虐待されていた私ですが、夫たちと幸せに暮らすために頑張ります

赤羽夕夜

文字の大きさ
上 下
34 / 55

21-3

しおりを挟む
「――ふぅ」

今回の件のアニスの末路を王都にいる内容が記されている手紙が養父から届いた。落ち着くところで落ち着いたな、と安堵の息をひとつ。

最高級の皮張りのチェアから立ち上がると、その手紙を持ってミハイルがいる工房へ向かった。

ミハイルの工房はあちらこちらに試作品が転がっていた。最近は硝子の彫刻をメインにしているのか、アクセサリー類の小さな彫刻が机の上に乱雑に置かれている。

地面には花瓶やコップが適当な場所に置かれており、円を描いて中央の椅子と小さな椅子でミハイルはせっせと一生懸命に作品を作っていた。

刃物を使っているので、ヴァシリッサは様子を覗き見てから扉をノックするとミハイルは気づいて顔を思いっきりあげた。

扉に寄りかかり、ひらひらと王室からの手紙を振る。首を傾げてミハイルは近寄ると、その手紙を受け取り、目を通す。

「あら、浮かない顔ね。少しは喜んでくれると思っていたのに」

何とも言えない複雑な表情で手紙を閉じた。

「俺の意思でないとしても、あの時アニスの言葉に惑わされて彼女と二人っきりになったのは事実だし、俺が甘い考えを捨てられていれば今回の件は起こらなかった。愚かな王子だという評価は変わらないさ」

「そうね。でも、あの時あなたの意思で私たちは辱められたのではないと世間に周知させることはできたわ。アレーナの家名に傷もついたでしょうね」

ちくり、と言葉で棘を刺してみる。今までなら突っかかってきたのに、素直に受け止めたのかぐっと空気を飲み込むように、ミハイルは喉を嚥下させた。

じっとその表情を見つめていると、ぽつり、と話した。

「俺は本当に、大変なことをしでかしてしまった。ありのままに受け入れてくれたこの家を、おまえを陥れる結果になってしまった。それだけは愚かな俺でも理解できる」

今にも泣きそうな顔で唇をかみしめるミハイル。王室で育ち、甘やかされてきた分、彼は人を知らないのだ。騙されやすいほど純粋なほど。

「なんと、俺は愚かだったのか……。死にたいくらいだ。死んでも詫びきれないよ」

「あなたは元王族だから死ねないわよ。生きて、自分の行いで傷つけた人に償いなさい」

性格が悪いだけで済まされればまだ憎めるところがあったが、やはり、彼は自分の行動に責任を感じていた。その自責の念が彼がしでかした事態への罰だ。

「すまなかった。ごめん。……ごめんなさい、ヴァシリッサ」

「――そう思ってくれるなら、私からはなにも言うことはないわ。ベルもアリスもわかってくれる。だって家族だもの。たしかにあなたは大きな失敗をしたけれど、反省している人に延々と騒ぎ立てるほど、私たちは狭量ではないつもりよ」

体外的にも、精神的にも罰を受けた。

私たちも今回の件で邪魔な貴族の勢いを落とせたし、今回の件の手打ちはこれでいいと思っている。

目の前のことに夢中になると周りが見えないのは彼の悪い癖だが、悪意をもってそうしたわけではないと気づいた。

なんだか愛おしくて、座っていたミハイルの頭を抱きかかえるように抱きしめた。

「見捨てないでくれるのか」
「当たり前でしょ。私たちは家族なのよ。不注意で道端に転がっている野良犬の糞を踏んづけたくらいで嫌いにならないわ」

――だから、もっと心を開いて。なんて野暮なことは言わない。家族に対価や見返りを求めることこそそもそも間違っているから。

それでも、少しは心を開いて欲しいと願ってしまうのは許して欲しい。

ミハイルの息が胸にかかる。くすぐったくて離れようとしたが、ミハイルは腰に手を回してテーブルの上にある試作品をざらり、と腕で床に落とす。

ベッドかわりに押し倒され、頭上には涙で濡れた視線と高揚とした表情。

勢いに任せ、温もりに身を任せた。

――はじめて、彼が本当の意味で受け入れた瞬間だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大公閣下!こちらの双子様、耳と尾がはえておりますが!?

まめまめ
恋愛
 魔法が使えない無能ハズレ令嬢オリヴィアは、実父にも見限られ、皇子との縁談も破談になり、仕方なく北の大公家へ家庭教師として働きに出る。  大公邸で会ったのは、可愛すぎる4歳の双子の兄妹! 「オリヴィアさまっ、いっしょにねよ?」 (可愛すぎるけど…なぜ椅子がシャンデリアに引っかかってるんですか!?カーテンもクロスもぼろぼろ…ああ!スープのお皿は投げないでください!!)  双子様の父親、大公閣下に相談しても 「子どもたちのことは貴女に任せます。」  と冷たい瞳で吐き捨てられるだけ。  しかもこちらの双子様、頭とおしりに、もふもふが…!?  どん底だけどめげないオリヴィアが、心を閉ざした大公閣下と可愛い謎の双子とどうにかこうにか家族になっていく恋愛要素多めのホームドラマ(?)です。

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました

さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。 私との約束なんかなかったかのように… それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。 そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね… 分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

目が覚めたら男女比がおかしくなっていた

いつき
恋愛
主人公である宮坂葵は、ある日階段から落ちて暫く昏睡状態になってしまう。 一週間後、葵が目を覚ますとそこは男女比が約50:1の世界に!?自分の父も何故かイケメンになっていて、不安の中高校へ進学するも、わがままな女性だらけのこの世界では葵のような優しい女性は珍しく、沢山のイケメン達から迫られる事に!? 「私はただ普通の高校生活を送りたいんです!!」 ##### r15は保険です。 2024年12月12日 私生活に余裕が出たため、投稿再開します。 それにあたって一部を再編集します。 設定や話の流れに変更はありません。

女性の少ない異世界に生まれ変わったら

Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。 目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!? なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!! ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!! そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!? これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

戻る場所がなくなったようなので別人として生きます

しゃーりん
恋愛
医療院で目が覚めて、新聞を見ると自分が死んだ記事が載っていた。 子爵令嬢だったリアンヌは公爵令息ジョーダンから猛アプローチを受け、結婚していた。 しかし、結婚生活は幸せではなかった。嫌がらせを受ける日々。子供に会えない日々。 そしてとうとう攫われ、襲われ、森に捨てられたらしい。 見つかったという遺体が自分に似ていて死んだと思われたのか、別人とわかっていて死んだことにされたのか。 でももう夫の元に戻る必要はない。そのことにホッとした。 リアンヌは別人として新しい人生を生きることにするというお話です。

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

処理中です...