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1 ログインと相棒決定

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 眼が覚めた。
 そこは真っ暗な空間だった。
 でも不思議と自分の身体は認識できる。ゲームだしな。

 簡単に説明すると、俺は今とあるVRゲームにログインしたところだ。
 視界には名前を入力する半透明のウインドウが浮かんでいる。
 何にしようか。別に本名じゃなくてもいいだろうし、仇名でいいかな。
 深くは考えない。

 よし、決めた。
 ナガマサ、っと。入力を終えると目の前に人型の何かが現れた。
 うっすら光るマネキンだ。

 『カスタムパートナーオンラインへようこそ。私はサポート担当のイノウエと申します。只今よりゲームの説明を致します』

 どうやらNPCか何かっぽい。
 口が無いのに音声は聞こえてくる。不思議。
 え、というか俺が決めるのってこれだけ?
 キャラ作成とか無いの?

『カスタムパートナーオンライン、以後CPOと呼びますが、CPOではプレイヤーの皆様には相棒(パートナー)を一つ決めていただきます。それは剣等の武器から、猫や犬といった動物まで幅広い種類が網羅されています。その中でもナガマサ様と比較的相性の良い候補をご用意しております。また、この中心部に近いほど相性が良くなっております』

 俺とイノウエを囲うように色んなものが出現する。
 それはもう色々だ。ごちゃごちゃしてて分からないくらい色々あるし、どこまで続いているのかもよく分からない。
 ゴミの山の真ん中だけくり抜いた場所に俺達がいる感じなんだろう。

『この中からお好きなものをお選びください。決まりましたら話しかけてください』

 待ってみても続く言葉は無い。
 話しかけても無反応。
 どうやら相棒を決めるまで先に進まないらしい。

 この一見ガラクタの山から好みのものを探して相棒にするわけか。
 何がいいんだろう。
 武器とかが分かりやすいんだけど動物好きだからその辺りでもいいな。

 とりあえず近場から漁ってみる。サイコロ、トランプ、ベルト、アルパカのぬいぐるみ・・・ろくなものが無い。
 この辺を漁った限りでは武器と呼べそうなものは……折りたたみタイプの定規と、お土産屋で売ってる竜が巻き付いた剣のキーホルダーくらい。
 ろくなものが無い。

 内周部をぐるっと周ってみても似たような結果だった。
 相性云々は置いておいて奥の方を探してみるのも手かな。
 子猫の鳴き声みたいのもどこかからするし。
 アイラブ子猫。
 てことは俺が好きかどうかと相性はあまり関係ないっぽい。好きなものが相性良ければ即決だったのにな。
 残念。

 まぁ探しに行けばいいだけだ。
 子猫の鳴き声は多分あっちから。
 光るマネキンのイノウエの向こう側な気がする。

 逸る気持ちを抑えつつ迎えに行こう。マイ相棒パートナーを!

 肩に軽い衝撃。焦り過ぎてイノウエにぶつかってしまったらしい。

「あ、すみません」
『相棒が決まったようですね』
「ん?」

 決まった? どういうこと?
 イノウエの後ろからバレーボールくらいの光る球体がふよふよと飛んできて俺の隣で止まった。そのまま浮いている。

『それではCPOの世界へ転送いたします』
「もしかしてこれのこと? ちょっと待ってまだ決めて」
『グッドラック!』

 俺が言い終える間もなく視界が光に包まれていく。
 表情の無い筈のイノウエの顔がやたらいい笑顔に見えた気がした。







 次の瞬間に俺は見知らぬ草原にいた。
 光る球体も俺の周りをふよふよ飛んでいる。
 相棒はこの謎の物体に決まってしまったっぽい。
 なんてこった。

 ……決まってしまったものは仕方ない。
 ここはゲームの世界だけど本当の意味ではゲームじゃない。
 やり直しなんて出来ないし、出来ないものは悩んでも時間の無駄でしかない。
 前向きに行こう。

 フルダイブ型VRゲームと言ったが俺の肉体は既に無い。
 色んな理由で集まったプレイヤー達は、全員実験の為に集められたからだ。
 仮想世界の発展とか、AIの技術向上、その他色々あるらしいけど難しい話はよく分からない。
 プレイヤーは脳だけ取り出されて電極直結で培養槽につけてあるらしい。

 余った肉体は、使える部分は売り払われて人々の役に立っているだろう。
 その分のお金はゲーム内通貨やアイテム、ステータスやスキルなんかに変換されて受け取れると説明を受けている。
 どうしてそんな実験に参加してるかというと、ただ単に現実は俺には生き辛かったからだ。
 だからこのゲームへの案内が来た時点で喜んで飛びついた。
 このゲームの世界でこそ俺は生きていけると俺は信じてる。

 このゲームの名前はカスタムパートナーオンライン。
 自分のキャラクターは当然として、開始時に選択した相棒を好きに弄って自分好みに成長させていく。
 そのシステムを売りにして発表されていたこのVRMMOは、会社が倒産してお蔵入りになるところを研究機関に拾われて、実験場として利用されているそうだ。

『チュートリアルを開始しますか?』
『はい』『いいえ』

 俺の視界には仮想ウインドウ。
 何はともあれ説明を受けないとだ。
 このゲームは最新技術で現実世界の24倍の速度で流れているらしい。
 それはいいんだけど、そんな超技術が脳にかける負荷は結構なものらしく、HPが0になると脳が損傷してしまうそうだ。

 つまりこのゲームで死ぬと現実でも死ぬ。
 現実で生きてると言っていいのか既に謎なんだけど。
 普通に考えたら過酷だろう。

 発表されてないゲームで命がけの死なない縛りとか普通やらない。
 けど、それでも現実よりはずっといい。
 死ねばそれで終わりなのは現実だって一緒だしな!

 このゲームの世界で俺は精一杯人生ってやつを楽しんでやるんだ。
 その為にチュートリアルは必須。
 情報は大事。
 ここでやらない時点で死にに行くようなものだ。
 少なくともゲームが得意じゃない俺にとってはそうなるに違いない。

 俺は『はい』を選択した。

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