振った瞬間に、手に持っていたはずの相棒が弾かれたことに気付いたようだ。

 タマがどんな攻撃をしかけたのかは俺には見えなかった。

「え? え?」
「タマ、取ってこい!」
「はいはーい!」

 †紅の牙†は困惑している。
 その間にタマに指示を出すと、しゅばっとでも表せそうな軽快な音と共に黒剣を拾ってきた。

「はい、どーぞ」

 楽しそうなタマから黒剣を受け取る。
 闇色の火焔剣だっけ?
 相棒は持ち主にしか使えないようで、俺の目には装備品としての情報は映らなかった。
 ただの置物だな。

「返せ!」
「おっと」

 掴みかかってきた†紅の牙†を避ける。
 さっきよりも動きが遅い気がする。なんでだろう。
 とりあえず俺もステータスは高いし、武器も持ってない相手なら負ける気がしない。

「あなたの相棒が最強だっていうなら勝負してみましょうよ」
「何が勝負だよ、いいから返せ!!」
「最強なんですよね? 勝負に勝てたら返してあげますよ」

 なんだか言ってることが悪役みたいになってきた。
 いや、実際迷惑を掛けられたんだ。
 悪役だろうがなんだろうが、言いたいこと言ってすっきりしないと寝られなくなってしまう。

「ちっ、勝負くらい受けてやるよ!」
「決まりですね。はいどうぞ」
「お、おう」

 黒剣を差し出すと、戸惑いながらも受け取ってくれた。
 しばしのお別れになるだろうからしっかり挨拶しておくんだぞ。

「じゃあルールなんですけど、俺の相棒のタマに一回だけ攻撃させますからあなたの相棒で受けてください」 
「はあ? それで勝敗は?」
「耐えられたらそっちの勝ちでいいですよ」
「はっ、楽勝じゃんか!」

 そう思うよね。
 仕方ないよね。
 こっちの相棒は謎の球体がポイント振ってわざわざ人型にして、見た目も中学生くらいの女の子だからね。
 うん、甘く見ても仕方がない。

 俺とタマは†紅の牙†と10m程距離を取って位置についた。

「じゃあ構えてください」
「うらぁ! いつでもかかってこいや!」

 †紅の牙†は勝利を確信してるらしく満面の笑みだ。
 いやぁ、俺も楽しみで仕方がないよ。
 性格悪いかな?
 いやでも、危うく死ぬ目に遭ったんだからこれくらい許されるはず。

「タマ、あの剣へし折ってやれ」
「おっけー!」

 小声で囁く。
 タマは元気よく返事をしてくれた。
 うんうん、良い子に育ったようで何よりだ。
 
「タマ、GO!」

 俺の合図と共にタマの姿がぶれた。
 と思ったら既に†紅の牙†の目の前に立っていた。

 その左手は黒剣の刃の根本をしっかりと握っている。
 痛くないのかな。
 多分タマが固すぎてダメージ入らないんだろうな。

「え、は?」

 彼は現状に脳が処理が追いつかず、混乱してるらしい。
 さっきのタマの動きを見てなかったのかな。
 そもそも、ちゃんと見てたらタマの強さを少しでも理解出来てたか。

 タマは何も気にせずに右手を黒剣の切っ先に添えた。
 そして力を込める。

「えいっ」

 キィン。
 金属同士がぶつかるような小気味いい音が響いた。
 ミッションコンプリート。

「あああああああああ!!」
「モジャモジャー! ほめてほめてー!」
「よーしよし、えらいぞー。だけど俺はナガマサなー」
 
 瞬間移動じみた動きで戻ってきたタマの頭を、ぐりぐりと撫でる。
 †紅の牙†は真っ二つになって消えていく相棒の残骸を手に絶叫を上げている。
 怖い。

「相棒って破壊されるとどうなるんだろう」
「確か、48時間後に復活だったと思います。あとペナルティとしてレベルが1下がります」
「なるほど」

 相棒は復活するのか。良かった。
 でも破壊されるような事態にはならないようにしないとな。
 とはいえ、タマが破壊されるようなことになってたら生きていられる気がしないんだけどね。

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