大聖女様 世を謀る！

７話 大賢者である私には事情を聞く権利があるよね

　私は王子にかけられた呪いを、それはもう跡形もなく綺麗さっぱり破壊し尽くした。

　かつて大賢者と謳われる以前、殲滅魔道士と呼ばれた頃の自分だったら面目躍如の活躍と言われていただろう。
　その光景をリリエナスタ王女がどう見ていたかは知らないけど、ヒーラーの使う術とは見てないよねえ。
　さて、なんと誤魔化したものか。
　魔法陣を解いた私は、王女に向き直って告げる。

「終わったよー。もう大丈夫」

　王女は弟である王子の元に行き、その寝顔が安らかになっていたのを確認する。
　額に手をあて熱が下がったのがわかると、安堵のあまりかその場にへたり込んだ。

「うん、熱も下がったみたいね。王子は結構呪いの耐性が強かったみたい。でなければ、熱も上がらずに苦しみぬいて1日で死んでたよ。王子の資質に感謝だね」

「私達は、かつて魔王を倒した偉大なる英雄、ティーバ王の子孫。だから耐えれたのかも知れません」

　あいつの憎たらしい顔が浮かぶ。

「へぇ、そ、そうなんだ。凄いね」

「ミリーシアタ様には感謝してもしきれません」

「なぜ、急に敬語なの？　私はFランク冒険者のしがないヒ・ー・ラ・ー・だよ？ミリーでいいよ」

　駄目元でヒーラーであることを念押ししてみる。

「弟の命の恩人ですもの。礼を尽くすのは当然のことです」

「そうだ、荊棘で傷ついた王子の体を治療するね」

　ここでヒーラーらしいことをしておけば、なんとか誤魔化せるかな？
　私は、王女の返事を待たずに術を発動する。
　一応形だけは祈るポーズをとった。
　だって私はヒーラーで神の奇跡を使う者（という設定）だからね。

　光の粒子が王子に降り注ぐ。

　前世の私は一時期、回復魔法に凝っていて色々なタイプの魔法を開発した。
　この世界の回復魔法は聖職者の専売特許であり、それは魔術ではなく神の奇跡と呼ばれていた。
　私は魔術でも回復魔法は出来る筈と色々と開発したのだが、世に出る前に資料もろとも灰になったのだった。

　今使ったのは、聖職者の回復の祈りによる奇跡の発動と極めて酷似したエフェクトをつけている即時回復の魔術である。

　回復魔法『ヒールによく似た何か』
（名前をつけてなかったのでたった今つけた）

　これなら誰が見ても私が神の奇跡を使ったと思うだろう。
　かつての私が聖職者どもとの対立を避けるべく生み出したものである。
　さすが私だ。
　王子に降り注いだ光のエフェクト自体に意味はない。
　術の発動と同時に王子の傷はこれまた綺麗さっぱり跡も残らず消えたはずある。

「確認してね」

　私は告げると、部屋をでた。
　王子の玉体を拝見するわけにはいかないよね。
　部屋をでた私は、外に待機していた青薔薇の戦乙女の面々に声をかけた。

「終わったよー。もう大丈夫」

「本当か！」

　返事はスカウトなのかレンジャーなのかイマイチはっきりしない方からだった。

「ま、ね」

　疲れていないが、いかにも大層な術をつかったような疲れた感じを演出する。

「お疲れ様」

「ありがとうございました」

　魔道士とヒーラーからも労いと感謝の言葉が発せられた。

「いえいえ、疲れたけど依頼だから。助けられて良かったわ」

　私が適当な返事をしているとリリエナスタ王女が部屋から出てきた。
　そして出てくるなり私の両手をしっかりと握ってきたのだ。
　なに？突然！

「凄い！流石ミリーシアタ様です！傷口は跡形もありませんでした。」

　ん？凄い？流石？
　たかが普通の回復の術じゃないの。

「それは良かった。けどその呼び方ほんとに止めてくれない？王女様に様付されるのはこそばゆいから。さっきも言ったけどミリーで」

「貴女様ほどのお方を敬称無しで呼ぶなんて。それに弟の命の恩人でもありますのに」

「だから私はしがないFランク冒険者だって」

「わかりました、ご事情がお有りなのですね。たしかにギルドで私が様付けでお呼びしたら余計な詮索をされることでしょう。不遜ながらミリーと呼ばさせて頂きます」

　王女どしちゃったの？
　私は他のメンバーを見るが、ヒーラーさんは少し納得した様子で他二人は不思議そうにしていた。

「それはそうと、呪いがかけられた経緯を詳しく教えてくれない？」

　私には聞く権利があるよね。

「わかり…　いえ、わかったわ。弟が心配だから弟の部屋で」

　私達は王子の部屋に入り、とりあえず自己紹介し合った。
　そういえばまだだったよね。
　青薔薇の戦乙女のメンバーは、タンク役の聖騎士リリエナスタ王女、ダメージディーラーの魔道士のルメクーン、斥候、遊撃担当のスカウト兼レンジャーでエルフのカリスクストナ、ヒーラーの聖職者プレミルファイーエの４人。
　リリー、クーン、カリス、ミルファと呼び合っているそうだ。
　私も改めて自己紹介しつつ念押し。

「Fランク冒険者でヒーラーのミリーシアタことミリーです。先輩方よろしくー」

　何故王子は呪われたのか？事情はこうだ。

　この国の第２王子であるフェルナード王子は英雄王ティーバに憧れていた。

　そんなある日、王子はリリー王女に冒険に一緒に行きたいと懇願した。
　まだ１０才で冒険なんてとんでもない話だが、この国では王族が先頭に立って戦うのはティーバの時代からの伝統らしく無下にも出来ない。

　今回の冒険は王子に冒険気分を味わってもらう為の
　作られた冒険のはずだった。
　だから王都から近い洞窟を選び、中に何もいない事を確認した。
　洞窟の最奥に王城の宝物庫から発見されたティーバの時代の未解錠の宝箱を置いた。
　ティーバゆかりの物がでたら王子が喜び、満足するだろうと思ってのことだった。