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脱出
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森から飛び出たエミリアはその足で皇国に侵入した。特徴的な白髪は目立つので、皇国では特段珍しくもないブロンドヘアに髪の毛の色を魔法によって変え、城に忍び込む為に、丁度捕まえた城仕えの侍女から制服を拝借し、それに着替える。
ぱっと見、どこにでもいる侍女の装いになったエミリアは無事、城へと忍び込むことに成功した――。
「アール......大丈夫?」
「ね......姉さん!どうしてここに......」
エミリアはアールの食事を持ってやってきた。そのことに驚きを隠せないアールだったが、髪の色と、侍女の装いから、城に忍び込んだのだとすぐに理解した。
エミリアはじっとアールの手元、足元を見た。まるで虜囚のようなあつかい。手枷、足枷、さらには首輪までつけられている。アールがいったい、なにをしたというのか。
こんな扱いをされるようなことはなにひとつしていないというのに。
エミリアは「とりあえずこれ食べて」と城で用意したご飯がのったトレーを、アールの前においた。
「姉さん、ごめん......俺......」
「うかつなのは私もだわ。しっかりとあなたたちに口止めしておけばよかったし......皇国に行くと聞いた時点でもっと気にかけておくべきだった。......ごめんなさい。あなたをこんな危険に晒してしまって」
アールは力なく首を振った。何日もご飯を食べていないのだろう。体はやせ細っていた。
「俺がお喋りなのがいけなかったんだ。ちょっと考えればこうなることは予想ついたのに......」
「そういう話はまた家でしましょう。今はカールを家の方に避難させたから」
「本当、なら、安心だ......」
「......転移魔法で森に......といいたいところだけど、牢獄中に阻害魔法が張り巡らされているから、魔法が使えないの。歩けるなら、さっさと外に行きましょう」
「......うん」
エミリアは筋力強化をかけて、弱ったアールの体を持ち上げる。いつもであれば、はしゃぐものだが、牢獄生活の疲れで無駄口も叩けない。
アールはしばらくエミリアに体を預けて、瞼を閉じる。
★
「――皇帝陛下!大変です、重要参考人が牢獄から抜け出しました!」
「――なにッ!見張りはなにをしていたのだ!」
「......それが、宛がっていた見張りが全員致命傷で絶命しておりまして......綺麗に頭や心臓を一撃で打ちぬかれており......」
食事を届けに来た侍女がいくら待ってもでてこないことに疑問に思った見張りの兵士は、牢屋の様子をみに来た。
牢屋は地下室にあり、地下室の入口に見張りの兵士が2人在中している。その入口から入ると横に一列に罪人や人質を勾留する牢屋が並んでいる。
つまり、地下室の入口を閉じた状態だと、中の様子が見れない。
兵士たちは焦って急いで皇帝へと状況を伝えに来たのだった。
ハルトは怒りで血が沸騰するような熱さを覚える。いますぐこの役立たず共を殺してやりたいが、今は逃げ出したアールと食事の配膳をした侍女とやらの行方を探さねばと。
「ええいッ!多分森の魔女とやらの仕業だろう!......この俺をコケにしやがってッ!おい、いますぐ城の警備を強化しろ!蟻の子一匹城から出すな!」
「はッ!」
ハルトは玉座から立ち上がる。
羽織っていた上着を翻すと、自分が捜索隊の指揮をするべく、玉座から降りた。
ぱっと見、どこにでもいる侍女の装いになったエミリアは無事、城へと忍び込むことに成功した――。
「アール......大丈夫?」
「ね......姉さん!どうしてここに......」
エミリアはアールの食事を持ってやってきた。そのことに驚きを隠せないアールだったが、髪の色と、侍女の装いから、城に忍び込んだのだとすぐに理解した。
エミリアはじっとアールの手元、足元を見た。まるで虜囚のようなあつかい。手枷、足枷、さらには首輪までつけられている。アールがいったい、なにをしたというのか。
こんな扱いをされるようなことはなにひとつしていないというのに。
エミリアは「とりあえずこれ食べて」と城で用意したご飯がのったトレーを、アールの前においた。
「姉さん、ごめん......俺......」
「うかつなのは私もだわ。しっかりとあなたたちに口止めしておけばよかったし......皇国に行くと聞いた時点でもっと気にかけておくべきだった。......ごめんなさい。あなたをこんな危険に晒してしまって」
アールは力なく首を振った。何日もご飯を食べていないのだろう。体はやせ細っていた。
「俺がお喋りなのがいけなかったんだ。ちょっと考えればこうなることは予想ついたのに......」
「そういう話はまた家でしましょう。今はカールを家の方に避難させたから」
「本当、なら、安心だ......」
「......転移魔法で森に......といいたいところだけど、牢獄中に阻害魔法が張り巡らされているから、魔法が使えないの。歩けるなら、さっさと外に行きましょう」
「......うん」
エミリアは筋力強化をかけて、弱ったアールの体を持ち上げる。いつもであれば、はしゃぐものだが、牢獄生活の疲れで無駄口も叩けない。
アールはしばらくエミリアに体を預けて、瞼を閉じる。
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「――皇帝陛下!大変です、重要参考人が牢獄から抜け出しました!」
「――なにッ!見張りはなにをしていたのだ!」
「......それが、宛がっていた見張りが全員致命傷で絶命しておりまして......綺麗に頭や心臓を一撃で打ちぬかれており......」
食事を届けに来た侍女がいくら待ってもでてこないことに疑問に思った見張りの兵士は、牢屋の様子をみに来た。
牢屋は地下室にあり、地下室の入口に見張りの兵士が2人在中している。その入口から入ると横に一列に罪人や人質を勾留する牢屋が並んでいる。
つまり、地下室の入口を閉じた状態だと、中の様子が見れない。
兵士たちは焦って急いで皇帝へと状況を伝えに来たのだった。
ハルトは怒りで血が沸騰するような熱さを覚える。いますぐこの役立たず共を殺してやりたいが、今は逃げ出したアールと食事の配膳をした侍女とやらの行方を探さねばと。
「ええいッ!多分森の魔女とやらの仕業だろう!......この俺をコケにしやがってッ!おい、いますぐ城の警備を強化しろ!蟻の子一匹城から出すな!」
「はッ!」
ハルトは玉座から立ち上がる。
羽織っていた上着を翻すと、自分が捜索隊の指揮をするべく、玉座から降りた。
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