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32.作戦会議
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「ではお嬢様は魔の湖に落とされた所を賢者様に救われたのですね。で、ジャン様は帝国の騎士で協力して下さっているのですか」
「ええ、そうなの。ジジ様のお陰で助けられて顔の火傷についても邪法と教えて下さったわ。そして今はアーティアと名乗ってるの。だから これからはメリスもそのつもりでね」
アーティアは元侍女メリスに再会を果たし、今はメリスの屋敷(といっても正直立派なとは言えない)の客間でこれまでの経緯を教えていた。
「畏まりましたお嬢様」
「あの、メリス……もうそんな畏まった言い方でなくてもいいのよ? 私は只のアーティアになったのだし、むしろ私のほうがメリス様と呼ばなければならないわ」
「とんでもございません! 私にとって今でも貴女様は仕えるべき主人です。どうぞ今まで通りにメリスとお呼びくださいませ」
メリスのその場で跪き、自らの立場を明らかにした。
メリスは公爵家に雇われたリリアーシア付き侍女だったのだが、メリスにとっての主人はリリアーシアだった。
それはアーティアとなった今でも変わらない。
アーティアも今も変わらないメリスを嬉しく思いそれ以上言えなくなってしまった。
主が許可したと理解したメリスは改めて席に着き、話を続ける。
「それでお嬢様、お話からすると邪法とやらを直接お嬢様に掛けたのは1人しかいませんね」
「え、ええ……」
誰がと考えるまでもなく1人しかいない。
リリアーシアが魔術の失敗をした時、一番最初に近づいた者、ナルシリスだ。
今回の陰謀の首謀者がナルシリスということはビニートスから聞いているので間違いはないが、アーティアに必要なのは邪法をかけた実行犯が持つ情報だ。
邪法の知識を持つ者がそのまま邪法の力の正体を知っている可能性は高い。
本来知り得ない情報をナルシリスがどうやって知ったのかはわからない。
首謀者がそのまま解法の情報を握っているのかも可能性でしかないが邪法の力の源が判明すればジジならば対応できるかも知れない。
「……グギギ!あの女狐め、どうしてくれようか!」
「メリス落ち着いて。ジャン様の前で」
「あ、失礼いたしました」
リリアーシアの為に激昂するメリスを宥めるのはいつもリリアーシアだった。
アーティアとなった今、こうしてメリスを宥めているのをアーティアは懐かしく、そして嬉しく思う。
そして口を挟まず黙って聞いていたジャンもまた2人の関係性を微笑ましく思った。
そしてアーティアがまさしく公爵令嬢リリアーシアであることも確認できた。
事前に得ていた王国の学院の情報と照らし合わせれば、直接名前が出なくても”女狐”がディアス侯爵令嬢ナルシリスで女狐の被害者がフェリス公爵令嬢リリアーシアであることは判る。
アーティアが秘密にしている事を自分が言っていいものかジャンは判断に迷った。
しかし踏み込まなければ話が進まない。
ジャンはアーティアの本当の身分について触れる覚悟を決めた。
「ははは、君たちは仲がいいんだな」
「え、ええ」
「それにしても、重大な秘密を聞いてしまったがいいのか?」
「「え?」」
アーティアとメリスの声が重なる。
アーティアはジャンに自身の素性を悟られたと知った。
同時に、メリスも自らの失態を悟った。
アーティアが高貴な身分であると示してしまったのだ。
「……ええ、構いません、ジャン様も私に教えて下さりましたから」
「大丈夫、他言はしない。実は俺が王国に来たのは元々は貴女に会いたかったからだリリアーシア様。お父上にお会いして、そこで貴女の不幸を知った。そしてお父上に頼まれて花を手向ける為に湖に来たのだが……あとは貴女もご存知の通りだ」
「まぁ、私に会いに……」
アーティアは、魔術学院に帝国からの留学生がいた事を思い出した。
ジャンの身分ならば、そこから私が婚約破棄をされたとの報を受けていてもおかしくない。
心臓がドキドキしてしまったアーティアは自分の胸を両手で抱きしめた。
顔が赤くなるのを自覚し、俯いてしまう。
室内でもフードを被っているのでアーティアの顔はフードの影に隠されてしまった。
「こうしてアーティアに会えた事も神の導きだろう」
メリスはアーティアとジャンの様子をしっかりと観察していた。
自らの主人のこんな態度は初めてだ。
その驚きに嬉しい思いと同時に、ジャンに対する警戒心が生まれる。
アーティアが自覚しているかはさて置き、ジャンに恋心を抱いてしまっている様だ。
しかし、ジャンはリリアーシアが婚約破棄された事を知って近づいて来た事になる。
当然何か目的があるはずだ。
ここは自分がしっかりしなければならないとメリスは心を鬼にする。
これは他でもないリリアーシア(メリスの中ではまだアーティアという名前が馴染んでいない)の為なのだ。
再び騙されるなんてあってはならない。
メリスは取り敢えず2人の世界に入っているところから処理する事にした。
「えー、ジャン様、当家でお嬢様を口説くのはお止めください」
「あ、いや、そんなつもりでは」
「メ、メリス、そんな話はしていないわ」
二人は同時に慌てた。
ジャンが信用できるなら、なかなかお似合いの二人かもしれないとメリスは思いながら話題の方向を修正する。
「ところで、お嬢様に掛けられた邪法についてですが、邪法の影響で皆は急にアーティア様への周囲の態度が冷たくなったのに、私はどうして影響を受けないのでしょう。それにジャン様も影響を受けていないようですが」
「そうだな、俺はそういう訓練を受けているし、メリスさんは多分だが、アーティアのソウルメイトじゃないかな」
「ソウルメイト……ですか」
「ああ、簡単に言えば魂の結びつきの強い間柄がソウルメイトだ。だから邪法の影響も受けないんだと思う」
「私とメリスがソウルメイト……」
ジャンの説明に納得する2人。
メリスはその言葉に感激したのか、手を合わせ神に祈りだしたのだった。
「ともかく、あの女狐から情報を集めないとなりませんね」
「相手が侯爵令嬢ともなれば、なかなか情報を集めるのは難しいな。どうしようか……」
「そうですね」
メリスが祈りから復帰したしたあと、今後の方針について話し合うことになった。
得たい邪法に関する情報が普通に集まるとも思えない。
侯爵家に代々伝わる秘法なのかも知れないし、侯爵家に潜入し情報を得るのは至難の業だろう。
口伝だとしたら口を割らせるしかないとジャンは言う。
「ディアス家へ潜入したくても、私は顔が割れてますし。うーん……」
リリアーシアの侍女としてナルシリスに顔が割れているメリスが潜入することは出来ないし、伝手もない。
かといって危険を承知で潜入してくれる協力者はいないし、巻き込むこともできない。
悩むメリスの脳裏に閃くものがあった。
「お嬢様、学院での情報を得ませんか?」
「学院で……メリスには伝手があるのですか?」
「一応ですけどね。学年が違うので有用な情報が入る可能性は低いですが。お嬢様のノートの写しがあれば」
メリスは学院に生徒として通った事は無い。
でもリリアーシアの取ったノートを毎回写させてもらい、自身も独学で勉強したし、長期休暇に入れば、リリアーシアの家庭教師から2人で勉強を見てもらったりもして、自身の仕事に必要な魔法も習得した。
メリスの宝物でもあるリリアーシアのノートの写し。
これを餌にすれば、恐らく彼女は釣れる。
他ならぬ主の為、自身の宝を使う事に何の躊躇いも無かった。
「親交のある男爵家の次女がいわば妹分なのです」
「その…いいのですか? 場合によっては危険な目に」
アーティアは協力者に命の危機が及ぶのではと心配する。
「直接接触しなければ大丈夫かと。なんとか付け入る隙がないかだけでも探れればと思います」
「情報は多いほうがいい。 メリスさん頼めるならお願いしたい」
「その……メリスお願いしてもいいかしら」
「お嬢様お任せ下さい」
こうしてリクシフォン男爵令嬢ミンティリスに探って貰うべく、メリスが動くことになった。
「ええ、そうなの。ジジ様のお陰で助けられて顔の火傷についても邪法と教えて下さったわ。そして今はアーティアと名乗ってるの。だから これからはメリスもそのつもりでね」
アーティアは元侍女メリスに再会を果たし、今はメリスの屋敷(といっても正直立派なとは言えない)の客間でこれまでの経緯を教えていた。
「畏まりましたお嬢様」
「あの、メリス……もうそんな畏まった言い方でなくてもいいのよ? 私は只のアーティアになったのだし、むしろ私のほうがメリス様と呼ばなければならないわ」
「とんでもございません! 私にとって今でも貴女様は仕えるべき主人です。どうぞ今まで通りにメリスとお呼びくださいませ」
メリスのその場で跪き、自らの立場を明らかにした。
メリスは公爵家に雇われたリリアーシア付き侍女だったのだが、メリスにとっての主人はリリアーシアだった。
それはアーティアとなった今でも変わらない。
アーティアも今も変わらないメリスを嬉しく思いそれ以上言えなくなってしまった。
主が許可したと理解したメリスは改めて席に着き、話を続ける。
「それでお嬢様、お話からすると邪法とやらを直接お嬢様に掛けたのは1人しかいませんね」
「え、ええ……」
誰がと考えるまでもなく1人しかいない。
リリアーシアが魔術の失敗をした時、一番最初に近づいた者、ナルシリスだ。
今回の陰謀の首謀者がナルシリスということはビニートスから聞いているので間違いはないが、アーティアに必要なのは邪法をかけた実行犯が持つ情報だ。
邪法の知識を持つ者がそのまま邪法の力の正体を知っている可能性は高い。
本来知り得ない情報をナルシリスがどうやって知ったのかはわからない。
首謀者がそのまま解法の情報を握っているのかも可能性でしかないが邪法の力の源が判明すればジジならば対応できるかも知れない。
「……グギギ!あの女狐め、どうしてくれようか!」
「メリス落ち着いて。ジャン様の前で」
「あ、失礼いたしました」
リリアーシアの為に激昂するメリスを宥めるのはいつもリリアーシアだった。
アーティアとなった今、こうしてメリスを宥めているのをアーティアは懐かしく、そして嬉しく思う。
そして口を挟まず黙って聞いていたジャンもまた2人の関係性を微笑ましく思った。
そしてアーティアがまさしく公爵令嬢リリアーシアであることも確認できた。
事前に得ていた王国の学院の情報と照らし合わせれば、直接名前が出なくても”女狐”がディアス侯爵令嬢ナルシリスで女狐の被害者がフェリス公爵令嬢リリアーシアであることは判る。
アーティアが秘密にしている事を自分が言っていいものかジャンは判断に迷った。
しかし踏み込まなければ話が進まない。
ジャンはアーティアの本当の身分について触れる覚悟を決めた。
「ははは、君たちは仲がいいんだな」
「え、ええ」
「それにしても、重大な秘密を聞いてしまったがいいのか?」
「「え?」」
アーティアとメリスの声が重なる。
アーティアはジャンに自身の素性を悟られたと知った。
同時に、メリスも自らの失態を悟った。
アーティアが高貴な身分であると示してしまったのだ。
「……ええ、構いません、ジャン様も私に教えて下さりましたから」
「大丈夫、他言はしない。実は俺が王国に来たのは元々は貴女に会いたかったからだリリアーシア様。お父上にお会いして、そこで貴女の不幸を知った。そしてお父上に頼まれて花を手向ける為に湖に来たのだが……あとは貴女もご存知の通りだ」
「まぁ、私に会いに……」
アーティアは、魔術学院に帝国からの留学生がいた事を思い出した。
ジャンの身分ならば、そこから私が婚約破棄をされたとの報を受けていてもおかしくない。
心臓がドキドキしてしまったアーティアは自分の胸を両手で抱きしめた。
顔が赤くなるのを自覚し、俯いてしまう。
室内でもフードを被っているのでアーティアの顔はフードの影に隠されてしまった。
「こうしてアーティアに会えた事も神の導きだろう」
メリスはアーティアとジャンの様子をしっかりと観察していた。
自らの主人のこんな態度は初めてだ。
その驚きに嬉しい思いと同時に、ジャンに対する警戒心が生まれる。
アーティアが自覚しているかはさて置き、ジャンに恋心を抱いてしまっている様だ。
しかし、ジャンはリリアーシアが婚約破棄された事を知って近づいて来た事になる。
当然何か目的があるはずだ。
ここは自分がしっかりしなければならないとメリスは心を鬼にする。
これは他でもないリリアーシア(メリスの中ではまだアーティアという名前が馴染んでいない)の為なのだ。
再び騙されるなんてあってはならない。
メリスは取り敢えず2人の世界に入っているところから処理する事にした。
「えー、ジャン様、当家でお嬢様を口説くのはお止めください」
「あ、いや、そんなつもりでは」
「メ、メリス、そんな話はしていないわ」
二人は同時に慌てた。
ジャンが信用できるなら、なかなかお似合いの二人かもしれないとメリスは思いながら話題の方向を修正する。
「ところで、お嬢様に掛けられた邪法についてですが、邪法の影響で皆は急にアーティア様への周囲の態度が冷たくなったのに、私はどうして影響を受けないのでしょう。それにジャン様も影響を受けていないようですが」
「そうだな、俺はそういう訓練を受けているし、メリスさんは多分だが、アーティアのソウルメイトじゃないかな」
「ソウルメイト……ですか」
「ああ、簡単に言えば魂の結びつきの強い間柄がソウルメイトだ。だから邪法の影響も受けないんだと思う」
「私とメリスがソウルメイト……」
ジャンの説明に納得する2人。
メリスはその言葉に感激したのか、手を合わせ神に祈りだしたのだった。
「ともかく、あの女狐から情報を集めないとなりませんね」
「相手が侯爵令嬢ともなれば、なかなか情報を集めるのは難しいな。どうしようか……」
「そうですね」
メリスが祈りから復帰したしたあと、今後の方針について話し合うことになった。
得たい邪法に関する情報が普通に集まるとも思えない。
侯爵家に代々伝わる秘法なのかも知れないし、侯爵家に潜入し情報を得るのは至難の業だろう。
口伝だとしたら口を割らせるしかないとジャンは言う。
「ディアス家へ潜入したくても、私は顔が割れてますし。うーん……」
リリアーシアの侍女としてナルシリスに顔が割れているメリスが潜入することは出来ないし、伝手もない。
かといって危険を承知で潜入してくれる協力者はいないし、巻き込むこともできない。
悩むメリスの脳裏に閃くものがあった。
「お嬢様、学院での情報を得ませんか?」
「学院で……メリスには伝手があるのですか?」
「一応ですけどね。学年が違うので有用な情報が入る可能性は低いですが。お嬢様のノートの写しがあれば」
メリスは学院に生徒として通った事は無い。
でもリリアーシアの取ったノートを毎回写させてもらい、自身も独学で勉強したし、長期休暇に入れば、リリアーシアの家庭教師から2人で勉強を見てもらったりもして、自身の仕事に必要な魔法も習得した。
メリスの宝物でもあるリリアーシアのノートの写し。
これを餌にすれば、恐らく彼女は釣れる。
他ならぬ主の為、自身の宝を使う事に何の躊躇いも無かった。
「親交のある男爵家の次女がいわば妹分なのです」
「その…いいのですか? 場合によっては危険な目に」
アーティアは協力者に命の危機が及ぶのではと心配する。
「直接接触しなければ大丈夫かと。なんとか付け入る隙がないかだけでも探れればと思います」
「情報は多いほうがいい。 メリスさん頼めるならお願いしたい」
「その……メリスお願いしてもいいかしら」
「お嬢様お任せ下さい」
こうしてリクシフォン男爵令嬢ミンティリスに探って貰うべく、メリスが動くことになった。
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