異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

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第1章

2. この手を離すわけにはいきません

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「後ろっ! 危ない!」
 長髪の青年が人相の悪い男達に取り囲まれており、後ろから剣を振りかざす男が見えたとたん、気がつくと叫んでいた。

 青年は朱璃しゅりの声に素早く反応し、振り向けざまに剣を振るうと、そのまま逆方向に体を捻りその後ろにいた男も倒してしまった。

 その動きはまるで剣舞の様に優雅で、風に舞う桜の花片と織りなす美しさに朱璃は思わず息をのんだ。
 しかし もっと見たいと思った瞬間に、現実に引き戻される。
 青年を取り囲む7、8人もの男達の殺気が、自分にも向けられたのを察したからだ。

「やばい」
 青年の仲間だと勘違いされたのだろうか、冗談じゃない。
「通りすがりの一般人です~」
 叫びながら逃げたものの一瞬にして、5人に囲まれてしまった。

「私の方が多いっ! てか、剣!? 剣って何」
 男達は 明らかに苛立っているように何か言っているが、聞き取れず違和感を感じる。しかし考える間も無く容赦なく振り下ろされる剣を間一髪で避けた。

 どうなっているのか、さっぱりわからない。
 朱璃は先ほど、草っ原に寝転んでいて目が覚めたところだった。頭に はてな?を飛ばしていた所に何やら人の声がしたためそちらの方に行ったところ、紅髪長髪のイケメン青年に出会った冒頭に戻るわけだが…。

 たしか、何処からか落ちた記憶がある。
 もしかしてここって黄泉の世界なのか。黄泉の世界でも争いがあるのだろうか。
朱璃なりに冷静になってきたことで、男達の服装や、剣が見たことの無いものだと今更ながら気がついた。

 あの青年もおかしな格好をしており、彼の髪の色は茜色よりも黄色を濃くしたような夕焼けの色だった。
 そんな髪の色はアニメや漫画の世界以外ではあまり見ることはない。
 私は夢を見ているのか。
 
 とにかく逃げることしかできない朱璃は息を切らしながら、夢ならもっと楽しいのが良いと思わずにはいられなかった。




  一方、突然現れた奇妙な格好の少年に、間一髪のところを助けられた桜雅おうがは、そのせいで命の危険にさらされている少年を放っては置けず後を追っていた。
  意外とすばしっこい動きで逃げ回る少年だったが、木の根につまずき、転んだ事で観念したのか、大きな声で叫びながら瞳を閉じたのが視界に入った。
 
「お願い、目 覚めて!」
 あきらかに不穏な音が消えるまで待ち、目を開けた朱璃の視界が茜色に染まった。それが青年の髪だと理解した時には剣を向けるものはもう誰も居なかった。

「大丈夫か?」
 青年の高い位置からの瑠璃色の視線に、まだ夢の中であることに落胆しつつ 朱璃はただただ 見つめ返した。

「怪我をしたのか? 何処が痛い?」
 漆黒の大きな瞳に見つめられ、桜雅はなんとなく居心地悪くなり珍しく次々と言葉をかけた。

「お前のお陰で命拾いした。礼を言う」
 膝をおり、少年の目線に合わせる。座り込む少年を立ち上がらせるべく手を差し出すと、石のように固まっていた少年がさらに大きく目を見開き、次に辺りをきょろきょろと見渡し始めた。

 その挙動不審な態度は、自分が皇子である事に気がついたからだと判断した桜雅は 怖がらせないように、あまり得意ではなかったが、優しく穏やかに微笑んで見せた。

「心配ない。お前は私を助けてくれた。悪いようにはしない。名は? この近くの村に住んでいるのか?」

 残念ながら、桜雅の精一杯の笑顔は朱璃には届いていなかった。
 何故なら、青年の言葉の意味が理解出来ない事実に呆然としていたからである。

 聞き取れないのは、さっき落ちた時、耳がおかしくなったのだ。そうに違いないと自分に言い聞かせていた。
 落ち着け 落ち着け……

「申し訳ありません。ここへ来る途中、少し耳がおかしくなってしまって、よく聞こえませんでした。もう一度……おっしゃってもらっていいですか?」

 今度は桜雅が眉を寄せた。少年の口から発せられた言葉は、今までに聞いた事の無いものだったからだ。
 少年を改めてじっと観察する。先ほどから気にはなっていたが、衣服も初めて見る物だ。
 桜雅は視線を顔に向けた。瞳と同じ漆黒の髪は、肩の辺りにあり、やや乱れている。強張った表情で、青ざめているせいもあるが色白で大きな瞳が強調させているように思えた。
 細い腕つかんでそっと立ち上がらせると、自分の胸の辺りしかない背丈と華奢身体。十二、三歳だろうか?

「お前、移民か?国は何処だ?」
 気の毒なほど動揺している少年を、これ以上怖がらせないように、先程に引き続き 得意ではない微笑を浮かべてみせた。
「俺の言っていることが理解出来ないか……?」

 唇を噛み締め、ぷるぷると首を振る少年に桜雅は、自分を指さし、ゆっくりと話す。
「俺の名は桜雅だ。お・う・が」

 本来 かなり楽天的な性格の朱璃だったが、夢ではないのだと認めざるえなかった。その上言葉が分からないとなると 更に訳が分からず泣きそうになっていた。
 しかし目の前にいる青年に軽々と持ち上げられるように立たされ、顔を覗きこんでくる瑠璃色の瞳に気がついた。
 この人は助けてくれた。
 少しぎこちない笑顔は自分に気を使ってくれている気がする。朱璃は次第に落ち着きを取り戻し、青年に対して警戒を緩めていた。

「私は、朱璃。しゅ・り」
 何がどうなっているか。
 全く理解出来ないが、今この世界で頼れるのは、間違いなくこの青年だけだ。逃げられた困る!
 ガシッと青年の手を両手で掴み、同じく、ずいっと顔を近づけて自己紹介だ。

 青年がわかったと言うようにうなづいた。
「しゅり」
 名を呼ばれると、両親や兄弟、親しい友人の顔が、次々と脳裏に浮かび上がってき、朱璃は歯をくいしばった。
 泣き出しそうな朱璃に、桜雅はそっと頭を撫でた。
「しゅり、大丈夫だ。お前は俺を助けてれた。必ず力になる」
 言葉の意味は分からなかったが、青年が優しく頭を撫でてくれたことで朱璃は再び落ち着きを取り戻した。

「えっと……置いてったりしないから、手を離してくれないか?」
 青年の困った様な表情と視線から、手を離して欲しいと言っているのが判り朱璃はハッとした。
初対面の男性の手をいつまでも握っているのは、年頃の娘としても恥ずかしいことだと反省する。
 そして素早く青年の服の袖に掴み直した。

「……」
 朱璃の行動に桜雅は小さくため息をつく。刷り込みという言葉が頭に浮かび、少年がヒヨコに見えた。
「一応言っておくが、俺はお前の父親ではないからな」
 もちろん通じはしないが、記憶に新しい側近の隠し子事件を思い出して言ってみる。

 少年がさらに強く袖を握るのをみて、桜雅はもう一度溜め息をついた。

 笑顔で「私の遺伝子ならこの程度の美しさであるはずが無いでしょ」と言い捨て数秒で解決した側近が、朱璃を連れて帰ると どういう対応を取るだろうか。

 朱璃との出会いで忘れていたが、さっきの連中の報告もしなければならない。
 頭が痛くなってきた。
 こめかみを少し押さえつつ、桜雅はひとまず仲間の所に戻ることにした。

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