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第4章

4.涙の再会!?

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  孔雀号(桃弥が勝手に命名)はゆっくりと洞窟を進み、その間、夜中に通天の櫂家を出てから一度も休息をとっていなかった3人は(朱璃はおんぶで寝ていたが)食事にもありつけ、多少は仮眠をとることが出来た。

 数時間後、飛天に起こされ甲板に出た頃には洞窟から抜け視界が明るくなっていた。
「こんな所に出るのか」
 国の中心を通る河川の源流に、注ぎ込んでいることが分かり2人は驚きを隠せない。

「もう少し行くと船着場がある」

 飛天の口ぶりから孔雀団だけの船着場だろう。
言ってみれば、あの鍾乳洞の地下川も孔雀団専用のもの。一商団にはあり得ない力を目の当たりにし、景雪達がなぜ飛天らの力を必要としたかが分かった。

「船場から北陽の関まで2時間やな。関の前には足留めくらってる商団や旅人でいっぱいや。あそこはちょっとコネがあるさかい、すんなり通れるかもしれへん。自分らは、団員に混ざっといて」
  そう言いながら桜雅らに衣服を渡す。

「朱璃ちゃんにはそんな男みたいなんやなくて、可愛い着物用意したからな」
「えっ! 私、桜雅達と同じでいいです」
  すぐさま朱璃が反論した。女物の着物など着ていたら、動き難くてしょうがない。
  そういう朱璃に飛天は可笑しそうに目を細めた。

「その足でまだなんかする気か? 大丈夫や。朱璃ちゃんには指一本触れさせへんって。ここに居たら絶対安全やから」
 なだめるように頭を撫でられ、朱璃はムッとしたように顔を上げた。

「怪我はしてますけど、自分の身くらい自分で守ります。それに足の痛みもだいぶ引きましたし、私も行きます」
 置いていかれたら堪らないと必死の朱璃に飛天が微笑んだ。
「分かってるって。そう言うと思ってた。無理せーへんって約束守るんやったら連れてったるわ」
「守ります!」
 朱璃はホッとして手を挙げた。

「何を言っている。お前は来なくていい」
 桜雅がきっぱりと言い切る。まさかの却下。
「なんでっ!私も行く!!」
「連れても行かないし、ここにも置いても行かない。お前は少しだまっていろ」
  桜雅はもう一度ぴしゃり言いきり飛天の方に向き直った。桜雅の触ると切れそうな空気に朱璃は口を閉じた。

「飛天、お前は何者だ? 一体何を知って、何を目的で動いてる? 全て教えてくれ」
 船上での数時間、冷静になるには十分な時間だった。改めて考えると腑に落ちない点がいくつもある。
 孫家の謀反なら、こんなまどろっこしい事をせずとも暗殺すれば良い。そのチャンスはいくらでもあった。
 では なぜ 、わざわざ都を、混乱するように仕向けるのか。敵の真の目的は他にあるのではないだろうか。
 そして、飛天はその目的を知って動いている。
そう思えてならなかった。
飛天の正体はもしかして……。
瑠璃色の瞳が真っ直ぐ飛天に向けられていた。

「…………」
 船に乗ってからはずっと笑顔で逆に胡散臭かった飛天の表情が変わり、じっと桜雅を見つめ返してきた。


 そう、この瞳や。10歳近く離れてあるのに「俺とお前は対等や」言わんばかりにくっついてきて、剣で負けると本気で悔しがり、もう一度っもう一度と勝負を挑んできた。あの生意気で、愛らしい眼差し。成長はしてもその面影は残っていて愛しさが込み上げてくる。それなのに、なのにどうして、俺のことがわからへんのやー!?

 まさか心の中で、このように悶えているとは思いもよらず、無表情で桜雅を見て固まった飛天の予想外の反応にさすがの桜雅も眉間に皺を寄せた。

「謀反の本当の理由を教えてくれ。俺たちに手を貸したのも理由があるはずだ」
 そして、1番聞きたくて、聞けずにいたことを口にした。
「王は……王はどうしてる? お前なら知っているだろう」
 桜雅は状況判断で飛天の正体をしぼっていた。

 その時、飛天の目からポロリと涙が零れ落ち、3人はギョッとした。
 実は桜雅の話は全く聞いておらず、昔の事を思い出して感慨にふけっており、想いが強すぎて(変態モード)、少々いや大分おかしくなっていた。

 しかし、そんな事を知る由もない桜雅達はこのタイミングでの涙に、王の身にやはり何かあっただと察した。
 最悪の事態が思い浮かぶのを必死で否定する。考えたくもない。聞きたくもない。
逃げ出したい思考に背を向け桜雅が口を開いた。、
「飛天……まさか……」
 口の中が乾燥しており思ったような声が出す、
王の身に何があったのだと最後まで聞けなかった。

 それがいけなかった。
 飛天には都合よく、自分を思い出してくれた感嘆の声に聞こえたのだ。

「やっと思い出したんかー! こんの~薄情者っこのっこのっ」
 力一杯、抱きつかれ、身体ごと揺さぶられた桜雅はもちろんのこと、桃弥も朱璃も目を丸くした。

「今、かなり深刻な話してたよな」
「うん……でも、笑顔で抱擁してるな」
「ああ、抱擁されてるな」
「うん。王様生きてるんやない?  どーでも良さそうやし」
「たぶんな。……それにしても訳がわからない男だな」

 理解不能。桃弥が白旗を揚げた。朱璃も迷わず同意した。緊急事態でなければ公私ともお付き合いはご遠慮しよう。
 訳のわからない男は兄上(先生)だけで充分だ(や)。

「おっおいっ、置いていくな」
  桜雅が焦った声で2人を呼び止める。
  なぜか突然愛情たっぷりの抱擁に合い、逃れようと、もがく桜雅。
  このうっとうしいほどの抱擁にどこか懐かしい感情が湧き上がってきた。幼い頃……うっとうしいほど抱きしめられた記憶……。

「ひーちゃん……?」
  一瞬、腕の力が弱まった。
「そーー! ひーちゃんやっ」
 再び力いっぱい抱きしめられ、桜雅がぐぇっと呻いた。
 息絶え絶えの桜雅が流石に気の毒になり、朱璃が助け舟を出す。
「天さん、桜雅が潰れてる」
「おおーすまんすまん。あははっ嬉しすぎて力入ってしもうたわ」


 ようやく息が整った桜雅に幼い頃の記憶が蘇ってきた。
 4~5才の頃、8才も年の離れた兄とその友人達の尻にくっついてまわり、学術や武術の鍛練の邪魔をしたものだ。
 その時の皆の幼い顔が思い出される。
 兄上、景雪、莉己、そしてもうひとり……。
 桜雅はもう一人が泉李だと思っていたのだが、実は彼がその中に入ったのはもう少し先の事。

 4人の中で1番かまってくれたのは少し垂れ目で青い瞳、目元に甘いホクロを持ち、女の子と間違われるほどの美少年。その可憐な容姿とは裏腹に、ちびっ子相手でも全く容赦なく剣で打ちのめす悪魔のような子。
 素手での格闘でも数秒で投げ飛ばされた。
  それでも桜雅は飛天に立ち向かっていった。本気で相手にしてくれたのは飛天だけだったからだ。
 今思うと10歳も年下の子相手に手加減しないのもどうかと思うが……。
 ともかくその頃は、やられても やられても飛天が好きだった。鍛錬の後に傷の手当てをし、変な歌を歌ってくれたっけ……。
 あの頃を思い出し、桜雅が少し赤くなった。

「俺が喃南州に行く事になった時、大泣きしてなぁ、丸一日俺の上着を握って離さへんかってんで。景の奴がこいつ大物になるかもって、さすがにお前を認めたんや。覚えてへんか?」

 断片的には覚えている。無理やり離されそうになって。袖にかじりついた記憶がある。
 何となく布の味まで思い出した……。
 桜雅はさらに頬を赤くした。

「そーやのに、全然思い出さんと、ずっと睨むし」
 非難されるように言われ、桜雅は言葉を詰まらせた。
「しかし、5歳だったんですよ。15年も前の事ですし……」
「俺はすぐ分かったでっ。愛が足りひんのや」

「愛だって~」
「愛~」
 にやにやと見物人に徹している桃弥と朱璃がちゃちゃを入れてくるのがうっとうしい。
 2人を睨んでいると飛天が思い出したように言った。

「桃弥も大きくなったなぁ。景んちに何時行っても  お前のオネショ布団が干してあってなぁ。もうしてへんか?」
「してません!!」

 桜雅以上に真っ赤になる桃弥を大笑いしていると、いつの間にかきていた葎が冷たく一瞥して言った。

「何をしているんですか。急いでください」
「はいはい。んじゃ、先に行って、関通れるようにしとくから後からゆっくりおいで~。朱璃ちゃんはその可愛い服着とくんやでーー」
  上機嫌で3人に手を振り、船から降りていく飛天をやや疲れた面持ちで見送る3人であった。



「遅いな」
「遅すぎないか」
関所に到着してから、もう2時間以上は経っている。
狭い馬車の中で待っているのも辛くなっていた。
完全に日が落ちてからも随分となる。

飛天の正体はわかったが、結局 今何をしようとしているのかは判らず仕舞いであった。
「上手くはぐらかされた。ここまで誤魔化されると
なんか、王の暗殺計画でさえ計算じゃないかと思えてくるな。あ、ごめん。お前が容疑者で追われる立場には流石にしないか……」
あの逃亡劇が予定通りとは、考えにくい。
2人は頭を抱えた。

「あーーくそっ! ムカつくぜ」
突然ヒステリックになる桃弥に桜雅が怪訝な顔をした。

「……すまん。今、兄上だったら自分で考えろって、 人に頼るなと言うんだろうと、思ったんだよ」
桃はあぐらをかいて座り直した。
「俺は、昔からそうだ。いつも、すげぇ人と一緒だから自分で考え無くても何でも上手くいく。言われた通りにしていれば問題ないって思っちまう。そうやって甘えてる」

「……。それは俺も同じだ。彼等から学ぶ事は多いが、いつも答えが1つで、正しいわけではない。
頼ってばかりでは駄目だ。状況を把握し判断できる
先見の明をもたねば……そういえば莉己からの宿題があったな」

「兄貴たちの旅順のことか。最後が通天。旅順と今回のこと、関係あるのかもしれないな」
「ああ、あの景雪が何の意味もなく、こんなデタラメな旅をするとは思えない。今回の鍵が隠されているかもしれん」

馬車から絶対出るなと葎に言われている。
時間をもて余している2人は地図を広げ、再び悩み始めたが、気がかりな事が1つあった。

「朱璃の奴も遅いな」
焼きもろこしの匂いに耐えきれず、少し前に朱璃が飛び出して行ってしまった。
関所の前は足留めを食らった旅人や商団で大賑わいになっていた。しかも商人根性か、この場で商売を行う者もいて、一角では祭りの夜店のようになっているのだ。

「迷子になっているんじゃないだろうな」
まだ2日しか行動を共にしていないが、朱璃の性格、行動パターンが少し掴めてきた桜雅達は少し不安になった。
目立つからついてくるな。焼きもろこしを3本買ってすぐに戻ってくる。
そういわれたが、やはり一緒に行けば良かった。

「朱璃が歩けば棒に当たるって行ってたな……琉晟が……」

心配そうに小窓から外を見る2人。
じいやが3人に増えていることには気がついていなかった。
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