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52話 大賢者である私がいずれ行きたいと思っている異国よりの来訪者
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「以上でございます」
豪華な部屋の、これまた豪華なデスクに美しい少女が座っている。
長く腰まで伸びた銀色の髪、肌は透き通るように白く、瞳はブルーサファイアように神秘的な青だった。
その少女に向かい何やら老齢の男がが報告している。
「有難うジョアンニ。少し考えてみます」
「私はこれで失礼致します」
男は一礼して退出した。
入れ替わるように、メイドが入ってくる。
紅茶セットを運んできた。
いつもこの時間に少女は紅茶を楽しむのを知っていた男は、ティータイムの時間を邪魔しない様に長居しなかったのだ。
紅茶の支度が終わり、少女は執務デスクから一時的に開放された。
「美味しいわ。いつも有難う」
「滅相もございません。姫様もお疲れ様でございます」
「有難う。もう慣れたけど、書類とにらめっこは性に合わないわ」
「先代様よりお引き継ぎになられて早1年になりますね」
「ええ、私は外での活動の方がいいのだけど…」
「パレサファイール様は聖王国の王女であり、聖女様でございます。もしもの事があると困ります」
聖王国。正式名称をサンムーン聖王国といい、強い癒しの力を持つ者を聖女として特に強く崇める国である。
勇者に従い魔王を討伐したヒーラーであり、後の世に大聖女と呼ばれることになった初代聖女はこの国の王女だったという。
(魔王がいた時代、聖女と呼ばれた存在はいない。後の世が定めたものである)
サンムーン聖王国の王家は強い癒しの力を持つ聖女の血筋と言えた。
「ふぅ、王女と言っても聖女となった今は、王位継承権も無くなったし形だけよ。それに王女と言っても第三王女だから。聖女にしたって本来ならお姉様の方が………」
そう言って王女であり聖女である少女はクッキーを一つ手に取り、口に運ぶ。
「うん、クッキーも美味しいわ」
王女の傍らに立つメイドは言葉に困っていた。
「そんな顔しないでね。それにたった今、最重要懸案ができたのよ」
なにか嫌な予感がしたのだろうメイドは恐る恐る尋ねる。
「姫様、それは一体?」
「メル、王宮に行くから支度してね」
そう言って王女は執務机の元に向かうと机の上のベルを鳴らした。
途端に扉がノックされ先程の老齢の男が入ってきた。
「ジョアンニ。王宮に行きます。聖女として王に謁見したいわ」
「畏まりました。至急手配致します」
王宮へ向かう馬車の中、自分一人になった王女はため息をつく。
「お姉様に会えるかしら…」
窓越しに遠くの地に思いを馳せた。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「ダンジョンのモンスターの湧きは確かに激減していました。しかし、それ以外の異変は私達には確認出来ませんでした」
リリエナスタ王女は兄である王太子アレクシスに、長きに渡るダンジョンの調査結果を報告した。
「つまり、お前たちにも原因は判らないと」
「はい、お兄様」
申し訳無さそうに答えるリリー王女。
「原因は判らないが、何かが起こっていると思っているのだな?」
「はい、私はそう思います。ひょっとしてダンジョンの最奥がまだあるのかもと思い、何度もトライしたのですが私達には発見出来ませんでした」
「お前たちが発見出来ないなら他に発見できる者達など居ないさ。ダンジョンに更なる奥があるとは限らない」
「もし、発見出来るとしたら、一人だけ心当たりが」
「聖紋の聖女様か?」
「はい、ミリーならなにか発見出来るかも。いえ、出来るというか何か変化をもたらしてくれる、そんな気がします」
「彼女を買っているな」
「孤児院の子供がダンジョンに入ったということで、捜索依頼を受けてダンジョンに入った時のことです。ダンジョン内でミリーに会ったのですが、あの子は依頼を受けた訳でも無いのに子供たちを保護していました」
「ふむ」
「それに、牛の頭を背負っていて。私も牛男を何度も倒しましたけど、あの頭がマスクだったなんて初めて知りました」
「聖女様は不思議な事を巻き起こすな」
「あの子に正式に依頼をしたかったのですが、あの子のパーティーには荷が重いでしょうし、ミリーだけへの依頼はあの子が受けないでしょう。なんだかんだでパーティーとの絆を大切にしているようです」
「そうか、一応ウノユには警戒体勢を引く。ダンジョンは一時閉鎖。軍も出動し、様子を見よう」
「お兄様!」
「お前たちが発見出来なかった以上、スタンピードの可能性は低いかも知れないが否定もできない。王家には民を守る責務があるのだ。リリー済まないが引き続きダンジョンの調査を頼む」
「判りました」
兄の判断は正しいと思う。
しかし、不安の晴れないリリー王女であった。
「それはそうと教会が発表した新ポーションだが、教会側がレシピの公開に応じてくれたよ。一般でも取り扱いできる様になる」
「それはようございました。新ポーションは私達も使わさせて貰っています。ミルファの負担が劇的に減りました」
教会による新ポーション(劣化板)のレシピ公開は、ミリーのシナリオ通りだが2人には判らない。
「これでヒーラー不足問題もかなり緩和される」
その言葉を聞いた瞬間、リリーにはミリーのニンマリ笑う顔が思い浮かんだ。
「そうだった……のね」
「どうした?リリー」
「今回の新ポーション。恐らくミリーが一枚噛んでいます」
「聖女様が?」
「ミリーが高級宿に戻って来なかった件で、急ぎビフテに向かった時の事ですが……」
早朝の孤児院にミリー入って行った事。
その後間もなく、教会に出入りする商人の護衛でミリーがウノユに向かった事。
ミリーはウノユでも孤児院に行った事。
その後、直ぐにウノユで新ポーションが出回りだした。
「すると新ポーションは神の知恵か」
「今のヒーラー不足の解消が目的かと思います」
「それを聖女様の名前は一切出さず教会の手柄にさせた」
「はい、恐らく教会ひいては孤児院経営を立て直す為」
「その問題は私も頭を悩ませていた。力ない王家で汗顔の至りだ」
「更に言えば、ヒーラーの価値を下げたとも言えます」
「少量で以前より効果の高いポーションを安価に出したのだ。ヒーラー無しの冒険者には願ってもないことだろう。民にとっても、軍にとっても、王家にとってもな」
王太子の言うとおりだった。
この件に関して感謝をすることはあっても、責めるなど筋違いだ。
<ミリー貴女の目的は ヒーラー、いえ聖女の価値を下げる事だったのね>
「リリー、私はミリーという少女が神に聖女として選ばれた理由。それは癒しの力以外にあると思っている」
「え、それは一体?」
「オーディションの時、元とはいえSランク冒険者の父上ですら一瞬でノックアウトしたのだ。彼女の資質は癒しだけではない」
その言葉にリリーは弟であるフェルの呪いを破壊していたあの光景を思い出す。
ミリーは楽しそうだった。
フェルはミリーと聖紋の奇跡で色々な所に行った。
そう、彼女の持つ聖紋は癒しだけでは無かった。
言われてみればミリーは結構好戦的だ。
「私は勘違いをしていたようですね」
「彼女の重要度が薄まった訳ではないな」
そう言われたリリーは心が軽くなっていくのを感じた。
<ふふふ。騙されないわよミリー。絶対に逃さないからね>
===============
最近私の出番が終盤に多いのは何かの呪い?
ま、いいけどね。
それより問題なのは今目の前の光景だ。
「ナルっちどう思う?」
「どうって大繁盛万歳じゃないですか」
はい皆様、超絶美少女のわたくし、ミリーシアタことミリーちゃん、ようやくの登場ですよ。
お待たせして済まないこってす。
盛大な拍手で暖かくお迎え下さい。
私はその類まれなる美貌と癒しの力で今日も健気に診療所を開いております。
リッキー達3人はいろいろあったけど、なんとか試験に合格し、Dランク昇格できた。
パーティーとしてもDランクに昇格した。
昇格試験は割とハードだったので、一週間のお休みとなったのだ。
私はヒマになったのでこうして小銭を稼いでいる。
「教会の出した新ポーションが凄いんでしょ?道具屋でも新ポーション扱いだしたんだよね?」
「はい、新ポーション凄いですよね!」
「じゃあ、なんでこんなに並んでいるのさ?」
私の診療所になっている、冒険者ギルド内の『G様謁見所』コーナー。
そこは今日も行列ができていた。
そしていつもの変態達も並んでいた。
本当に懲りないマゾどもである。
もう蹴るのやめようかなとも思ったけど、それも可哀想なので今日もきっちり蹴ろう。
私ってば優しすぎ。
「それはミリーさん。最近ではここって観光スポットなんですよー」
「はい?」
「ミリーさんが信者を蹴るところとか大人気ですね」
言われてみれば行列を見ている者も多い。
なんて物好きなんだろうか。
「何がウケるのか判らない世の中だねぃ」
「あと噂なんですけどね」
「噂って?」
「ミリーさんに回復してもらうと幸運に恵まれるって噂が広まっているんですよ。実際の所どうなんです?」
「それは気のせいなんじゃない?」
とは言ったが実は気のせいではない。
少しでも楽をしたい私は、回復と同時にちょっとでも此処にくる回数が減るようにと、開運魔法(弱)を混ぜていた。
不注意者は何度も怪我をしやすい。
だから何度もここに来るのだ。
変態ども以外にも何度も見たことがある顔がいたのだ。
「ふーん、でもそういうおまじない的な神秘さがミリーさんにはありますから。あっとミリーさんオープンの時間です。今日もお願いします」
「じゃあ、今日も稼がせて貰いますかねー」
ーーーーーーーーーーーーーーー
「ミリーさん。疲れ様です」
「ナルっちあがりとう!」
診療所は午前の部が9持~11持、午後の部が14持~16持の各2時間づつ。
1日4時間しかやらないのは診療所や教会への配慮である。
(あとメンドーだし飽きるから)
今は午前の部が終わったところ。
ナルっちがミルクティーを持ってきてくれた。
「ナルっちのミルクティー最高!」
「ミリーさん褒め過ぎですよ」
他愛のない雑談で時間を潰す私達。
ナルっちにしてもギルドの受付業務が一段落したところだった。
「そういえば、ミリーさん。ウノユのダンジョンに行ったんでしょう?どうでした?」
「んー、そうだね。思った以上に悪意に満ちた場所だったかな」
その言葉に反応したのはナルっちではなく、セバっちゃんだった。
いつもの通り無表情だけどなにか真剣さは伝わってきた。
「ミリー様。どういうことでしょう?」
「あれ? セバっちゃんも気づいているかと思ったけど?」
カリスがショートチャレンジと言っていた、あの牛男のジジイが居たところでは感じなかったけどウノユのダンジョンに入った時と戻ってきた時、ダンジョンに漂う悪意を感じた。
殺意ともまた違う、〝人をいたぶって喜びたい〟とか、そんな邪な悪意を感じ取ったのだ。
そしてそれは前世で敵からよく感じた悪意だ。
『悪魔族』
デビル、デーモンなど様々な呼び名があり、『魔族』と同様に危険な存在だ。
あのダンジョンにはその『悪魔族』がいる。
だから深入りを避けれたのは幸いだった。
ビフテの星では絶対に勝ち目がない相手。
更に上位種の〝魔神〟だった場合は、私達とセバっちゃんでも厳しい。
アヤメが居たなら別だけど、勇者はこの時代には居ないのだ。
「私には感じ取れませんでしたな」
「じゃ、気のせいかな?」
私が悪魔族に詳しいなど変だろうからね。
思わず言ってしまったことを後悔した。
セバっちゃんは変に鋭くて困る。
「そうですか」
幸いにもセバっちゃんがそれ以上追求してくることはなかった。
===============
「さて、着いたわね」
アラバスタル王国の王都『アラモンテ』この地にサンムーン聖王国の聖女パレサファイールは立っていた。
豪華な部屋の、これまた豪華なデスクに美しい少女が座っている。
長く腰まで伸びた銀色の髪、肌は透き通るように白く、瞳はブルーサファイアように神秘的な青だった。
その少女に向かい何やら老齢の男がが報告している。
「有難うジョアンニ。少し考えてみます」
「私はこれで失礼致します」
男は一礼して退出した。
入れ替わるように、メイドが入ってくる。
紅茶セットを運んできた。
いつもこの時間に少女は紅茶を楽しむのを知っていた男は、ティータイムの時間を邪魔しない様に長居しなかったのだ。
紅茶の支度が終わり、少女は執務デスクから一時的に開放された。
「美味しいわ。いつも有難う」
「滅相もございません。姫様もお疲れ様でございます」
「有難う。もう慣れたけど、書類とにらめっこは性に合わないわ」
「先代様よりお引き継ぎになられて早1年になりますね」
「ええ、私は外での活動の方がいいのだけど…」
「パレサファイール様は聖王国の王女であり、聖女様でございます。もしもの事があると困ります」
聖王国。正式名称をサンムーン聖王国といい、強い癒しの力を持つ者を聖女として特に強く崇める国である。
勇者に従い魔王を討伐したヒーラーであり、後の世に大聖女と呼ばれることになった初代聖女はこの国の王女だったという。
(魔王がいた時代、聖女と呼ばれた存在はいない。後の世が定めたものである)
サンムーン聖王国の王家は強い癒しの力を持つ聖女の血筋と言えた。
「ふぅ、王女と言っても聖女となった今は、王位継承権も無くなったし形だけよ。それに王女と言っても第三王女だから。聖女にしたって本来ならお姉様の方が………」
そう言って王女であり聖女である少女はクッキーを一つ手に取り、口に運ぶ。
「うん、クッキーも美味しいわ」
王女の傍らに立つメイドは言葉に困っていた。
「そんな顔しないでね。それにたった今、最重要懸案ができたのよ」
なにか嫌な予感がしたのだろうメイドは恐る恐る尋ねる。
「姫様、それは一体?」
「メル、王宮に行くから支度してね」
そう言って王女は執務机の元に向かうと机の上のベルを鳴らした。
途端に扉がノックされ先程の老齢の男が入ってきた。
「ジョアンニ。王宮に行きます。聖女として王に謁見したいわ」
「畏まりました。至急手配致します」
王宮へ向かう馬車の中、自分一人になった王女はため息をつく。
「お姉様に会えるかしら…」
窓越しに遠くの地に思いを馳せた。
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「ダンジョンのモンスターの湧きは確かに激減していました。しかし、それ以外の異変は私達には確認出来ませんでした」
リリエナスタ王女は兄である王太子アレクシスに、長きに渡るダンジョンの調査結果を報告した。
「つまり、お前たちにも原因は判らないと」
「はい、お兄様」
申し訳無さそうに答えるリリー王女。
「原因は判らないが、何かが起こっていると思っているのだな?」
「はい、私はそう思います。ひょっとしてダンジョンの最奥がまだあるのかもと思い、何度もトライしたのですが私達には発見出来ませんでした」
「お前たちが発見出来ないなら他に発見できる者達など居ないさ。ダンジョンに更なる奥があるとは限らない」
「もし、発見出来るとしたら、一人だけ心当たりが」
「聖紋の聖女様か?」
「はい、ミリーならなにか発見出来るかも。いえ、出来るというか何か変化をもたらしてくれる、そんな気がします」
「彼女を買っているな」
「孤児院の子供がダンジョンに入ったということで、捜索依頼を受けてダンジョンに入った時のことです。ダンジョン内でミリーに会ったのですが、あの子は依頼を受けた訳でも無いのに子供たちを保護していました」
「ふむ」
「それに、牛の頭を背負っていて。私も牛男を何度も倒しましたけど、あの頭がマスクだったなんて初めて知りました」
「聖女様は不思議な事を巻き起こすな」
「あの子に正式に依頼をしたかったのですが、あの子のパーティーには荷が重いでしょうし、ミリーだけへの依頼はあの子が受けないでしょう。なんだかんだでパーティーとの絆を大切にしているようです」
「そうか、一応ウノユには警戒体勢を引く。ダンジョンは一時閉鎖。軍も出動し、様子を見よう」
「お兄様!」
「お前たちが発見出来なかった以上、スタンピードの可能性は低いかも知れないが否定もできない。王家には民を守る責務があるのだ。リリー済まないが引き続きダンジョンの調査を頼む」
「判りました」
兄の判断は正しいと思う。
しかし、不安の晴れないリリー王女であった。
「それはそうと教会が発表した新ポーションだが、教会側がレシピの公開に応じてくれたよ。一般でも取り扱いできる様になる」
「それはようございました。新ポーションは私達も使わさせて貰っています。ミルファの負担が劇的に減りました」
教会による新ポーション(劣化板)のレシピ公開は、ミリーのシナリオ通りだが2人には判らない。
「これでヒーラー不足問題もかなり緩和される」
その言葉を聞いた瞬間、リリーにはミリーのニンマリ笑う顔が思い浮かんだ。
「そうだった……のね」
「どうした?リリー」
「今回の新ポーション。恐らくミリーが一枚噛んでいます」
「聖女様が?」
「ミリーが高級宿に戻って来なかった件で、急ぎビフテに向かった時の事ですが……」
早朝の孤児院にミリー入って行った事。
その後間もなく、教会に出入りする商人の護衛でミリーがウノユに向かった事。
ミリーはウノユでも孤児院に行った事。
その後、直ぐにウノユで新ポーションが出回りだした。
「すると新ポーションは神の知恵か」
「今のヒーラー不足の解消が目的かと思います」
「それを聖女様の名前は一切出さず教会の手柄にさせた」
「はい、恐らく教会ひいては孤児院経営を立て直す為」
「その問題は私も頭を悩ませていた。力ない王家で汗顔の至りだ」
「更に言えば、ヒーラーの価値を下げたとも言えます」
「少量で以前より効果の高いポーションを安価に出したのだ。ヒーラー無しの冒険者には願ってもないことだろう。民にとっても、軍にとっても、王家にとってもな」
王太子の言うとおりだった。
この件に関して感謝をすることはあっても、責めるなど筋違いだ。
<ミリー貴女の目的は ヒーラー、いえ聖女の価値を下げる事だったのね>
「リリー、私はミリーという少女が神に聖女として選ばれた理由。それは癒しの力以外にあると思っている」
「え、それは一体?」
「オーディションの時、元とはいえSランク冒険者の父上ですら一瞬でノックアウトしたのだ。彼女の資質は癒しだけではない」
その言葉にリリーは弟であるフェルの呪いを破壊していたあの光景を思い出す。
ミリーは楽しそうだった。
フェルはミリーと聖紋の奇跡で色々な所に行った。
そう、彼女の持つ聖紋は癒しだけでは無かった。
言われてみればミリーは結構好戦的だ。
「私は勘違いをしていたようですね」
「彼女の重要度が薄まった訳ではないな」
そう言われたリリーは心が軽くなっていくのを感じた。
<ふふふ。騙されないわよミリー。絶対に逃さないからね>
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最近私の出番が終盤に多いのは何かの呪い?
ま、いいけどね。
それより問題なのは今目の前の光景だ。
「ナルっちどう思う?」
「どうって大繁盛万歳じゃないですか」
はい皆様、超絶美少女のわたくし、ミリーシアタことミリーちゃん、ようやくの登場ですよ。
お待たせして済まないこってす。
盛大な拍手で暖かくお迎え下さい。
私はその類まれなる美貌と癒しの力で今日も健気に診療所を開いております。
リッキー達3人はいろいろあったけど、なんとか試験に合格し、Dランク昇格できた。
パーティーとしてもDランクに昇格した。
昇格試験は割とハードだったので、一週間のお休みとなったのだ。
私はヒマになったのでこうして小銭を稼いでいる。
「教会の出した新ポーションが凄いんでしょ?道具屋でも新ポーション扱いだしたんだよね?」
「はい、新ポーション凄いですよね!」
「じゃあ、なんでこんなに並んでいるのさ?」
私の診療所になっている、冒険者ギルド内の『G様謁見所』コーナー。
そこは今日も行列ができていた。
そしていつもの変態達も並んでいた。
本当に懲りないマゾどもである。
もう蹴るのやめようかなとも思ったけど、それも可哀想なので今日もきっちり蹴ろう。
私ってば優しすぎ。
「それはミリーさん。最近ではここって観光スポットなんですよー」
「はい?」
「ミリーさんが信者を蹴るところとか大人気ですね」
言われてみれば行列を見ている者も多い。
なんて物好きなんだろうか。
「何がウケるのか判らない世の中だねぃ」
「あと噂なんですけどね」
「噂って?」
「ミリーさんに回復してもらうと幸運に恵まれるって噂が広まっているんですよ。実際の所どうなんです?」
「それは気のせいなんじゃない?」
とは言ったが実は気のせいではない。
少しでも楽をしたい私は、回復と同時にちょっとでも此処にくる回数が減るようにと、開運魔法(弱)を混ぜていた。
不注意者は何度も怪我をしやすい。
だから何度もここに来るのだ。
変態ども以外にも何度も見たことがある顔がいたのだ。
「ふーん、でもそういうおまじない的な神秘さがミリーさんにはありますから。あっとミリーさんオープンの時間です。今日もお願いします」
「じゃあ、今日も稼がせて貰いますかねー」
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「ミリーさん。疲れ様です」
「ナルっちあがりとう!」
診療所は午前の部が9持~11持、午後の部が14持~16持の各2時間づつ。
1日4時間しかやらないのは診療所や教会への配慮である。
(あとメンドーだし飽きるから)
今は午前の部が終わったところ。
ナルっちがミルクティーを持ってきてくれた。
「ナルっちのミルクティー最高!」
「ミリーさん褒め過ぎですよ」
他愛のない雑談で時間を潰す私達。
ナルっちにしてもギルドの受付業務が一段落したところだった。
「そういえば、ミリーさん。ウノユのダンジョンに行ったんでしょう?どうでした?」
「んー、そうだね。思った以上に悪意に満ちた場所だったかな」
その言葉に反応したのはナルっちではなく、セバっちゃんだった。
いつもの通り無表情だけどなにか真剣さは伝わってきた。
「ミリー様。どういうことでしょう?」
「あれ? セバっちゃんも気づいているかと思ったけど?」
カリスがショートチャレンジと言っていた、あの牛男のジジイが居たところでは感じなかったけどウノユのダンジョンに入った時と戻ってきた時、ダンジョンに漂う悪意を感じた。
殺意ともまた違う、〝人をいたぶって喜びたい〟とか、そんな邪な悪意を感じ取ったのだ。
そしてそれは前世で敵からよく感じた悪意だ。
『悪魔族』
デビル、デーモンなど様々な呼び名があり、『魔族』と同様に危険な存在だ。
あのダンジョンにはその『悪魔族』がいる。
だから深入りを避けれたのは幸いだった。
ビフテの星では絶対に勝ち目がない相手。
更に上位種の〝魔神〟だった場合は、私達とセバっちゃんでも厳しい。
アヤメが居たなら別だけど、勇者はこの時代には居ないのだ。
「私には感じ取れませんでしたな」
「じゃ、気のせいかな?」
私が悪魔族に詳しいなど変だろうからね。
思わず言ってしまったことを後悔した。
セバっちゃんは変に鋭くて困る。
「そうですか」
幸いにもセバっちゃんがそれ以上追求してくることはなかった。
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「さて、着いたわね」
アラバスタル王国の王都『アラモンテ』この地にサンムーン聖王国の聖女パレサファイールは立っていた。
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ある日わたしは婚約者に婚約解消を申し出た。
常にわたし以外の女を腕に絡ませている事に耐えられなくなったからだ。
幼い頃からわたしを溺愛する婚約者は婚約解消を絶対に認めないが、わたしの心は限界だった。
だからわたしは行動する。
わたしから婚約者を自由にするために。
わたしが自由を手にするために。
残酷な表現はありませんが、
性的なワードが幾つが出てきます。
苦手な方は回れ右をお願いします。
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