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噂が広まる

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「......へぇ、あの魔素がこもっていて立ち入れない呪いの森の出身だったとはねぇ、にわかには信じがたいんだけど」

「本当だって!俺と5人の姉弟はあそこに住んでいる姉さんに育てられたからこそ、魔法も人並み以上に使えるんだし......」

「まぁ?おまえのテレパシーを使った交渉術も?鑑定魔法も......しかも、おまえの弟の作る魔石をみたら、信じてやりたいけどさ~。......ん?待てよ?ってことはあの森に入ってもおまえって死なないわけ?」

「死なないよ?ずっとあそこで暮らしてたんだし。あそこってば、姉さんの人除けの結界が張り込んでて、どちらにせよ許可ないと入れないけど」



ダレス商会の若人、アレンにアールは5年間の森の生活のことを話した。きっかけは、上位魔法である、鑑定のスキルを先程の宝石の商談の際に使用したことだった。



鑑定の魔法は商人や、一部の人しか知られていないレアな魔法。鑑定魔法があれば、その対象がどういう物なのか、効能、属性、ランクまで見分けることができる。



そのため、商人の間では取得方法や魔法を教えるにしても非常に高値で取引されている。さらに言えば、使い手は少なく、鑑定魔法ひとつさえあれば、小規模の商会が、国の経済の中枢を担えるほどに成長できるといっても過言ではないほど。



商人が喉から手がでても欲しい魔法だった。その鑑定魔法を商談の席で使ってのけた、アールを急いで回収したアレン。そして、ダレス商会の商会長、フォーベル・ダレスは食い気味になって何故、鑑定魔法が使えるのかを問うた。



アールの言葉全てを鵜呑みにはできない。できないのだが、その説明は妙にしっくりきた。



たしかに、浮世離れしたアールの常識、身なり、魔法の才能。人並みはずれた説明でないと納得できない。アレンとフォーベルはお互い顔を見合わせた。



金になる匂い。そして、目の前には金の卵を生む鶏が転がっているではないか。



その話を信じる、と仮定して話を進めた。

「......その話が本当だとしたら、ダレス商会の今後の発展にも繋がってくるぞ。あの森にはまだ俺たちが手がつけられていない鉱山や、薬草......魔獣。宝の山がわんさかと。おまえ、その森の主と話がつけられるのか?」



フォーベルは自分の髭を撫でながら、様子を伺うように片目だけ開けた。アールは急な展開に、戸惑いを見せるが、嘘をついても仕方がないので、頷くことにした。

「えっ......?うん。たまに、姉さんからの使いの魔獣がやってくるから、手紙を送ったら、話くらいはしてくれる......かも?」

「おい、いますぐ俺たちが森の魔女様に会いたがっていると当人に伝えろ!もし話会う機会が得られれば、おまえの給金を2倍......いやッ!5倍に増やしてやる」



指を5本すべて突き立てて、アールに見せてやる。今の給金が銀貨10枚だから、それが50枚。平民の平均月給の半年分の破格の待遇。



アールは欲に目がくらんでいしまい、後先考えずにそれに頷いた。



「わかったよ!姉さんの手紙は定期的に来るから......あ、ペース的にはもうそろそろかも!手紙を書いてくれればそれを渡します」

「アレン!いますぐ紙とペンを持ってこい!」

「わ......わかりましたッ!」









フォーベルか、アレンか......。情報が漏れたのは誰からだったのだろうか。



人が立ち入れば死んでしまうという、呪いの森に魔女が住んでいる。その噂は皇国中に広がる羽目になった。



森に捨てられた子供を拾って育てる。森にある鉱山から魔石を集めて研究している。とにかく、あの死海の森に人が住んでいるという噂で皇国中が持ち切りだった。



仮にそれが本当だとすれば、皇国の長い歴史の中で悩まされていた魔素問題と、現状の問題である税の引き上げ、商人や平民が国離れから引き起こされた経済的問題が一気に解決の目途が立つかもしれないからだ。



後者に関しては一部のものしか知らないが、長年に渡る魔素問題は皇国にとって大きな過大だった。



聖女の力が衰える度に、異世界から聖女適正のあるものを召喚する大魔法にかかる維持費も。



魔素による被害者の数の減少も一気に見込める。



そんな天からの救いの手と呼べるべき噂を、皇国内部、ひいては皇帝の耳に伝わり、その魔女の力を利用すると考えるのも。そう遅くない出来事だった。



魔女の噂を耳にした、ハルト皇帝はその噂の糸を辿る。すぐにアールの元へとたどり着き、城へ呼び出す手はずとなった。
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