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「――」
「…………」
雪が解けて春の花々が庭園に芽吹くころ。雪は解けてもベルナルドとミハイルのわだかまりが解けることはなかった。
ある日の朝食前、ベルナルドとミハイルは時間をずらして食事をすることが多いのだが、今日は遅めの朝食だった為、広間の前でミハイルとばったりと遭遇した。
犬と猿、猫と烏といったように屋敷内で出会う度に嫌煙とした空気が立ち込める。
私がいないとどうなってしまうのだろうか。前読んだ異国の後宮の話を読んだことがある。1人の王の寵愛を得るために女たちがあの手この手でライバルの奥様たちに毒を仕込んだり、陥れたりする話。愛や権力欲しさ発端で起こる側室同士の蹴落とし合いはよく物語りにされているが、あれの王もこんな気持ちを味わっていたのだろうか。
まさか自分の夫たちで味わうことになるとは思わなかった。
私が居合わせていてもこんなのなのだから、いない時はどうなっていることなのやら。ベルナルドの性格からして陰険なことはしないかもしれないが、言いたいことは臆せずにはっきり言う性格だ。反発するミハイルとは合わないかもしれない。
離縁しない限りは一生暮らす家族なのだからいつまでも夫同士でギスギスとした関係でいられるのも居心地が悪い。無理に仲良くとは言わないけど、私も関わっているのならなんとかしてわだかまりさえ解ければいいのだが。
「……ちょっと、二人とも。朝食食べたら居残りね」
「どうしたのですか、いきなり。朝食を食べたら東地区への視察が入っているのですが……」
「俺は今日の夕方にグラスの納品が入っている」
「午後にすればいいわ。私は今目の前で起こっていることが我慢ならないから解決したいの」
私たちは食事を済ませると、アリスタウを除いた二人を居残りさせて、それぞれの席についた夫たちへ食後のコーヒーを配る。
「それで、話とは一体なんなのですか」
しらばっくれるベルナルドに「あからさまにミハイルに対して当たりがきついでしょう」と言うと、誤魔化すことなく「あたりまえでしょう」と返した。
ミハイルにも同じことを聞き返すと首を縦に頷いた。
「すべてがこの男と合いません。衝動的に行動をしてその結果周囲に迷惑をかけることしかできない。取り柄と言えば手先の器用さだけではありませんか。愚かなのに出しゃばり続ける人間は……私には理解できない人種です」
「だからといって出会い頭に睨んだり、威圧したりする態度は適切ではないわ。頭ごなしに判断するのではなく、まずは言葉を交わして気に入らないところを話し合うのが家族の在り方ではなくて?」
「それは......一理あります。しかし、私はあなたを害したミハイルが許せない。どんな理由であれ、あなたを冷遇した家族を庇ったことが気に入らないのです。どんな形であれ心を割いて、傷ついたことを思うと胸が苦しい。たしかに感情的になるのは私らしくありません。しかし、家族を思うからこそ感情的になってしまう私の心をわかってください」
「……」
ベルナルドって以外に情熱的なんだ。喜怒哀楽が薄くて、出会った頃はその感情の機微が理解できなくて衝突することもあったが、夫とう立場でも、1人の人間としてもここまで思ってくれることに再度、この人は私のことを大切に思ってくれているのだなと自覚する。
だから、香水の件を伏せて置くのが苦しかった。しかし、私の感情ひとつで情報を漏らすことができない。頭を振って煩悩を振り払って彼を見据えた。
「…………」
雪が解けて春の花々が庭園に芽吹くころ。雪は解けてもベルナルドとミハイルのわだかまりが解けることはなかった。
ある日の朝食前、ベルナルドとミハイルは時間をずらして食事をすることが多いのだが、今日は遅めの朝食だった為、広間の前でミハイルとばったりと遭遇した。
犬と猿、猫と烏といったように屋敷内で出会う度に嫌煙とした空気が立ち込める。
私がいないとどうなってしまうのだろうか。前読んだ異国の後宮の話を読んだことがある。1人の王の寵愛を得るために女たちがあの手この手でライバルの奥様たちに毒を仕込んだり、陥れたりする話。愛や権力欲しさ発端で起こる側室同士の蹴落とし合いはよく物語りにされているが、あれの王もこんな気持ちを味わっていたのだろうか。
まさか自分の夫たちで味わうことになるとは思わなかった。
私が居合わせていてもこんなのなのだから、いない時はどうなっていることなのやら。ベルナルドの性格からして陰険なことはしないかもしれないが、言いたいことは臆せずにはっきり言う性格だ。反発するミハイルとは合わないかもしれない。
離縁しない限りは一生暮らす家族なのだからいつまでも夫同士でギスギスとした関係でいられるのも居心地が悪い。無理に仲良くとは言わないけど、私も関わっているのならなんとかしてわだかまりさえ解ければいいのだが。
「……ちょっと、二人とも。朝食食べたら居残りね」
「どうしたのですか、いきなり。朝食を食べたら東地区への視察が入っているのですが……」
「俺は今日の夕方にグラスの納品が入っている」
「午後にすればいいわ。私は今目の前で起こっていることが我慢ならないから解決したいの」
私たちは食事を済ませると、アリスタウを除いた二人を居残りさせて、それぞれの席についた夫たちへ食後のコーヒーを配る。
「それで、話とは一体なんなのですか」
しらばっくれるベルナルドに「あからさまにミハイルに対して当たりがきついでしょう」と言うと、誤魔化すことなく「あたりまえでしょう」と返した。
ミハイルにも同じことを聞き返すと首を縦に頷いた。
「すべてがこの男と合いません。衝動的に行動をしてその結果周囲に迷惑をかけることしかできない。取り柄と言えば手先の器用さだけではありませんか。愚かなのに出しゃばり続ける人間は……私には理解できない人種です」
「だからといって出会い頭に睨んだり、威圧したりする態度は適切ではないわ。頭ごなしに判断するのではなく、まずは言葉を交わして気に入らないところを話し合うのが家族の在り方ではなくて?」
「それは......一理あります。しかし、私はあなたを害したミハイルが許せない。どんな理由であれ、あなたを冷遇した家族を庇ったことが気に入らないのです。どんな形であれ心を割いて、傷ついたことを思うと胸が苦しい。たしかに感情的になるのは私らしくありません。しかし、家族を思うからこそ感情的になってしまう私の心をわかってください」
「……」
ベルナルドって以外に情熱的なんだ。喜怒哀楽が薄くて、出会った頃はその感情の機微が理解できなくて衝突することもあったが、夫とう立場でも、1人の人間としてもここまで思ってくれることに再度、この人は私のことを大切に思ってくれているのだなと自覚する。
だから、香水の件を伏せて置くのが苦しかった。しかし、私の感情ひとつで情報を漏らすことができない。頭を振って煩悩を振り払って彼を見据えた。
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